吉田絵馬屋
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吉田絵馬屋(よしだえまや)は東京都足立区千住4丁目、旧日光街道沿いにある、江戸時代中期から続く手書きの絵馬と地口行燈を製作販売する商店である。
絵馬
吉田絵馬屋は季節に合わせた提灯、羽子板、飾りものなどを販売する際物問屋として江戸中期に創業した[1]。吉田絵馬屋は新義真言宗の寺院「長円寺」の参道入り口に位置しており、長円寺山門横にある「目病み地蔵」に奉納する絵馬「向かい目」を代々作り続けている[2]。

「向かい目」は「め」の字を鏡文字や向かい合わせに描く図像で、眼病平癒の願をかけるためのものであった[3]。
吉田絵馬屋の家伝的な作風の絵馬は「千住絵馬」とも呼ばれ、経木に胡粉を塗った上に泥絵の具で彩色することから「経木絵馬」とも呼ばれた。[4]。
地口行灯
絵馬のほか、江戸の中期から後期にかけ流行した稲荷神社の祭礼の際に神社に奉納したり、家々の軒下に飾る地口行灯も作成・販売している[5]。
地口とは、駄洒落の一種である言葉遊びであり、ことわざ・有名な芝居のセリフ・格言などを似た音の言葉に置き換えたもの。地口行灯とは、地口に合わせた滑稽な画を描いて行灯にして、祭礼のときに氏子の家の門口や神社の参道に飾ったものである[6]。
吉田絵馬屋の製作する約160種[7]の地口にも34点ほど含まれており、「あん汁より瓜が安い(案ずるより産むが易い)」、「子犬太刀のぼり(鯉の滝登り)」、「臼から出た男(嘘から出た真)」などがある。
歴史上活躍した人物や事柄を地口化したものあり、「一合にけんちん(越後の謙信)」、「小狐半じょうとび(義経八艘飛び)」、「そまのきょうだい(曽我の兄弟)」などがある[6]。
祭りの中の地口行灯
祭礼に絵行灯や俳画、連歌などの行灯を飾る事例は見られるが、二色の波線などを書くという形式を備えた地口行灯を飾る祭礼を行っているのは東京都内およびその周辺地域に限られている[6]。地口行灯を祭りに飾る意味は、面白い絵や言葉を描いた華やかな行灯の明かりによる祭りの演出であると同時に、祭礼時に飾られた行灯の元句当てやそのひねりを楽しむことである。初牛祭礼の地口行灯を眺めている人々の様子については、明治期に出版された風俗画報などの挿絵にも描かれ、当時の地口行灯の楽しみ方がうかがわれる[6]。
2022年、コロナ禍で数年間中止になっていた祭りの際の地口行灯の設置を再開し、約100基が板垣通りに飾られた[8]。
当主
七代目の吉田政造は「絵馬寿(えまひさし)」の俳号を持った俳人でもあった[4]。1972(昭和47)年、狭心症のため[9]65歳で急逝した。過労死が原因とされ、最後の言葉は「絵の具を持ってこい」だった[9]。政造は14歳から六代目について技術を叩きこまれたが[9]、後継ぎのことは考えていなかったので、娘の晃子(ちょうこ)は見よう見まねで技術を学んだ[10]。したがって、彼女が本格的に仕事を始めたのは先代が亡くなった後だった[11]。
文化財
1982(昭和57)年に吉田晃子が足立区登録無形民俗文化財保持者となり、1985(昭和60)年には吉田家絵馬資料が登録有形文化財となった[5]。
展覧会
1995年、足立区立郷土博物館で地口行灯に関する特別展が行われた[7]。
出典
- ^ 『千住宿歴史ウォーク』NPO千住文化普及会、2018年3月、60頁。
- ^ 千住文化普及会『千住宿歴史ウォークガイドブック』千住文化普及会、2018年3月、64頁。ISBN 9784990703332。
- ^ 『横浜の文化財 : 横浜市文化財総合調査概報 7』横浜市教育委員会社会教育部文化財課、1988年3月、10頁。doi:10.11501/12706810 。
- ^ a b 足立史談会 著『足立区史跡散歩 (東京史跡ガイド ; 21)』学生社、1978年1月、68頁。doi:10.11501/9641391 。
- ^ a b “吉田絵馬屋 | あだち観光ネット” (2016年10月6日). 2025年7月26日閲覧。
- ^ a b c d 足立区立郷土博物館 編『地口行灯の世界』足立区立郷土博物館、2005年9月2日。
- ^ a b 『西郊民俗 (169)』西郊民俗談話会、1999年12月、5頁。doi:10.11501/6064415 。
- ^ “千住の祭りの風物詩「地口行灯」3年ぶりにともる”. 北千住経済新聞. 2025年7月26日閲覧。
- ^ a b c 「”最後の絵馬師ゆく”」『読売新聞』1972年2月7日、朝刊、14面。
- ^ 佐々木勝、佐々木美智子『日光街道千住宿民俗誌-宿場町の近代生活-』名著出版、1985年10月25日。
- ^ 「年季」『朝日新聞』1979年2月8日、夕刊、7面。
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