カキ (貝) 養殖

カキ (貝)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/16 16:13 UTC 版)

養殖

フランス産の緑牡蠣(マガキ)
フランスのベロンでの養殖

カキの中でもマガキ属(Crassosrea)は世界的に食用目的での養殖が最も多い二枚貝である[6]。主な養殖方法は海中にぶら下げる方法(筏垂下)とある程度育った貝を海底に撒く方法(地蒔き)があり、古代ローマ時代は地蒔きによる方法で行われたが[7]、現在の日本では海中にぶら下げる方法が主流となっている[8]

現在の養殖の方法は、カキの幼生が浮遊し始めるの初めにホタテの貝殻を海中に吊るすと幼生が貝殻に付着するので、後は餌が豊富な場所に放っておくだけというものである。野生のものは餌が少ない波消しブロックや磯などに付着するため、総じて養殖物の方が身が大きくて味も良い。欧米では種ガキを原盤(フランス語ではクペール)という網状の円盤で採取するが、ある程度大きくなるとそれから外して網籠に入れて干満の差が大きい場所の棚に置くか干潟にばら撒いて育成する。この方式はホタテガイで種ガキを海中につけっぱなしにしておく日本の方式よりも身が大きくなりやすい。(カキ養殖に関しては(英語版)en:Oyster farmingも参照のこと)

天然イワガキでは岩盤やコンクリート製波消しブロックなどの人工構造物に付着した貝を漁獲することもあるが、貝の産卵最盛期を過ぎた後に海中の岩盤やブロックの表面を清掃する事で稚貝の付着を増加させ漁獲量を増加させる方法も行われる[9]

カキの餌となる植物プランクトンを増やすため、栄養塩が湾に流れ込む川の上流の植林なども行われている[10]

養殖法

石蒔式
干潟に石を並べ、自然に付着した貝を育てる方法。生産性は高くないが容易に出来る。
杭に取り付けられたカゴにカキが入れられている
広島市天満川河口に設置された杭
瀬戸内海でよくみられるカキ養殖筏(頭島
筏方式の養殖で使われるホタテの貝殻
垂下方式
  1. 日本で最も多く行われている筏方式は、1950年代以降急速に普及拡大した技法である。ロープ針金に等間隔で付着基材となるホタテガイの貝殻を固定し、貝殻に付着したカキを潮通しの良い海域に設置したに吊す方法。季節毎に筏の設置場所を移動し、湾内の広い水域を養殖場として利用できる。このため効率が良く成長が早く、1年で出荷可能な大きさにまで育ち、大量生産が可能になった。しかし、筏垂下では成長に伴うロスのほか台風や時化により付着基材からカキが脱落したり、波浪のため筏が損傷したりする事がある。一方、延縄(はえなわ)方式の養殖法を用いると脱落を減少させる事が可能であると報告されている[11]
  2. 篭方式は主に「殻付きカキ」として流通させるカキを養殖する方法として行われる。ある程度の大きさに育った稚貝を網や篭に入れ、筏から吊す方法[12]。貝の成長に伴い脱落するロスを減少させられるが、網内の貝密度が高いと成長が悪くなる。この方法による生産品のいくつかは『一粒かき』として地域ブランド化され流通している[13]
  3. 杭打式の方式は、干潟に立てた竹杭に設置した横置きの竿や棚からロープや針金を吊す技法で、1930年代から1950年代まで行われ、筏方式の普及に伴い衰退した。
地蒔
干潟の泥砂底にある程度の大きさに育った稚貝を蒔いて育てる方法。古代ローマ時代から行われていた[7]とされ、日本では1950年代後半まで有明海沿岸などで行われたが、ノリ養殖が盛んになり衰退した[14]
ひび建養殖法
広葉樹雑木の枝や竹を干潟に差し養殖する方法。江戸時代から1940年代まで行われた。
浮体養殖法[15]
海底に鋼製の魚礁を設置し、魚礁と浮体となるブイの間をロープでつなぎロープに数カ所、種となる稚貝の付いた基材を取り付ける方法。ブイと海面間の距離を4〜5m とすることで「養殖場の上を船舶が航行できる」「ムラサキイガイなどの付着が垂下方式と比べ少ない」「海面下にあるため波浪の影響を受けにくく、波の強い外海に面した水域が使用できる」「魚礁としての集魚効果が高い」などの利点があると報告されている[16]
陸上養殖
食中毒の原因となる寄生虫や病原微生物が少ない地下海水を使う陸上養殖も、日本では行われている。JR西日本大崎上島(広島県)で育てた陸上養殖カキを「オイスターぼんぼん」の商品名で出荷している[17]

  1. ^ a b c d e f 鎮西清高、『カキの古生態学』 Fossils. (31), 27-34, 1982-06-21, NAID 110002703443
  2. ^ 軍人秋山真之は幼なじみの正岡子規に「軍艦は遠洋航海に出て帰ってくると、船底にかきがら(蠣殻)がくっついて船あしがおちる」と書いている(司馬遼太郎坂の上の雲』)。こうした水棲生物のために船底塗料が使われる。
  3. ^ a b 横山芳春、安藤寿男、橋本聡子、『大規模カキ化石密集層のタフォノミー : 茨城県霞ヶ浦周辺の第四系更新統下総層群を例に』 Fossils. (76), 32-45, 2004-09-22, NAID 10017457601
  4. ^ 阿部泰宜、カキ(牡蠣)編:愉「貝」な仲間たち!
  5. ^ かき 環境省 せとうちネット
  6. ^ a b 荒西太士、沖本宜音、飯塚祐輔ほか、『分子進化解析によるCrassostrea属の異所的種分化』 Bulletin of the Faculty of Agriculture, Miyazaki University 52(1/2), 21-27, 2006-03-23, NAID 110004870291
  7. ^ a b Higginbotham, James Arnold (1997-01-01). Piscinae: Artificial Fishponds in Roman Italy. UNC Press Books. ISBN 9780807823293. https://books.google.com/books?id=cPyDuRqA2jEC 
  8. ^ かき(牡蠣)の歴史 兵庫教育大学大学院 關浩和研究室
  9. ^ 岩盤清掃によるイワガキ増殖技術の開発 鳥取県栽培漁業センター 鳥取県栽培漁業センター 増殖技術科
  10. ^ 漁民の森作り - 広島県漁業協同組合HP。
  11. ^ 延縄式養殖施設を用いたカキ養殖試験 福岡県水産海洋技術センター豊前海研究所 水産総合研究センター 平成12年度瀬戸内海区ブロック研究成果情報
  12. ^ 一粒かき養殖の定着化のための 技術開発研究 (PDF) 広島県
  13. ^ 豊前海一粒かき 苅田町漁業協同組合
  14. ^ 伊藤輝昭、松本昌大、有明海における有用カキ 3 種の分布と採苗に関する研究 福岡県水産海洋技術センター研究報告 第23号 2013年3月 (PDF)
  15. ^ a b 白藤徳夫、和田洋藏、西垣友和ほか、【原著論文】鋼製魚礁を用いたイワガキの浮体式養殖法 水産増殖 Vol.56 (2008) No.2 p.203-209, doi:10.11233/aquaculturesci.56.203
  16. ^ 西垣友和、白藤徳夫、八谷光介、和田洋藏、浮体式イワガキ養殖機能を有した鋼製魚礁の開発 京都府立海洋センター 海洋生物部 増殖グループ
  17. ^ 「オイスターぼんぼん」11月30日から順次販売開始!オイスターバーに加え、新たにホテルグランヴィア、寿司・和食店、割烹、フランス料理店、カフェレストランでも!ご自宅でお召し上がりいただけるようインターネットでも販売開始!JR西日本プレスリリース(2017年11月30日)(
  18. ^ 岩崎健史、田中智美、飯塚祐輔ほか、 『マガキ属自然交雑個体の二対立遺伝子解析』 Laguna(汽水域研究) 16, 13-18, 2009-06, NAID 110007366864
  19. ^ イワガキ養殖における開始時最適付着稚貝数と最適養殖水深についてイワガキ養殖における開始時最適付着稚貝数と最適養殖水深について 京都府立海洋センター研究報告 (20), 13-19, 1998-03, NAID 80010587445
  20. ^ a b 田中彌太郎、有明海産重要二枚貝の産卵期-II 日本水産学会誌 Vol.19 (1953-1954) No.12 P1161-1164, doi:10.2331/suisan.19.1161
  21. ^ 飯塚祐輔、シカメガキの分布生態学的研究 (PDF)
  22. ^ 飯塚祐輔、荒西太士、九州に分布するイタボガキ科カキ類の DNA 鑑定 (PDF) LAGUNA(汽水域研究)No. 15 December 2008, p.69-76
  23. ^ 在日フランス大使館の2020年3月13日のツイート2020年3月14日閲覧。
  24. ^ 在日フランス大使館の2020年3月13日のツイート2020年3月14日閲覧。
  25. ^ a b c d e f 林輝明「薬になる動植物:第37回:牡蛎」『漢方医薬新聞』第465号、2009年11月25日、 p.p.3。
  26. ^ 驚き○○で カキフライ”. 所さんの目がテン!. 日本テレビ放送網 (2004年11月7日). 2008年12月30日閲覧。
  27. ^ 一例として 中区解体新書 - 横浜市中区(1994年3月)p.27 に記載あり
  28. ^ 厚生労働省(PDF) 『第十五改正日本薬局方』厚生労働省、2006年3月31日、p.p.1271-1272頁https://jpdb.nihs.go.jp/jp15/YAKKYOKUHOU15.pdf2009年12月16日閲覧 
  29. ^ 森本正則、守本信一、宮本信彦ほか、『ケイ酸入り牡蠣殻石灰粒状肥料の水稲施肥試験』 近畿大学資源再生研究所報告 (7), 57-61, 2009-03, NAID 120003184680
  30. ^ カキ殻(かきがら) 月刊 『近代農業』 農文協データベース
  31. ^ a b 精選版 日本国語大辞典『牡蠣殻葺』 - コトバンク
  32. ^ 精選版 日本国語大辞典『牡蠣殻屋根』 - コトバンク
  33. ^ “牡蠣|水の話”, フジクリーン工業株式会社, https://www.fujiclean.co.jp/fujiclean/story/vol50/part202.html 2022年2月18日閲覧。 
  34. ^ 生かき生産管理における各作業工程の注意点 宮城県 (PDF)
  35. ^ 生かきの衛生的な取扱い 東京都福祉保健局
  36. ^ a b 貝毒対策 宮城県
  37. ^ 広島かきの衛生対策 広島県
  38. ^ みえのカキ安心確保の取り組みについて 三重県
  39. ^ 食品表示のおいしい読み方:/11 カキの「生食用」は新鮮なわけじゃない!? - 毎日jp(毎日新聞)
  40. ^ 高田久美代、高辻英之、妹尾正登「麻痺性貝毒により毒化したマガキのろ過海水中での蓄養による減毒」『日本水産学会誌』第74巻第1号、公益社団法人日本水産学会、2008年1月15日、 78-80頁、 doi:10.2331/suisan.74.78NAID 110006595212
  41. ^ 清水晃、尾崎潤一郎、河野潤一ほか、魚介類および食肉からの黄色ブドウ球菌の分離と性状 食品と微生物 Vol.8 (1991-1992) No.3 P.135-141, doi:10.14840/jsfm1984.8.135
  42. ^ 糞便系大腸菌群及び大腸菌について 食品分析開発センター
  43. ^ a b 飲食物の安全性に関する細菌学的研究(第7報)-食用カキを対象として- (PDF) 東京家政学院大学紀要 第47号 p.1-10
  44. ^ 沸騰した湯で最低でも1 - 2分程度、約180度前後の油で4分以上揚げることで食中毒の危険性は大幅に軽減する。
  45. ^ 食品中のノロウイルスP13 (PDF) - 食品安全委員会サイト内
  46. ^ 食品中のノロウイルスP5 (PDF) - 食品安全委員会サイト内
  47. ^ ノロウイルスに関するQ&A”. 食中毒に関する情報. 厚生労働省 (2007年12月20日). 2008年12月30日閲覧。
  48. ^ 平成27年漁業・養殖業生産統計(概数値) 農林水産省
  49. ^ 海面漁業生産統計調査 長期累年 総務省統計局
  50. ^ 生かきの取扱いと届出制度”. 百貝万魚 東京市場の水産物安全情報. 東京都市場衛生検査所. 2008年12月30日閲覧。
  51. ^ 小曽戸洋「『日本薬局方』(15改正)収載漢薬の来源」『生薬学雑誌』第61巻第2号、2007年、 p.p.76、 ISSN 00374377NAID 40015616633
  52. ^ サザエであれば「ふんどし」と呼ばれる部分が相当する
  53. ^ 緑色をしたカキもあるがこれは餌の違いによるもので、あまり一般的ではない
  54. ^ 宮原桂 『漢方ポケット図鑑』源草社、2008年、194頁。ISBN 4-906668-62-3 





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