トーマス=フェルミ模型
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/29 06:40 UTC 版)
トーマス=フェルミ模型(トーマス=フェルミもけい、英: Thomas–Fermi (TF) model)[1][2]とは、シュレーディンガー方程式[3]が導入されて間もなく、それを半古典的に扱った多体系の電子構造についての量子力学的な理論のことである。ルウェリン・トーマスとエンリコ・フェルミに因んで名づけられた。波動関数から離れて電子密度を用いて定式化したもので、密度汎関数理論の原型ともなった。トーマス=フェルミ模型は、核電荷が無限大の極限においてのみ正確な結果を与える。現実的な系を考えるために近似を用いると、定量性に乏しい予言しかできず、原子の殻構造や固体のフリーデル振動のような密度についてのいくつかの一般的性質を再現することもできなくなる。しかし定性的な傾向を解析的に抽出でき、またモデルを解くことが簡単であることから、多くの分野で応用されている。トーマス=フェルミ理論により表現された運動エネルギーは、オービタルフリー密度汎関数理論のようなより洗練された密度近似運動エネルギーの一つとしても使われている。
1927年にトーマスとフェルミは独立に、この統計的モデルを用いて原子中の電子分布を近似した。実際の電子は原子中で不均一に分布しているが、近似的に電子は微小体積要素 ΔV に(局所的に)それぞれ均一に分布しており、電子密度 n(r) は各 ΔV で異なっているとする。
運動エネルギー
基底状態にある原子中の微小体積要素 ΔV において、フェルミ球の体積 VF はフェルミ運動量を pF とすると以下のように書ける[4]。