2025年、エアカナダの客室乗務員ストライキ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』 (2025/09/15 23:29 UTC 版)
2025年のエア・カナダの客室乗務員ストライキは、10,517人の客室乗務員、その労働組合であるカナダ公務員組合(CUPE)とエア・カナダとの間で行われていた労働争議のことで、2025年8月16日から19日にかけてストライキが行われた。
雇用大臣のパティ・ハジドゥは拘束力のある仲裁を課し、その後、カナダ労使関係委員会が労働復帰命令を出したが、組合はこれを拒否した。8月19日、両当事者は、加盟国の批准を条件とする暫定合意に達したと発表し、エア・カナダは同日から運航再開を開始することを示唆した。協定を批准するためのCUPEメンバーによる投票は8月27日から9月6日まで続き、従業員の99.1%が協定の賃金提案部分を拒否して終了した[1][2][3]。
背景
エアカナダの客室乗務員がストライキを決行した要因として、他社では業務内として扱われる離陸前、着陸後の業務が無報酬であったことである[4]。
北米の航空業界においては、客室乗務員の出発前の業務に給料が支払われないことが通常となっており、エア・カナダも、出発から到着までに対してのみ報酬を支払うとしている[5][6]。エア・カナダの客室乗務員は、毎月約35時間の無給労働を行っていると推定された[7]。
このような支払い形態の背景には、1970年代後半から1980年代初頭にかけて、多くの北米の航空会社の経営が悪化したことをうけ、コストカットとして、賃金と福利厚生を削減したことがある[7]。
その後も、2001年の同時多発テロや大不況による経営悪化のため、客室乗務員が追加賃金を要求することはなかった[8]。
長年にわたり、カナダ領空では遅延が頻発するようになっており[7][9]、2024年のエアカナダの定時到着率は、北米の航空会社として最下位の71%となった。しかし、遅延による地上待機などの間も客室乗務員には給料は支払われていなかった。
さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以降、飛行機は一貫して混雑しており、客室乗務員の負担は増加している。さらに、受託手荷物の追加料金導入により、手荷物を機内に持ち込もうとする人も増えた[8]。
このような業務の負担の増加に、インフレ、賃金停滞が相まって、客室乗務員の中で賃金の低さが問題視されるようになった。カナダの客室乗務員の給与が、すでにカナダの最低賃金を下回っているという分析もある[5][6]。
デルタ航空が2022年から、アメリカン航空、アラスカ航空が2024年、ユナイテッド航空は2025年から、客室乗務員組合との交渉で搭乗中などの着陸前の業務時間に給料を支払うようになった。そのことも、エアカナダのストライキが決行された要因である[6][7][8][10]。
交渉
エア・カナダとCUPE(客室乗務員)間の団体交渉協定が、10年間の発効ののち、2025年3月に満了した[11]。
2025年8月、従業員の99.7%がストライキに賛成票を投じ、8月13日、組合はエア・カナダに72時間のストライキを通知し、エア・カナダは72時間のロックアウトを通知して対応した[12][13][14]。
ストライキを予想してエア・カナダはフライトの計画的な欠航を開始し、8月15日夜までに623便、8月16日から全700便が欠航した。ストライキの前日、組合は航空会社からの仲裁要請を拒否し、航空会社も政府に仲裁を強制するよう求めた。
エア・カナダは、4年間で38%の昇給を提案し、初年度は25%増額すると発表した[12]。しかし、客室乗務員組合は、「インフレ率、市場価値を下回り、最低賃金も下回っている」として拒否した[15]。ロイターによると、組合は、カナダで最も賃金の高いエア・トランザットと同等の賃金を求めている報道された[12][15]。
ストライキ
ストライキは、8月16日00:58 EDT(04:58 GMT)に開始された。ストライキの対象となったのは、エア・カナダ本体と、格安航空会社のエア・カナダ・ルージュの全便である。
ジャズ・アビエーションとPAL航空が運航する地域子会社のエア・カナダ・エクスプレスは引き続き運航した。トロントピアソン国際空港の外にピケットラインが設置され、組合指導者らはカナダの他の主要空港でもピケットを奨励した[12][15]。
ストライキにより、1日あたり13万人の乗客が影響を受けると予想され、エア・カナダは、手数料なしで予約を変更可能とする対応を行った。また、ユナイテッド航空など、スターアライアンスパートナーへの振り替えも行った。
エア・カナダは、他社を予約した乗客以外は、空港に来ず、旅行オプションについて連絡が来るのを待つようお知らせした。
ストライキは、特にカルガリー国際空港の利用客に大きな影響を与えた。カントリー・サンダー音楽祭と日程が重なり、カルガリー地域のすべてのホテルと航空券が数日間満席となっていた。カルガリーへの再予約を試みても、8月19日まで空席がない状況であった[16][17][18]。
ストライキが始まってから数時間後、雇用大臣が、カナダ労働法第107条に基づく権利を行使し、カナダ労使関係委員会(CIRB)に仲裁を要請し、ストライキを終了するよう指示したと発表した[19][20]。これに対し、エアカナダは、職場復帰には24時間から48時間を必要とし、通常通りの運航を再開するには5〜10日かかると説明した。
CIRBは、17日8時(EDT)からの職場復帰を命じ、エアカナダはこれに応じてフライトを再開すると発表した[21][22]。しかし、組合は、職場復帰命令を違憲とし、ストライキを継続すると発表した。そのため、予定されていたフライトはさらにキャンセルされた[23]。
8月18日、CIRBはストライキの継続を違法と宣言し、正午までの職場復帰を命じた[24]。しかし、組合長のマーク・ハンコック氏はこれに従うことを拒否し、「私のような人々が刑務所に行くことを意味するのなら、それでいいのです。それが私たちの組合に罰金を科されることを意味するのであれば、それでいいのです。」と述べた[25]。
労働専門家らは、カナダの労働組合がこれほど反抗的な態度をとったのは、カナダ郵便労働組合の1978年のストライキ以来だと指摘した[26]。
8月19日、組合は、業界に「変革」をもたらす暫定合意に達し、ストライキを終了すると発表した[27]。暫定合意では、飛行前後の業務の給与問題に関して、他の北米航空会社よりもエアカナダが譲歩した内容となった。組合は、ウエストジェットなどの他社でも、今後の交渉で地上賃金の問題を提起するだろうと指摘した[28]。
脚注
- ^ “Air Canada Provides Update on its Flight Attendant Tentative Agreement”. Air Canada (2025年8月29日). 2025年9月4日閲覧。
- ^ Lampert, Allison; Singh, Rajesh Kumar (2025年9月6日). “Air Canada flight attendants reject wage agreement”. Reuters 2025年9月6日閲覧。
- ^ Adams, J.J. (2025年9月6日). “Air Canada flight attendants reject wage proposal”. Vancouver Sun 2025年9月6日閲覧。
- ^ Austen, Ian; Stevis-Gridneff, Matina (2025年8月15日). “Air Canada's Flight Attendants Begin Strike, Crippling the Airline”. The New York Times 2025年8月16日閲覧。
- ^ a b Hsu, Andrea (2024年2月12日). “Flight attendants don't earn their hourly pay until aircraft doors close. Here's why”. NPR
- ^ a b c Gradek, John (2025年8月15日). “Air Canada flight attendants have issued a strike notice: Here's what you need to know”. The Conversation
- ^ a b c d Stechyson, Natalie (2025年8月18日). “What is ground pay? A sticking point in the Air Canada flight attendant strike, explained”. CBC News
- ^ a b c Chokshi, Niraj (2025年8月19日). “Why Were Air Canada Flight Attendants Striking? Boarding Pay Was a Big Issue”. New York Times
- ^ Lampert, Allison; Singh, Rajesh (2025年8月19日). “Air Canada labor deal may reshape pay for North American airline crews”. Reuters
- ^ Backman, Melvin (2024年8月6日). “Alaska Airlines flight attendants will now get paid for helping you board the plane”. Quartz
- ^ Jones, Alexandra Mae (2025年8月5日). “Air Canada flight attendants vote to strike if agreement not reached, union says”. CBC News 2025年8月13日閲覧。
- ^ a b c d Wright (2025年8月16日). “Air Canada strike: Hundreds of flights grounded as industrial action begins” (英語). BBC News. 2025年8月16日閲覧。
- ^ Benchetrit, Jenna (2025年8月16日). “Air Canada flight attendants walk off the job as strike begins”. CBC 2025年8月16日閲覧。
- ^ “Air Canada and Air Canada Rouge Action Lockout of Flight Attendants in Response to CUPE Strike” (Press release). Air Canada. 16 August 2025. 2025年8月16日閲覧.
- ^ a b c Lampert, Allison; Oo, Kyawsoe (2025年8月16日). “Air Canada flight attendants picket at airports; businesses seek government intervention”. Reuters 2025年8月16日閲覧。
- ^ Wichter. “Air Canada strike grounds most flights, stranding thousands” (英語). USA TODAY. 2025年8月16日閲覧。
- ^ Barnard, Cornell (2025年8月16日). “Air Canada work stoppage creates travel chaos at Bay Area airports and beyond”. ABC 7 News
- ^ Tran, Paula (2025年8月16日). “I was flying back to Ottawa on Air Canada, then my flight got cancelled”. Ottawa Citizen
- ^ Mukherjee, Promit (2025年8月16日). “Canadian government moves to end Air Canada strike” (英語). Reuters 2025年8月16日閲覧。
- ^ Austen, Ian; Stevis-Gridneff, Matina (2025年8月16日). “Government Shuts Down Air Canada Strike That Grounded Hundreds of Flights”. The New York Times
- ^ Austen, Ian (2025年8月17日). “Air Canada Flight Attendants Say They Will Defy Back-to-Work Order”. The New York Times 2025年8月17日閲覧。
- ^ Lampert, Allison; Jaiswal, Rishabh (2025年8月17日). “Air Canada union says flight attendants will continue strike, defy government” (英語). Reuters 2025年8月17日閲覧。
- ^ “Air Canada Suspends Plans to Restart Operations after CUPE Defies CIRB Directive to Return to Work” (Press release). Air Canada. 17 August 2025. 2025年8月17日閲覧.
- ^ Gillies, Rob (2025年8月18日). “Strike by 10,000 Air Canada flight attendants declared illegal”. Associated Press 2025年8月18日閲覧。
- ^ Tunney, Catherine (2025年8月18日). “Air Canada flight attendants' union says it will risk jail time to strike for a better deal”. CBC News
- ^ Knight, Chris (2025年8月18日). “Air Canada flight attendants ordered back to work but remain on strike: What's next?”. National Post
- ^ Yousif, Nadine (2025年8月19日). “Air Canada to resume flights after pay deal struck with union”. BBC News 2025年8月19日閲覧。
- ^ Atkins, Eric (2025年8月20日). “As Air Canada resumes service, analysts see contained long-term financial damage”. The Globe and Mail
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