アメリカン・ピット・ブル・テリア 歴史

アメリカン・ピット・ブル・テリア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/08 14:08 UTC 版)

歴史

レッドノーズの子犬
成犬
断耳された個体

アメリカン・ピット・ブル・テリアは、1870年代イギリスからアメリカ合衆国に輸入された闘犬用のスタッフォードシャー・ブル・テリアから作出された犬種である[10]。アメリカン・ブルドッグなどを厳選して交配し、四肢の長い犬となった。1898年、同年に創設されたユナイテッド・ケネルクラブにより、犬種として公認された。

アメリカ合衆国では1900年に闘犬が禁止されたが、非合法な賭博を伴う闘犬は20世紀を通じて盛んに行われ、1990年代でも年間約1500頭のピット・ブル・テリアが闘犬により死亡したという[10]。その一方で、飼い主に対しては忠実であるところなどから家庭犬としての人気もある[10]。なお、ほぼ同じ容姿を持つアメリカン・スタッフォードシャー・テリアは、性格をより温厚にした犬種とされ、1936年アメリカン・ケネルクラブに公認されている。

ピット・ブル・テリアは1980年代にイギリスに多く輸入されたが、人間に重傷を負わせる事故が多発したため、1991年に輸入・所有を禁止する「危険犬法」(Dangerous Dogs Act)が成立した。イギリスではこの法を回避して本犬種を飼うために、「アイリッシュ・スタッフォードシャー・ブル・テリア」といった名前で取引されることもある[11]

特徴

筋肉質で力が強く、身体能力は高い。一般的に、必要運動量は毎日2時間以上の運動1~2回。

凶暴性

トレーニングされていれば普段は忠実で人懐っこいが、いったんスイッチが入ってしまうと死ぬまで攻撃をし続けるとされる。そして、「何がスイッチとなるのか、どうしたら止められるのか」がわかっていない[1]。さらに、どの個体が絶対やらないといえるかという保証はない。噛みつき防止には口輪の着用が有効である[1]

アメリカ合衆国やイギリスでは、闘犬として育てられた歴史のある犬種である。闘犬として育てられた場合、人や他の犬への攻撃性が危惧されるため、安全な管理下におくことが推奨されている。米国疾病対策センター (CDC) の調査によると、1979-1998年の20年間における犬を原因とする人間死亡事故238件のうち、犬種別で1位(66件)に位置した[12]。また、2020年にはアメリカで犬を原因とする死亡事故が46件発生しており、飼育犬中の占有率が6.2%なのに対し、死亡事故原因の72%(33件)を占めた[13]

近年においても被害者が死亡或いは重大な後遺障害を残す事故が後を絶たない。実例としては2021年のアメリカだけでも「赤ん坊がかみ殺される(ノースカロライナ州)[1]」「少女がかみ殺される(ノースカロライナ州)[2](ルイジアナ州)[3]」「4歳男児の腕が噛まれ完全に切断される(オクラホマ州)[4]」が挙げられる。2020年に唇を噛み千切られ移植手術後も大きな傷跡を残した者がその傷痕をVlogで公開した他[5]、2022年にはニューヨーク州で70歳女性が顔と腕と足が切断され食べられていたという凄惨な事故も起こっている[6]

アメリカでは2021年8月1日~2022年7月31日の1年間に事故が400件以上もあり、その1割近くが死亡事故であった[1]

法的制限

豪州[14]エクアドル[15]マレーシア[16]、ニュージーランド[17]、プエルトリコ[18]、シンガポール[19]ベネズエラ[20]、デンマーク、フランス、ドイツ、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、ポルトガル、スペイン[21]では、犬種指定による法的規制が存在し、輸入と所有が禁止や制限されている[21][22]。豪州のニューサウスウェールズ州では強制的避妊を含む厳しい規制がある[23][24]

米国でも市・郡によっては所有が禁止されている。カナダのオンタリオ州でも所有禁止[21][25]。英国では所有禁止4犬種のうちの一つ[26]

2012年7月11日、北アイルランドベルファスト市議会は、禁止規定に違反して飼育されていた7歳のピットブルの殺処分を行ったが、強い非難を浴びた。これには各国の愛犬家に加えて有名人や政治家など20万人が助命嘆願に署名していた[27]


  1. ^ a b c d 動物行動学の専門家から緊急提言「ピットブルは飼うには危険すぎる犬種です」(高倉 はるか)”. FRaU | 講談社 (2022年11月1日). 2023年11月26日閲覧。
  2. ^ a b c UKC Standard of the American Pit Bull Terrier” (2017年). 2017年4月1日閲覧。
  3. ^ a b ADBA Standard of the American pit bull terrier” (2018年). 2018年2月2日閲覧。
  4. ^ “Official list of all American Kennel Club dog breeds”. American Kennel Club. https://www.akc.org/dog-breeds/ 2019年3月14日閲覧。 
  5. ^ Dog Coat Patterns – Caninest.com” (2018年). 2018年2月5日閲覧。
  6. ^ ADBA – American Pit Bull Terrier Color Chart Gallery” (2018年). 2018年2月5日閲覧。
  7. ^ Controlling your dog in public” (英語). GOV.UK. 2022年10月21日閲覧。
  8. ^ Information on The Dog Owners' Liability Act and Public Safety Related to Dogs Statute Law Amendment Act, 2005”. Ministry of the Attorney General. 2009年12月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年7月25日閲覧。
  9. ^ BSL Continues To Crumble” (英語). Pitbullinfo.org. 2021年11月15日閲覧。
  10. ^ a b c デズモンド・モリス著、福山英也監修『デズモンド・モリスの犬種事典』誠文堂新光社、2007年、301ページ
  11. ^ Daniel Foggo; Adam Lusher (2002年6月2日). “Trade in 'Irish' pit bulls flouts dog law”. The Daily Telegraph. http://www.telegraph.co.uk/news/uknews/1396088/Trade-in-Irish-pit-bulls-flouts-dog-law.html 2010年10月12日閲覧。 
  12. ^ Breeds of dogs involved in fatal human attacksin the United States between 1979 and 1998 (PDF)
  13. ^ 2020 dog bite fatalities
  14. ^ Customs (Prohibited Imports) Regulations 1956 No. 90, as amended – Schedule 1”. Commonwealth of Australia (2009年7月6日). 2009年6月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年7月18日閲覧。
  15. ^ “Ecuador descalifica a perros pit bull y rottweiler como mascotas” (Spanish). Ecuador: Diaro Hoy. (2009年2月4日). http://www.hoy.com.ec/noticias-ecuador/ecuador-descalifica-a-perros-pit-bull-y-rottweiler-como-mascotas-332398.html 2009年8月24日閲覧。 
  16. ^ A.Hamid, Rashita (2012年5月9日). “Pit bull kills jogger”. The Star (Kuala Lumpur, Malaysia). http://thestar.com.my/news/story.asp?file=/2012/5/9/nation/11255532&sec=nation 2012年5月9日閲覧。 
  17. ^ Dog Control Amendment Act of 2003”. New Zealand Department of Internal Affairs (2009年7月2日). 2009年8月2日閲覧。
  18. ^ H.B. 595 (Law 198) – Approved July 23, 1998”. Puerto Rico Office of Legislative Services (1998年7月23日). 2009年8月4日閲覧。
  19. ^ AVA.gov.sg
  20. ^ “Venezuela restringe tenencia de perros Pit Bull” (Spanish). La Prensa (Managua, Nicaragua). (2010年1月6日). http://www.laprensa.com.ni/2010/01/06/internacionales/12316 2010年1月8日閲覧。 
  21. ^ a b c Vancouver.ca
  22. ^ Dogbitelaw.com
  23. ^ Barlow, Karen (2005年5月3日). “NSW bans pit bull terrier breed”. Sydney, Australia: Australian Broadcasting Corporation. http://www.abc.net.au/pm/content/2005/s1359018.htm 2009年12月23日閲覧。 
  24. ^ Hughes, Gary (2009年10月20日). “Pit bull bite prompts call for national approach to dangerous dog breeds”. The Australian (Sydney, Australia). http://www.theaustralian.com.au/news/pit-bull-bite-prompts-call-for-national-approach-to-dangerous-dog-breeds/story-e6frg6of-1225788552051 2009年12月23日閲覧。 
  25. ^ Information on The Dog Owners' Liability Act and Public Safety Related to Dogs Statute Law Amendment Act, 2005”. Ministry of the Attorney General of Ontario. 2009年12月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年1月8日閲覧。
  26. ^ James, David (2006年9月29日). “Are dangerous dogs out of control?”. WalesOnline. 2010年10月13日閲覧。
  27. ^ 「禁止犬種」に指定の飼い犬、市が取り上げ殺処分 各国愛犬家から批判”. CNN (2012年7月12日). 2012年7月14日閲覧。
  28. ^ 闘犬種にかまれた女性が全治40日 飼い主を書類送検:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル(2020年7月6日). 2020年7月6日閲覧。
  29. ^ 日本放送協会. “大型犬 女性にかみつき大けが 飼い主を書類送検 千葉 銚子”. NHKニュース(2020年7月6日). 2020年7月6日閲覧。
  30. ^ 女性が闘犬にかまれ重傷 抱いていた愛犬も死ぬ 放し飼いの男を書類送検 千葉”. ライブドアニュース(2020年7月6日). 2020年7月6日閲覧。






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