クワ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/11 21:09 UTC 版)
害虫
カイコガとその祖先とされるクワコ以外にもクワを食草とするガの幼虫がおり、クワエダシャク、クワノメイガ、アメリカシロヒトリ、セスジヒトリなどが代表的。クワエダシャクの幼虫はクワの枝に擬態し、枝と見間違えて、土瓶を掛けようとすると落ちて割れるため「土瓶割り」という俗称がある。クワシントメタマバエもクワの木によく見られる。カミキリムシには幼虫がクワの生木を食害する種が極めて多く、クワカミキリ、センノカミキリ、トラフカミキリ、キボシカミキリ、ゴマダラカミキリなどが代表的である。これらのカミキリムシは農林業害虫として林業試験場の研究対象となっており、実験用の個体を大量飼育するため、クワの葉や材を原料としソーセージ状に加工された人工飼料も開発されている。なお、オニホソコバネカミキリも幼虫がクワの材を専食するカミキリムシであるが、摂食するのが農林業に利用されない巨大な古木の枯死腐朽部であるため害虫とは見なされていない。
神話・伝承
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古代バビロニアにおいて、桑の実はもともとは白い実だけとされるが、赤い実と紫の実を付けるのは、ギリシャ神話の『ピュラモスとティスベ』という悲恋によるこの二人の赤い血が、白いその実を染め、ピュラモスの血が直接かかり赤となり、ティスベの血を桑の木が大地から吸い上げて紫になったとされている。
桑の弓、桑弓(そうきゅう)ともいい、男の子が生まれた時に前途の厄を払うため、家の四方に向かって桑の弓で蓬の矢を射た。起源は古代中華文明圏による男子の立身出世を願った通過儀礼で、日本に伝わって男子の厄除けの神事となった。桑の弓は桑の木で作った弓、蓬の矢は蓬の葉で羽を矧いだ(はいだ)矢。
養蚕発祥の地、中国においてはクワは聖なる木だった。地理書『山海経』において10個の太陽が昇ってくる扶桑という神木があったが、羿(げい)という射手が9個を射抜き昇る太陽の数は1個にしたため、天が安らぎ、地も喜んだと書き残されている。太陽の運行に関わり、世界樹的な役目を担っていた。詩書『詩経』においてもクワはたびたび題材となり、クワ摘みにおいて男女のおおらかな恋が歌われた。小説『三国志演義』においては劉備の生家の東南に大きな桑の木が枝葉を繁らせていたと描かれている。
日本においてもクワは霊力があるとみなされ、特に前述の薬効を備えていたことからカイコとともに普及した。古代日本ではクワは箸や杖という形で中風を防ぐとされ、鎌倉時代喫茶養生記においては「桑は是れ又仙薬の上首」ともてはやされている。
文学
桑原、桑原
雷よけのまじないとして広く使われた言葉であるが、最も知られている由来は桑原村の井戸に雷が落ち、蓋をしたところ雷が「もう桑原に落ちないから逃がしてくれ」と約束したためという説[注釈 2]があり、これにはクワ自体は関わりがない。しかし、諸説の中には宮崎県福島村でクワの上に雷が落ち、雷がけがをしたので落ちないようになったという説、沖縄県では雷がクワのまたに挟まれて消えたため雷鳴の折には「桑木のまた」と唱えるようになった[29]という説もある。
ことわざ・慣用句
- 滄桑の変 - 桑田滄海ともいい、クワ畑がいつのまにか海に変わるような天地の激しい流転の意。神仙伝が出典であり、仙女の麻姑が500年間の変化として話した内容から生まれた。月日の流れの無常を示す言葉として、唐代の劉廷芝の詩にも使われている[30]。
- 蓬矢桑弓(ほうしそうきゅう) - もともとは上記にある中華・日本においての男子の祭事や神事であるが、払い清めをあらわす言葉の比喩として万葉集や古事記にも用いられ、「蓬矢」・「桑弓」それぞれ単独でも同じ意味を持つ。
- 桑中之喜(そうちゅうのき、そうちゅうのよろこび) - 畑の中で男女がひそかに会う楽しみのこと[31]。中国では、桑畑の中や桑の木を目印としてその下で逢引をしていたと言われ、『詩経』鄘風(ヨウフウ)篇には桑畑で美女を待つ「桑中」という詩が記載されている[31]。永井荷風の随筆にも、色事について書いた「桑中喜語」がある[32]。
注釈
出典
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- ^ Tsutsui O., Sakamoto R., Obayashi M., Yamakawa S., Handa T., Nishio-Hamane D., Matsuda I (2016). “Light and SEM observation of opal phytoliths in the mulberry leaf”. Flora 218: 44-50. doi:10.1016/j.flora.2015.11.006.
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- ^ a b 辻井達一 1995, p. 145.
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- ^ a b c d e 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 63.
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- ^ 植村峻 『お札の文化史』 NTT出版、1994年。p.10-11
- ^ “年产20万吨桑杆造纸项目拟落户来宾” (中国語). 新华网. 2011年12月30日閲覧。
- ^ 石田栄一郎「桑原考」
- ^ 足田輝一『植物ことわざ事典』(東京堂出版、1995年)ISBN 4-490-10394-8
- ^ a b 今日の四字熟語No.1183 【桑中之喜】 そうちゅうのき八重樫一、福島みんなのニュース
- ^ 桑中喜語永井荷風、青空文庫
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