建築コスト管理士
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/04/04 02:49 UTC 版)
建築コスト管理士は、建築プロジェクトにおけるコストマネジメントを行うプロフェッションです。
1980年代から、数量を算出し工事費を積上げ算定する積算業務だけでは、適正なコストを導きだすことができないという問題意識が生まれてきました。総合建設会社(ゼネコン)においては、設計施工物件を中心にコストマネジメントの重要性が認識され、1990年代からは組織的なコストマネジメントが展開されてきました。大手組織設計事務所においてもコストマネジメントについての取り組みが進められました。
このような状況において、ようやく設計の初期段階から継続的にコストマネジメントを行うことの重要性が関係者に広く認識されるようになり、積算業務を拡大させる新しい職能分野が検討されるようになりました。
2006年(平成18年)4月1日、積算協会において建築コスト管理士認定事業が創設され、新資格が誕生いたしました。
建築コスト管理士は積算協会の最上位資格として、以下のように定義されています。
「企画・構想から維持・保全・廃棄にいたる建築のライフサイクル全般に渡って、コストマネジメント業務に関する高度な専門知識及び技術を有する専門家」
資格に求められる技術については、以下のように規定されています。
「各フェーズに応じた工事費その他費用の算定。コストプランニング、コストコントロール」
資格に求められる知識については、以下のように規定されています。
「コスト情報収集・分析、広範囲な市場価格(経済・建設産業・不動産他)、発注戦略(発注与条件・契約・入札手続きと評価他)、調達戦略、フィジビリティスタディ―、概算技法、施工技術・工期算定、LCC・VE及びFM・PM・CM・PFIの概要、環境配慮、建築関連法規、IT活用」
なお、建築積算士の上位資格であることから、「原則として建築積算士に求められる知識を包含する」とされています。
資格試験は、学科試験(4択)と短文記述試験で構成されています。
受験資格は、以下のいずれかになります。
1.建築積算士を取得後更新登録を1回以上行い、かつ建築関連業務を10年以上経験し、そのうち建築コスト関連業務において責任ある業務に2年以上の実務経験を有する者。 2.建築関連業務を10年以上経験し、そのうち建築コスト関連業務において責任ある業務に5年以上の実務経験を有し、受験日当日に32歳以上である者。
また、学科試験免除の規程があります。
1.BSIJコストスクールの積算協会認定BSIJプロジェクトマネジャーの称号を取得した者で、建築関連業務を10年以上経験し、受験日当日に32歳以上である者は学科試験を免除する。 2.学科試験において、試験委員会で定める合格基準点を超えた者は、当該試験の次年度から2年間に限り、学科試験を免除する。
資格登録に際しては、積算協会の正会員であることが必要です。
登録の有効期間は5年のため、5年ごとに資格更新が必要で、その間にCPD(継続能力開発)制度に規定する必要単位を取得することで登録更新ができます。
2011年(平成23年)求められる技術・知識を体系的にまとめた「建築コスト管理士ガイドブック」が積算協会から発刊され、試験問題のレベルアップをはかるとともに、受験者が学習しやすい環境がつくられました。また、前述の「建築積算士ガイドブック」も受験用学習書となっています。
建築コスト管理士は、様々な職場で活躍しています。CM会社や設計事務所に所属し、発注者側で建築プロジェクトに関するコストマネジメントを行っているケースがあります。また、ゼネコンに所属し、設計施工プロジェクトに関して、顧客満足と適正利益を確保するためにコストマネジメントを行っているケースもあります。これらの職域のパートナーとして、積算事務所所属の建築コスト管理士も多く活躍しています。その他多くの職域で建築コスト管理士が働いているのです。このような建築コスト管理士の働きを支えているのが、建築積算士が算定する工事費でありコストに関する様々な資料です。
2013年(平成25年)3月、積算協会はRICS(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会)と提携覚書を交わしました。その結果、「建築コスト管理士で業務経験が10年以上かつ積算協会のCPD単位を1年以内に16単位以上取得した」者は、RICSの正会員(MRICS)として入会でき、国際的に評価の高い職能である、「Chartered Quantity Surveyor」通称「QS」称号を取得することができるようになりました。この事実は、建築コスト管理士が国際的な職能レベルとして評価されたものといえます。
RICS(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会)は、産業革命後の英国近代化に貢献した約50名のSurveyor によって、1868年6月にロンドンで「The Institution of Surveyors」として設立されました。その後1881年8月に英国王から「Royal Charter(王立機関)」として認められることとなり、会員は「Chartered Surveyor」と称することになりました。
職業としての「Surveyor」は古代エジプトの時代から存在し、計測・計量・測量の技術者として、古代より各文明が大地を高度に利用し発展することを支えてきたといわれています。近代になり、英国では土地やそれに付随する建物・建造物・鉱物資源およびそれらの権利利益などに関わる技術者を指すようになりました。
1947年7月に、協会名称が現在の「Royal Institution of Chartered Surveyors (RICS)」となりました。
RICS(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会)本部は英国ロンドンにありますが、欧州、中東アフリカ、東アジア・東南アジア、オセアニア、南アジア、北中南米・カリブ海といった世界各地域の146か国に活動を広げています。世界各地では正会員が約10万名活躍しており、学生やトレイニー約5万名が正会員を目指して勉強中です。RICS会員は、国際的な認知度とステータスが高く、仕事での高い優位性を持っています。また、専門知識・情報の提供(CPDを含む)や厳しい倫理基準によって、会員の高度な専門性を確保しています。
RICS(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会)の資格(称号)とは、我が国のように試験を合格して得られるものではなく、入会したことにより与えられるステータスです。RICSの正会員としては専門分野で働くものに与えられる「MRICS(Professional Members)」と、業界の発展に卓越した貢献をしたものに与えられる「FRICS(Fellows)」があります。そのほかに、エントリーレベルの「AssocRICS(Associate Members)」があります。MRICSは、RICSが認定した大学のコースで学位を取得し、1~2年の実務研修後、レポート・面接・テストを受けるコースが一般的といわれ、非常に狭き門となっています。
RICS(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会)には3つのジャンルと17の専門グループがあり、「骨董品・美術品」、「建物調査」、「建築技術」、「事業用不動産」、「紛争解決」、「環境」、「ファシリティ・マネジメント」、「マネジメント・コンサルティング」、「ジオマティックス」、「鉱物資源・廃棄物管理」、「計画開発」、「機械・業務用資産」、「プロジェクト・マネジメント」、「居住用不動産」、「農地等」、「評価」と多岐にわたっています。そのなかで、「Quantity Surveying & Construction Professional Group」に所属した会員(MRICSかFRICS)が『Chartered Quantity Surveyor』の称号で呼ばれるわけです。
前述のように、積算協会の『建築コスト管理士』で一定の要件を満たしたものは、MRICSとして入会し、『Chartered Quantity Surveyor』の称号を得ることができます。
出典
この内容は、RICS(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会)との協力提携覚書を交わした公益社団法人日本建築積算協会作成の、資格制度に関する文書から引用した。ホームページの「調査研究情報発信事業」欄には、資格制度についての記事を一部修正のうえWikipediaへ掲載する旨の記載がある。
参考リンク
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