SMARPP マトリックス・モデル

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > SMARPPの解説 > マトリックス・モデル 

SMARPP

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/20 03:36 UTC 版)

マトリックス・モデル

SMARPPが参考としているのは、マトリックス・モデルという治療プログラムである[5]。マトリックス・モデルとは、ロサンゼルスのマトリックス研究所が開発し、精神刺激薬への依存症を中心とした外来の治療プログラムである[5]。西海岸のドラッグコート(薬物裁判所)にて広く実施されている[5]

1940年代にアメリカの精神分析医であるH. Tieboutが提唱した、アルコール依存症には直面化が有効であるという理論は、1970年代の有効性に関する研究において、有効であるとは判明しなかった[4]。その後1980年代に、動機づけ面接の治療技法登場し、性急に使用をやめることを求めず、徐々に動機づけを高めていくことによってやめることができるようになるという内容である[4]

1980年代には、アメリカ西海岸でコカインが流行し離脱にはアルコールなどと異なり重篤な離脱症状の管理が不要なため退院が早く、従来のアルコールヘロインに対する直面化を行う治療プログラムは奏功しなかった[4]。マトリックス・モデルは、支持的、受容的に接し、認知行動療法も採用した内容となっている[4]

治療理念

1) 安心して失敗を話せる場であること

治療プログラムは再使用があったときにも参加することができ、失敗も安心して正直に話せる安全な場でなければならない。再使用を正直に話したことで不利益を被ることがないように、治療に関する情報をあくまで医療的に用い、司法的な対応に使わないことを参加者に明言する。また、援助者は失敗を語った参加者に対してポジティブなフィードバックを行い、話しても大丈夫だという感覚や、話すことが回復に役立つという実感が持てるよう心がける[11]

2) 参加者の自己決定の尊重

依存症の特徴の一つは、「やめたいけれどもやりたい」という両価性にあることを理解した上で、参加者が望む方向に近づくための支援を行う。援助者は様々な情報提供を行うが、その情報を基にどう判断するかについては参加者の選択・決定をサポートし、依存行動をやめるよう強いることはしない[11]

3) 良いところを褒める

援助者は、望ましくない行動に罰を与えるのではなく、望ましい行動に報酬を与えることに注力する。報酬の最も基本的な構成要素は、常に参加者のプログラム参加を歓迎し、敬意を持って接することにある。プログラムに参加していること、依存行動の回数や程度のわずかな変化、本人なりに試みた対処行動、正直に話したこと、援助を求める言動など、積極的に良いところを見つけて、ポジティブなフィードバックを行う[11]

4) つながりの重視

援助者は、参加者が治療を継続し、支援の場・人とのつながりを維持し、増やせるようになることを重視する。ただ、多くの依存症患者にとって、治療や支援につながることのハードルは高い。そのため、治療に対して十分なモチベーションがない状態でも、毎週の参加が困難でも、遅刻や途中退席になったとしても参加OKにするなど、少しでもプログラムにつながりやすくなるよう、参加への敷居を下げて間口を広げている[11]

内容

SMARPPの構成要素はマトリックス・モデルに準拠しており、認知行動療法による使用の防止を中心として、支持する場合には動機付け面接の原則をとり、実施期間においては8週間全21回と短くなっている[5]

覚醒剤への薬物依存症に対する知識をつけ、薬物の渇望がどう起こり、それに対していかに対処行動を身につけるかといった、具体的な対処スキルの修得に重点が置かれている[5]。また、正直であることを回復との関係において重視しているため、守秘義務やまた情報を治療以外に用いないことといった方針も存在する[5]

東京都多摩総合精神保健福祉センターではSMARPPを小さくしたTAMARPP(Tama Relapse Prevention Program)や、埼玉県立精神医療センターのLIFE、肥前精神医療センターSHARPP、浜松市精神保健福祉センターのHAMARPP、熊本県精神保健福祉センターのKUMARPP、栃木ダルクのT-DARPPなど地域別の治療プログラムが存在する[5]


  1. ^ a b SMARPP-24物質使用障害治療プログラム 2015.
  2. ^ 日本語名が一定していない。「せりがや覚せい剤依存再発防止プログラム」は、平成24年度『若年層向け薬物再乱用防止プログラム等に関する企画分析報告書』55-58頁に載っている。「せりがや覚せい剤再発予防プログラム」は、『精神神經學雜誌』112(9)p887-884に掲載されている。 平成22年度「薬物依存症に対する認知行動療法プログラムの開発と効果に関する研究」1-6頁には、SMARPPの横に「認知行動療法による薬物依存症治療プログラム」と書かれている。
  3. ^ 松本俊彦 2013, §はじめに.
  4. ^ a b c d e f g 小林桜児「統合的外来薬物依存治療プログラム― Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program(SMARPP)の試み」(pdf)『精神神經學雜誌』第112巻第9号、2010年9月、877-884頁、NAID 10028059555 
  5. ^ a b c d e f g h i j 松本俊彦 2013.
  6. ^ a b c d 松本俊彦 2011.
  7. ^ a b 石塚伸一、石塚伸一・編集「日本の薬物対策の悲劇」『日本版ドラッグ・コート:処罰から治療へ』日本評論社〈龍谷大学矯正・保護総合センター叢書 第7巻〉、2007年5月、6-15頁。ISBN 4535585040 
  8. ^ a b 松本俊彦 2012.
  9. ^ “薬物依存の治療プログラム導入へ 厚労省、69精神保健施設に”. 日本経済新聞. (2015年1月10日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG26HE8_Z00C15A1CR8000/ 2015年6月10日閲覧。 
  10. ^ 岩永直子 (2021年1月27日). “「麻薬中毒者台帳は廃止して」 大麻使用罪創設なら守秘義務に配慮を”. BuzzFeed. 2021年1月28日閲覧。
  11. ^ a b c d 今村扶美 (2023). “認知行動療法の手法を活用した集団療法”. 精神科治療学 38 (増刊号): 93-96. 
  12. ^ 松本俊彦 2013, §解題.


「SMARPP」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「SMARPP」の関連用語

SMARPPのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



SMARPPのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのSMARPP (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS