スッポン 生態

スッポン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/16 09:31 UTC 版)

生態

大きく発達した水かきと軽量な甲羅による身軽さ、殺傷力の高い顎とすぐ噛み付く性格ともあわせ、甲羅による防御に頼らないのがスッポンの特色である。食性は動物食の強い雑食で魚類両生類甲殻類貝類、稀に水草等を食べる。

生息環境はクサガメイシガメと似通っているが、クサガメなどのカメよりもさらに水中生活に適応しており、水中で長時間活動でき、普段は水底で自らの体色に似た泥や砂に伏せたり、柔らかい甲羅を活かして岩の隙間に隠れたりしている。これは喉の部分の毛細血管が極度に発達していて、水中の溶存酸素をある程度取り入れることができるためである。加えて、スッポンは鼻と首が長く、鼻先をシュノーケルのように水上へ出すことで呼吸ができるため、上陸して歩行することは滅多に無い。ただし、皮膚病には弱く、護岸などで甲羅干しをしている姿も時折見かけることができる。また水中だけでなく、陸上でも素早く動くことができる。

スッポンは卵生であり、1回に10-50個の卵を産む。

利用

食用

滋養強壮の食材とされる。カロリーが低く、タンパク質脂質が多い。コラーゲンを豊富に含み、ビタミンB1B2が非常に多い[1][2][3]甲羅膀胱(俗称「尿袋」)、胆嚢(同「苦玉」)以外はすべて食べられることが特徴である。

歴史

スッポンは日本列島や中国大陸では、古くから食されていたようである。

古代中国の書『周礼』によれば、代にはスッポンを調理する人という官職があり、宮廷で古くからスッポン料理が食されていたようである。現在も安徽料理のポピュラーな食材として用いられている。

日本列島においては滋賀県に所在する栗津湖底遺跡において縄文時代中期のスッポンが出土しているが、縄文時代にカメ類を含む爬虫類の利用は哺乳類鳥類に比べて少ない[4][5]弥生時代にはスッポンの出土事例が増加する[5]。スッポンは主に西日本の食文化であったが、近世には関東地方へもたらされ[2]東京都葛飾区青戸葛西城跡から出土した動物遺体には中世末期から近世初頭の多数のスッポンが含まれている[6]

各地の料理

日本
スッポン鍋
生血の日本酒割

スッポンからとれる出汁は美味とされ、スッポンで拵えた「スープ」や雑炊、吸い物は日本料理の中では高級料理とされる。スッポンは形状が丸いため「まる」とも呼ばれ、スッポンを鍋料理にしたものはまる鍋と呼ばれる。専門店では食前酒として、スッポンの活血を日本酒やワイン等のアルコールで割ったものを供す[7]。スッポンを解体することを専門用語では「四つ解き」(よつほどき)とも言う。

朝鮮半島

韓国では、サムゲタン(参鶏湯)に高級食材を加えたヨンボンタン(龍鳳湯)の食材に用いられることがある。北朝鮮では、丸煮が玉流館の名物料理である[8]

養殖

食用のカメの養殖のことを、養鼈(ようべつ)という。

日本では、1879年浜名湖で養殖されたのが始まりで[3]、多くの府県で食用のスッポンの養殖が行われている。養殖の手法には、野生のスッポンと同様に冬眠させて行う露地養殖と、ビニールハウスや温泉などを利用した加温養殖がある[3]

スッポン科で大型のコブクビスッポン(Palea steindachneri )やマルスッポンなどは中国では食用として珍重されていたが、養殖が進まず、絶滅が危惧されている。

薬用

甲羅を乾燥させたものを土鼈甲(どべっこう。土別甲とも)といい、強壮等の薬理作用があるとされる[9]。粉末にして精力剤とされるほか、市販の栄養ドリンク健康食品の原材料に用いられることも多い。全体を乾燥して粉末化した健康食品に用いられることも多い。

文化

タブー

古代中国では、スッポンの肉とヒユを混ぜて放置するとスッポンが生まれるとされ、同時に食べた場合はスッポンが腹を食い破ると伝えられた。そのため日本の養老律でも、天皇の食事にスッポンとヒユを同時に出した者は罰せられると規定された。

伝承

北越奇談』にあるスッポンにまつわる怪談「亀六泥亀の怪を見て僧となる」(葛飾北斎画)[10]

かつて日本ではキツネタヌキといった動物と同様、土地によってはスッポンも妖怪視され、人間の子供をさらったり血を吸ったりするといわれていた[11]。また「食いついて離さない」と喩えられたことから大変執念深い性格で、あまりスッポン料理を食べ過ぎると幽霊になって祟るともいわれた[12]

江戸時代には、ある大繁盛していたスッポン屋の主人が寝床で無数のスッポンの霊に苦しめられる話が北陸地方の奇談集『北越奇談』にある他[10]、名古屋でいつもスッポンを食べていた男がこの霊に取り憑かれ、顔や手足がスッポンのような形になってしまったという話が残されている[12]。また古書『怪談旅之曙』によれば、ある百姓がスッポンを売って生活していたところ、執念深いスッポンの怨霊が身長十丈の妖怪・高入道となって現れ、そればかりかその百姓のもとに生まれた子は、スッポンのように上唇が尖り、目が丸く鋭く、手足に水かきがあり、ミミズを常食したという[13]

近代でも、一度噛みつかれると「が鳴っても離さない」と言い伝えられてきた。

文章表現

スッポン食に関係する諺(ことわざ)として、「鼈人を食わんとして却って人に食わる」がある。物事をしつこく探求する者を「スッポンの何某」と呼ぶこともあった。

前近代の中国人は、漁業で生活する異民族を「魚鼈(ぎょべつ)にまみれる」と表現した。


  1. ^ 肉類/<その他>/すっぽん/肉/生 - 一般成分-無機質-ビタミン類-アミノ酸-脂肪酸-炭水化物-有機酸等”. 食品成分データベース. 文部科学省. 2021年12月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年12月12日閲覧。
  2. ^ a b スッポン”. e食材辞典. 第一三共株式会社. 2021年1月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年12月12日閲覧。
  3. ^ a b c “日本で初めてスッポンの養殖を開始。カレーやサプリなど新商品を次々と開発”. しんきん経営情報-トップインタビュー (ダイヤモンド・オンライン). (2021年10月1日). オリジナルの2021年9月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210930234439/https://diamond.jp/articles/-/283064 
  4. ^ 伊庭, 功「粟津湖底遺跡の発掘調査(湖底に沈んだ縄文時代中期の貝塚)」『滋賀考古』第5号、1990年、 50-51頁。
  5. ^ a b 新美倫子「鳥獣類相の変遷」『縄文時代の考古学4 人と動物の関わりあい』(同成社、2010年)、pp.146 - 147
  6. ^ 樋泉岳二「漁撈活動の変遷」西本豊弘編『人と動物の日本史1 動物の考古学』(吉川弘文館、2008年)、p.143
  7. ^ 楊貴妃も愛した?!旬の「スッポン」”. 一般財団法人 日本educe食育総合研究所. 2021年1月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年12月11日閲覧。
  8. ^ “名料理を新たに登録/スッポン丸煮、チョウザメ冷製煮物など”. 朝鮮新報. (2021年6月7日). オリジナルの2021年12月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20211212010512/https://www.chosonsinbo.com/jp/2021/06/07-33/ 
  9. ^ 土別甲 生薬学術情報”. 伝統医薬データベース. 富山大学和漢医薬学総合研究所. 2021年12月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年12月12日閲覧。
  10. ^ a b 京極夏彦他編著 『北斎妖怪百景』国書刊行会、2004年、131頁。ISBN 978-4-336-04636-9 
  11. ^ 村上健司編著 『妖怪事典』毎日新聞社、2000年、198頁。ISBN 978-4-620-31428-0 
  12. ^ a b 水木しげる妖鬼化』 2巻、Softgarage、2004年、84頁。ISBN 978-4-86133-005-6 
  13. ^ 江馬務 『日本妖怪変化史』中央公論新社中公文庫〉、1976年、37頁。ISBN 978-4-12-200349-1 


「スッポン」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「スッポン」の関連用語

スッポンのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



スッポンのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのスッポン (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2022 GRAS Group, Inc.RSS