解脱 (ジャイナ教) 解脱への道標

解脱 (ジャイナ教)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/07 08:17 UTC 版)

解脱への道標

魂は永遠の過去から業(カルマ)に束縛されている。解脱へいたる第一のステップはサムヤクトヴァ(samyaktva、正しいこと)、つまり正しい認識、正しい知識、正しい行為の三つを教え込むことである。

サムヤクトヴァ

ジャイナ教によれば、まとめて「三宝」(ratnatraya、ラトナトラヤ)としても知られている正しい認識(samyak darśana)、正しい知識(samyak jñāna)、正しい行為(samyak caritra)が真のダルマを構成している。ウマースヴァーティーによれば、この三つが解脱への道を構成する[4]

正しい認識(samyak darśana)は宇宙の全ての実体の真の本性に関する正しい確信である[5]

正しい知識(samyak jñāna)は、真理(tattva、タットヴァ)に関する知識を正しく知っていることである。これは多元論(アネーカーンタヴァーダ)と相対論(スィヤードヴァーダ)との二つの原理と一体となる。正しい知識は三つの瑕疵、つまり疑い、欺き、不確定性から免れていなければならない。

正しい行為(samyak caritra)は生きている存在(魂)の本来の行為である。これは正しい行為、五大誓戒(mahāvrata)の順守、五官について気をつけることや、自己制御を厳粛に行うことに存する[6]。 一たび魂がサムヤクトヴァ(samyaktva)を獲得すると、解脱が短い期間で得られることが保証される。

完全智(ケーヴァラ・ジュニャーナ)

完全智(kevala jñāna)、つまり正見(samyak dṛṣṭi)を獲得した魂が到達できる超越的な知識の最高の形式、は「究極的な知識」、「悟り」とも呼ばれる。完全智(ケーヴァラ)とは、業(カルマ)の残余を焼き払い、生と死の繰り返しから解放する禁欲的な実践を通じて獲得される、アジーヴァ(ajīva、非霊魂)からジーヴァ(jīva、霊魂)が解放された状態のことである。そのため完全智とはガーティヤー・カルマを完全に消滅させた後の魂によって得られる、自己あるいは非自己に関する無限の知識を意味する。そういった完全智を獲得した人間はケーヴァリン(kevalin)と呼ばれる。ケーヴァリンは勝者(jina、ジナ)あるいは阿羅漢(arhat、アルハット)としても知られ、ジャイナ教徒によって最高の存在としてあがめられる。この段階に至った魂はアガーティヤー・カルマを消し去ったのち、生涯の最後に解脱に至る。

涅槃(ニルヴァーナ)

ニルヴァーナもしくはニッヴァーナサンスクリット語: निर्वाण, Nirvāṇa; プラークリット: णिव्वाण Nivvāṇa涅槃)は、ジャイナ教においてはカルマの呪縛からの最終的な開放を意味する。アリハントやティールタンカラのような悟りを開いた人は自身に残っているアガーティヤー・カルマを消滅させて自身のこの世界における存在を消滅させる。これがニルヴァーナ(nirvāṇa)である。用語として厳密には、アリハントの死がアリハントのニルヴァーナと呼ばれる、というのは死ぬことで世界における存在を終わらせて解脱するからである。モークシャ、すなわち解脱はニルヴァーナに引き続いて起きる。アリハントはニルヴァーナに至ったのちにシッダ、つまり解脱した者になる。しかし、ニルヴァーナという用語はしばしばモークシャの同義語としても使われる。カルパスートラではマハーヴィーラのニルヴァーナが入念に説明されている[7]

モークシャとしてのニルヴァーナ

モークシャ」と「ニルヴァーナ」という用語はジャイナ経典においてしばしば同じ意味で使われる[8][9]。ウッタラディヤヤナ・スートラではパールシュヴァの弟子のケーシにニルヴァーナの意味を説明するガウタマについて書かれている[10]


  1. ^ Varni, Jinendra; Ed. Prof. Sagarmal Jain, Translated Justice T.K. Tukol and Dr. K.K. Dixit (1993). Samaṇ Suttaṁ. New Delhi: Bhagwan Mahavir memorial Samiti 
  2. ^ Jacobi, Hermann; Ed. F. Max Müller (1895). Uttaradhyayana Sutra, Jain Sutras Part II, Sacred Books of the East, Vol. 45. Oxford: The Clarendon Press. http://www.sacred-texts.com/jai/sbe45/index.htm 
  3. ^ Jaini, Padmanabh (2000). “Chapter 5. Bhavyata and Abhavyata : A Jaina Doctrine of 'Predestination'”. Collected Papers on Jaina Studies. Delhi: Motilal Banarsidass Publ.. ISBN 81-208-1691-9 
  4. ^ Kuhn, Hermann (2001). Karma, The Mechanism : Create Your Own Fate. Wunstorf, Germany: Crosswind Publishing. ISBN 3-9806211-4-6 
  5. ^ Jaini, Padmanabh (1998). The Jaina Path of Purification. New Delhi: Motilal Banarsidass. ISBN 81-208-1578-5 
  6. ^ *Varni, Jinendra; Ed. Prof. Sagarmal Jain, Translated Justice T.K. Tukol and Dr. K.K. Dixit (1993). Samaṇ Suttaṁ. New Delhi: Bhagwan Mahavir memorial Samiti  Verse 262 - 4
  7. ^ Jacobi, Hermann; Ed. F. Max Müller (1884). Kalpa Sutra, Jain Sutras Part I, Sacred Books of the East, Vol. 22. Oxford: The Clarendon Press. http://www.sacred-texts.com/jai/sbe22/index.htm 
  8. ^ Jaini, Padmanabh (2000). Collected Papers on Jaina Studies. Delhi: Motilal Banarsidass Publ.. ISBN 81-208-1691-9 : "Moksa and Nirvana are synonymous in Jainism". p.168
  9. ^ Michael Carrithers, Caroline Humphrey (1991) The Assembly of listeners: Jains in society Cambridge University Press. ISBN 0521365058: "Nirvana: A synonym for liberation, release, moksa." p.297
  10. ^ Jacobi, Hermann; Ed. F. Max Müller (1895). Uttaradhyayana Sutra, Jain Sutras Part II, Sacred Books of the East, Vol. 45. Oxford: The Clarendon Press. http://www.sacred-texts.com/jai/sbe45/index.htm 


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