アトガ・ハーン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』 (2023/04/14 04:25 UTC 版)
アトガ・ハーン（Atgah Khan, 生年不詳 - 1562年5月16日）は、北インド、ムガル帝国の政治家・武将。宰相でもある。シャムスッディーン・ムハンマド・ハーン（Shamsu'd-Din Muhammad Khan）の名でも知られる。
生涯
1540年、ムガル帝国の皇帝フマーユーンがカナウジの戦いでシェール・シャーに敗れ、象に乗ってガンジス川を渡って逃げる際、安全に着岸できるよう尽力した[1]。それ以降、彼はフマーユーンに近侍することを許され、その妻ジージー・アナガは皇子アクバルの乳母となった[1]。
1556年、フマーユーンが死んでアクバルが皇帝になったが彼のもとでも重用され、乳母の夫ということで養父を意味する「アトガ」で呼び、息子ミールザー・アズィーズ・コーカは乳兄弟を意味する「コーカ」で呼ばれた[2]。
1560年、宰相位を解任されたバイラム・ハーンは自分の部下バハードゥル・ハーンが宰相となったのを見て反乱を起こした[1]。だが、アクバルはアトガ・ハーンをその討伐に差し向け、彼はこれを制圧した[1]。
さて、バイラム・ハーン失脚後、アクバルの乳母マーハム・アナガが政権を握ったが、フマーユーン以来の重臣であるアトガ・ハーンはマーハム・アナガ一派に対抗しうる存在あった[1]。そのため、アトガ・ハーンは政権から外され、皇帝に不満を訴えたこともあった[3]。
だが、1561年11月にアクバルはマーハム・アナガ子飼いのバハードゥル・ハーンに代えて、アトガ・ハーンを宰相に任命した[4][5]。アトガ・ハーンと同様にフマーユーン以来の重臣だったムヌイム・ハーンは内心彼が宰相であることに不満を持っており、マーハム・アナガの息子アドハム・ハーンにその暗殺を唆した[1]。調子に乗りやすかったアドハム・ハーンはムヌイム・ハーンに唆され、彼自身もアトガ・ハーンが宰相であることが気にくわなかったため、その暗殺を計画した[6][1]。
1562年5月16日、アドハム・ハーンは大勢の部下を連れ、アーグラ城の公謁殿でムヌイム・ハーンと会合をしていたアトガ・ハーンを短剣で刺し殺してしまった[1][4][6]。養父の死を知ったアクバルの怒りは尋常ではなかった。アドハム・ハーンはアクバルによって顔面を殴られたのちすぐさま処刑され、マーハム・アナガの政権も終わりを告げた[7]。
脚注
参考文献
- フランシス・ロビンソン 著、月森左知 訳『ムガル皇帝歴代誌 インド、イラン、中央アジアのイスラーム諸王国の興亡（1206年 - 1925年）』創元社、2009年。
- アンドレ・クロー 著、杉村裕史 訳『ムガル帝国の興亡』法政大学出版局、2001年。
- 石田保明『ユーラシア文化叢書<2> ムガル帝国』吉川弘文館、1965年。
関連項目
- アトガ・ハーンのページへのリンク
