qsarとは? わかりやすく解説

キューサー【QSAR】


定量的構造活性相関

(qsar から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/07/04 13:27 UTC 版)

定量的構造活性相関(ていりょうてきこうぞうかっせいそうかん)は化学物質の構造と生物学的(薬学的あるいは毒性学的)な活性との間になりたつ量的関係のこと。これにより構造的に類似した化合物の「薬効」について予測することを目的とする。QSAR(=Quantitative Structure-Activity(またはAffinity) Relationshipの略)と呼ばれることもある。QSARを英語では「クェイサー」、日本語では「キューサー」と発音することが多い。

それに対し化学構造と物理的性質との関係を定量的構造物性相関(QSPR、Quantitative Structure-Property Relationship)という。両者は密接な関係があり方法論的にも共通する部分が多い。 コーウィン・ハンシュによって研究が始められ、1964年にハンシュと藤田稔夫が発表した方法(ハンシュ-藤田法)が代表的な方法として知られる。

方法としては、化合物の疎水性、対象とする化合物の構造を表現する数量(幾何学的構造を表す記述子、HOMOLUMO(フロンティア軌道理論参照)のエネルギー、あるいはハメットの置換基定数電気陰性度といった電子的記述子など)を抽出し、構造的に類似する一連の物質に関してこれら数量と活性との関係を統計学的に(回帰分析などを用い)検討する。

なお、記述子としては化合物に関するパラメタを使用しているが、基本的には薬物標的分子と化合物との相互作用を前提とした手法であり、実際に定量的構造活性相関研究の結果から薬物標的-化合物間の相互作用様式を推定するといった使用法もしばしば見られる。

計算化学の一部門であり、方法的には計算機化学ということができる。

評価と適用範囲

QSARモデルの利用では、モデルそのものの妥当性と、特定の化合物に対する予測の妥当性を分けて扱う[1]OECDの検証原則では、規制目的で考慮されるQSARモデルに、定義されたエンドポイント、曖昧でないアルゴリズム、定義された適用可能領域、適合度・頑健性・予測性の適切な尺度、可能な場合の機構的解釈を伴わせることを求めている[1]。このうち適用可能領域は、学習に用いた化学空間の内側で予測しているかを示す条件であり、同じアルゴリズムであっても対象物質が領域外であれば予測の信頼性は下がる[1]。検証指標は、学習データへの当てはまりだけでなく、外部データや交差検証での予測性を含めて確認される[1]。また、機構的解釈は必須条件ではないが、化学構造と活性の関係が既知の作用機序や反応性と整合するかを説明する要素として扱われる[1]。そのため、QSARは単に回帰式分類器を作る手法ではなく、エンドポイント、入力構造、記述子、訓練データ、検証指標、適用範囲を合わせて報告・評価するモデルとして扱われる[1]

規制利用では、検証済みのモデルであっても個々の予測値がただちに受け入れられるわけではない[1]。個別予測と複数予測から導く結果については、OECDのQSAR Assessment Framework(QAF)が、予測入力が正しいこと、対象物質が適用可能領域内にあること、予測が信頼できること、出力が規制目的に適合することを評価原則として示している[1]。この枠組みは、単一の予測値だけでなく、複数のQSAR予測を組み合わせた結果にも同じ評価観点を適用する[1]。日本では、化審法のリスク評価における生分解性評価のWeight of EvidenceマニュアルでQAFチェックリストが活用されている[2]。このようにQSARの評価は、化合物の構造から活性を推定する計算手法という側面に加え、予測をどの範囲と目的で使うかを記録するQMRF、QPRF、Result Checklistなどの報告・評価様式で扱われる[1]

QSAR予測では、個別モデルの式だけでなく、対象化合物の識別子、構造、物理化学的性質、毒性、ばく露、用途、バイオアッセイなどを同じ検索単位で扱うデータ基盤も用いられ、アメリカ合衆国環境保護庁CompTox化学物質ダッシュボードは、化学物質情報を統合するオンラインツールとして、物理化学的性質、環境中の運命・輸送、ばく露、用途、in vivo毒性、in vitroバイオアッセイのデータを収録し、DTXSIDやCAS登録番号、製品用途区分、アッセイまたは遺伝子、分子式、質量などから物質を検索できる[3]。QSAR/QSPRモデルの実装例であるOPERAは、物理化学的性質、環境動態、ADME、毒性エンドポイントについて、適用可能領域、精度評価、信頼区間、利用可能な実測値を伴う予測を単一物質またはバッチ処理で返すツールとして整備され、その予測値はCompTox化学物質ダッシュボードにも提供されている[4]

脚注

  1. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (PDF) (Q)SAR Assessment Framework: Guidance for the regulatory assessment of (Quantitative) Structure Activity Relationship models and predictions. OECD Series on Testing and Assessment. OECD. (2023). pp. 9, 13, 19 2026年6月27日閲覧。
  2. 【概説】OECD QAF ガイダンス文書について (PDF). 製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター. pp. 1-2 (2025年8月25日). 2026年6月27日閲覧。
  3. CompTox Chemicals Dashboard”. United States Environmental Protection Agency. 2026年7月4日閲覧。
  4. OPERA: Open (Quantitative) Structure-activity/property Relationship App”. National Toxicology Program, National Institute of Environmental Health Sciences (2026年6月29日). 2026年7月4日閲覧。

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