ジョン・ラーベ 中国国民党との関わり

ジョン・ラーベ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/26 16:29 UTC 版)

中国国民党との関わり

満州国設立により国際社会で孤立を深めていた日本にとって1930年代後半ドイツは数少ない友好国でかつ有力国であった。1936年11月には実体的効果はともかくとして日独防共協定が締結、さらには1937年11月にはイタリアが参加、日独伊三国防共協定に発展した。協定自体は反共を掲げていたものの同時に、国際関係では武力拡大を目指す"持たざる国"、国内政治では反民主主義・反自由主義傾向を強めている体制などの共通性から互いに枢軸国グループとしての意識を強めていっていた。このことは紆余曲折はありながらも1940年9月の日独伊三国軍事同盟に繋がっていくが、他方で、ドイツは中国との貿易利益に着目し友好関係を維持するため当時軍事顧問団を派遣し1億マルクの借款供与による武器援助契約を締結する等、日本と中国は互いにドイツを相手陣営に入れないよう、綱引きしている状態でもあった[5]。シーメンス社は日本では年輩の人間にはシ-メンス事件(独語でジーメンス事件とも)により軍需産業会社として知られるが、もともと総合電機メーカーとして軍需関係はごく一部で、シーメンス事件においても同社の納入品は照明等電気・通信設備であり、さらに、この頃は先の第一次大戦のドイツの敗北により武器輸出が禁止され、兵器製造は行っていなかったとされており、ラーベは中国に電話施設や発電所施設を売っていた。(その一方で、同じドイツのクルップ社は便法を講じて武器類の開発・輸出等を再開し、その高射砲等を軍事顧問団を介しカルロヴィッツ商会・ハプロ社等を通じて中国に売っていたとされる。)

これに対し、シーメンス社などの駐在員たちも中国への武器輸出を裏で仲介していたのではないか、特に中国滞在30年の最古参の社員かつナチス党南京副支部長でもあったラーベがこれに全く関与していなかったとは考えにくいという主張がある。(ただし、ドイツ製兵器の導入に役割を果たした軍事顧問団員はナチス関係者ではなく元国防軍関係者が主体である。)田中正明は「ラーベの所属するシーメンス社は、兵器や通信機の有名な製作会社である。ラーベの納めた高射砲は当時日本にもない優秀なものであった」と、ラーベが対中国国民党の武器商人であったという説を発表した[6]。(ただし、これはクルップ社による高射砲等のことを勘違いしているものと思われる。)また、読売新聞取材班による特集連載では、ミュンヘンのジーメンス本社付属博物館に、ラーベ自身がタイプ打ちした二百十五ページの手記「中国のジーメンス・コンツェルンでの二十五年」が残されており、学芸員は「(当時の)わが社は武器を製造したことはないはずで、ラーベの記述にも武器関係はない」と語ったとする一方で、アメリカハーバード大学ウィリアム・カービー教授は、シーメンス社がオランダの複数の会社を通じて中国へ武器を売っていたとし[7]成城大学教授の田嶋信雄は「1920年代のラーベは武器貿易にかかわったはず」と見ていることを紹介している[8]


  1. ^ ドイツ語の発音ではヨーンのほうが近いが、英語読みである「ジョン」の表記が一般的である。なぜなら「ラーベが生まれた港町ハンブルクでは、当時英語名のこの名前がドイツ人にもしばしば命名され、発音も英語であったためである」とラーベの長女が梶村太一郎に証言している。
  2. ^ a b c d 梶村太一郎「ゆがめられたラーベの人物像」『週刊金曜日』、1997.12.5号。
  3. ^ 原著P.344
  4. ^ 朝日新聞』1997年10月8日記事
  5. ^ 抗日戦争とナチス・ドイツ”. 東京大学社会科学研究所. 2022年1月29日閲覧。
  6. ^ 『月刊日本』1998年1月号、55ページ。
  7. ^ William C. Kirby, Germany and Republican China, Stanford University Press (1984)ほか。読売新聞「20世紀取材班・20世紀欧州大戦」中公文庫も参照
  8. ^ 『ナチズム極東戦略――日独防共協定を巡る諜報戦』(講談社)ほか。また田嶋による関係文献については[1]を参照。読売新聞「20世紀取材班・20世紀欧州大戦」中公文庫も参照


「ジョン・ラーベ」の続きの解説一覧




固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ジョン・ラーベ」の関連用語

ジョン・ラーベのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ジョン・ラーベのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのジョン・ラーベ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS