電力線搬送通信 日本以外の状況

電力線搬送通信

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/17 18:25 UTC 版)

日本以外の状況

ナローバンドPLCによる家電製品の制御としては、X10が1970年代からあり、欧米で使用されている。家庭用PLC機器は、2000年前後から欧米を中心に流通している。

PLCを利用した、ブロードバンドインターネット接続であるアクセスBPL (Broadband over Power Lines) は、電磁環境に及ぼす悪影響への懸念に対する配慮から、小規模な試験サービスや、地域限定での商用サービスにとどまっている。

アメリカ合衆国では、アメリカ無線中継連盟 (ARRL) が数回にわたり陳情を出し、2004年10月に連邦通信委員会 (FCC) に通信との干渉対策として、利用可能な周波数帯域を80MHzまで拡大した規制緩和が行われ、地域ごとに既存無線局と干渉しない周波数帯を利用できるようにした。その一方で、既存の無線通信への影響を避けるために、電力線搬送通信装置のデータベースへの登録義務を定め、BPLの使用禁止周波数、使用禁止地域などの措置を新規に採用した[32]

日本のように、都市部に人口が集中し、ブロードバンドインターネット接続サービスが広く普及しているのとは異なり、土地が広いアメリカ合衆国などにおいては、基地局から各家庭の近くまで光ファイバー等の通信網を張り巡らせ、変圧器などの装置から家庭まで、ラストワンマイルの数mから数十mまでの短い距離を、電線で搬送するタイプのBPLが用いられる。

ヨーロッパの場合を述べる。スウェーデンでの実証実験では、手軽に利用できるという肯定的な意見がある一方、家電製品の使用状況によっては通信できない場合もあるため、使いづらいという否定的な意見も出ている。2003年にまとめられたECCレポートにおいて、電力線からの漏洩電界がCISPR22 ClassBだとしても、大きな干渉問題を引き起こすことが指摘された[33]。その後、2004年から2008年までOPERA (Open PLC European Research Alliance) というプロジェクトが、欧州連合の「PLCフォーラム」の支援下でBPLの商用化研究を推進している。

NATO軍(北大西洋条約機構)の研究技術機構 (RTO) は、技術報告を公表し、その中でイギリスやドイツでの実測値を基に、1970年代のアメリカ合衆国での測定に基づく、ITU-R勧告P.372-9 に示された、環境雑音の値はヨーロッパではいまだ適切であること、無線通信やCOMINT(Comminication Intelligence;通信傍受による情報収集)の確保のためには、同勧告の"Quiet Rural"(静穏な田園地域)の値より1 - 10dB低いレベルでの規制が必要なこと、PLTはxDSLに比べ多大な混信問題を引き起こすことなどを主張し、絶対防護要求はPLCからの漏洩電界強度として-15dBuV/mであるとしている[34]

大韓民国では、漏洩電界による規制値を定めた上で、短波帯電力線搬送通信の利用が解禁されている。アマチュア無線バンドについては、屋内外共にPLCの使用が禁止されている。同様に、航空無線用の周波数は屋外に限って、PLCが使用できない周波数に指定、漁業無線局の近傍ではPLCは漁業無線用周波数を使用することができない。

欧米における高速PLC法制度の概要(2021年2月現在)

米国の法制度[35]

FCC(連邦通信委員会)においてFCC 規則 part 15 に、Access BPL およびIn House BPL の許容値等が定められている。

In House BPL :

非通信時は、マルティメディア機器の技術基準であるCISPR 32 に準拠したものとなっている。

通信時は、In-situ testing を行う。In House BPL では、実住宅3軒を用い、住宅の壁から周囲の30m点において、PLC起因による漏洩電界強度が30μV/m以下であるかを評価する。

Access BPL:

FCC Part 15 Subpart Gにて許容値等の詳細が決められている。

通信時は、In-situ testing を行う。実架空線3カ所を用い架空線からの実距離30m点において、PLC起因による漏洩電界強度が30μV/m以下であるかを評価する。

Subpart G で以下の運用条件等も規定されている。

  • 非意図的放射器としての機器認証が必要なこと
  • 遠隔で制御可能な動的ノッチ挿入およびシャットダウン機能を持っていること
  • 公的データベースへの登録
  • 指定された周波数および指定された地域で特別に指定された周波数への固定ノッチの挿入などと定められている。
欧州の法制度
In House BPL:

欧州標準規格EN 50561-1[36]が発行されており、その許容値は、基本的にはマルティメディア機器の技術基準であるCISPR 32[37]に準拠したものになっているが、通信時の電源端子の伝導妨害波については、下記の技術導入が求められているのが特徴的となっている。

  • 使用帯域において一律な許容値とするのではなく、周囲環境の変化に合わせ動的に通信信号を変化させ共存を図る技術
  • 使用禁止周波数帯域として、アマチュア無線帯域や航空無線帯域に固定ノッチの挿入すること、短波放送帯域には、固定ノッチを挿入するか、電力線上に載った短波放送信号を検出し、放送信号が確認された場合、その周波数帯域にノッチを挿入する動的ノッチ制御技術
    Access BPL:

1990年代には既に導入がなされていたことから、許容値の明確化は見送られ、委員会勧告

COMMISSION RECOMMENDATION of 6 April 2005 on broadband electronic communications through powerlines[38]

が発行されている。次のような概要となっている。

  • インターネットアクセスサービス、スマートメーターリングサービス、エネルギー管理サービスなどの通信サービスをユーザーに配信するために使用されるアクセスBPL に適用される。
  • サービスオペレータによる干渉がないことを現地で確認すること。これはex-post model と呼ばれている。
  • 各国の当局は、通信の自由競争の促進のため、電力会社に不適切な規制があれば取り除く必要がある。
  • 本サービスは認可制であることは推奨されない。
  • 干渉問題が当事者同士で解決できない場合は、各国の当局は公平・公正に処理を行う。

  1. ^ kHz帯PLCの動向と需要地系通信への適用課題
  2. ^ 電力線搬送通信設備に関する研究会
  3. ^ 高速電力線搬送通信設備に関する実験制度速電力線搬送通信設備小委員会
  4. ^ a b 高速電力線搬送通信設備小委員会
  5. ^ 高速電力線搬送通信設備作業班
  6. ^ ECHONET Lite向けホームネットワーク通信インタフェース(広帯域 Wavelet OFDM PLC
  7. ^ 第3世代HD-PLCアダプター
  8. ^ 通信障害の例:コンクリート壁、金属で覆われた筐体、建物の上下階層間、地下と地上間、持ち込み外来ノイズや電波干渉による通信遮断など
  9. ^ 事例集|HD-PLCアライアンス
  10. ^ 【トピック】コンセントに挿すと通信できる「PLC」、再び注目の理由とは? 電波法改正で新たな用途- 家電 Watch
  11. ^ 総務省情報通信審議会
  12. ^ 総務省電波監理審議会
  13. ^ 総務省高速電力線搬送通信に関する研究会(第1回)資料1-4
  14. ^ 日経コミュニケーション 2005年1月31日
  15. ^ 住宅環境における屋内広帯域電力線搬送通信からの漏洩電界とコモンモード電流の測定 I(電子情報通信学会)
  16. ^ PLCについて(日本アマチュア無線連盟)
  17. ^ アメリカ無線中継連盟による警告ビデオ(18.2MiB MPEG-1 英語)
  18. ^ 日本アマチュア無線連盟による市販PLCモデムの評価実験について
  19. ^ 非常時の総務大臣の措置(総務省電波利用ホームページ)への影響
  20. ^ 電力線搬送通信が低周波電波天文観測にもたらす有害干渉への懸念 2002年7月8日 - 日本天文学会
  21. ^ ソフトバンクBBに聞く、PLCの課題と展望 - ITmedia +D LifeStyle
  22. ^ 信学論(B),vol.J89-B, no.4, pp.576–584, April 2006 電力線搬送通信信号が誘導によりVDSL 通信に与える影響の研究
  23. ^ PLC通信について~ - パナソニックよくあるご質問
  24. ^ 広帯域電力線搬送通信機器による医療機器への影響に関する医療関係者等からの照会に対する対応について
  25. ^ 槻ノ木隆のNEW PRODUCTS IMPRESSION 松下電器産業「BL-PA100KT」 - BroadBand Watch
  26. ^ 東京地方裁判所判決(2007年(平成19年)5月25日)
  27. ^ 東京高等裁判所(2008年(平成19年)12月5日)
  28. ^ 電波監理審議会への異議申し立て(2009年(平成21年)年6月10日)
  29. ^ 電波監理審議会への異議申し立て(2012年(平成24年)11月28日)
  30. ^ 電波法第八十二条 免許等を要しない無線局及び受信設備に対する監督
  31. ^ 脇坂俊幸, 松嶋徹, 古賀久雄, 奥村浩幸, 桑原伸夫, 福本幸弘「三相3線電力線を使用したPLC通信システムが建物外の電磁環境に与える影響の評価」『電気学会論文誌 A』第140巻第12号、電気学会、2020年、557-564頁、doi:10.1541/ieejfms.140.557ISSN 0385-4205NAID 130007948596 
  32. ^ 議論が再開された電力線搬送通信、既存通信と共存の道は未だ見えず - MYCOMジャーナル
  33. ^ ECC REPORT 24 - ECC REPORT 24”. 2007年7月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年5月16日閲覧。
  34. ^ HF Interference, Procedures and Tools”. 2007年10月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年10月26日閲覧。
  35. ^ FCC 11-160 APPENDIX D Measurement Guidelines for Broadband Over Power Line (BPL) Devices Or Carrier Current Systems (CCS) and Certification Requirements For Access BPL Devices
  36. ^ Power line communication apparatus - Radio disturbance characteristics -
  37. ^ 国際規格CISPR32第2.0版(2015-03)「マルチメディア機器の電磁両立性–エミッション要求事項」
  38. ^ COMMISSION RECOMMENDATION





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