解脱 (ジャイナ教)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/07 08:17 UTC 版)
概要
解脱(mokṣa)という概念は、それ自体が主体的に行動し、その結果を享受し、責任を持つ永遠の魂の存在を前提としている。そのうえで、全ての魂は世界の物質的な活動に絡めとられ、永遠に過去から業に束縛され、ある存在から別の存在へと転生・再生を繰り返しているとされる。ジャイナ教によれば、全ての魂はこの繰り返される生と死からの解放、つまり解脱に到達できるという。
ジャイナ経典にみられる記述
サマン・スッタム(Samaṇ Suttaṁ[1])は、ニルヴァーナに関する以下の記述より成る -
ウッタラディヤヤナ・スートラ[2]によって、パールシュヴァの門人のケーシにガウタマが解脱の意味を説明した様子がわかる。
あらゆる観点から見て安全だが到達しがたい場所があり、そこでは年を取ることも死ぬこともなく、苦しみもなければ病気をすることもない。ニルヴァーナ、あるいは苦痛からの解放、あるいは完全性と呼ばれている場所こそがあらゆる観点から見て安全で、幸福で、静寂な場所であり、偉大な賢者たちがそこに到達できる。そこはあらゆる観点から見て永遠の場所であるが到達しがたい。そこへ到達した賢者は悲しみから解放され、存在の流れを終わらせた。(81-4)
バーヴィヤター
しかし、解脱の達成可能性の観点から、ジャイナ経典は霊魂(jīva)をバーヴィヤ(bhāvya)とアバーヴィヤ(abhāvya)の二つのカテゴリに分ける。バーヴィヤである霊魂とは解脱を信じており、そのため解脱へいたろうと努力している霊魂のことである。この可能性あるいは性質はバーヴィヤター(bhāvyatā)と呼ばれている[3]。しかしながら、バーヴィヤター自体は解脱を保証するものではない、というのも魂は解脱するためには必要な努力を尽くす必要があるからである。一方アバーヴィヤである魂とは、解脱を信じておらず解脱に至ろうと努力することがないために、解脱へ至ることができない魂のことである。
個別性の概念
ジャイナ教は解脱の後にも個別性の概念が存続することを支持する。解脱に至った魂もまだ解脱に至っていない魂も無数に存在する。解脱に至ったのちにも魂は互いに区別できる個別性を保つ。そのため、永遠・無限の至福の中にシッダ(成就者)が無数に存在する。
シッダシーラ
ジャイナ宇宙論によれば、シッダシーラ(siddhaśīla)とは、シッダ(siddha、成就者)が居住する場所である。シッダシーラは宇宙の頂に存する。
人間として生まれること
解脱は人間としての生においてのみ到達できる。神々や天上の存在であっても人間同様に転生し、解脱するためには正しい認識、正しい知識、正しい行為に従う必要がある。ジャイナ教によれば、人間として生まれることは非常に得がたい、貴重なことであり、そのため人間は賢い選択をするべきだという。
- ^ Varni, Jinendra; Ed. Prof. Sagarmal Jain, Translated Justice T.K. Tukol and Dr. K.K. Dixit (1993). Samaṇ Suttaṁ. New Delhi: Bhagwan Mahavir memorial Samiti
- ^ Jacobi, Hermann; Ed. F. Max Müller (1895). Uttaradhyayana Sutra, Jain Sutras Part II, Sacred Books of the East, Vol. 45. Oxford: The Clarendon Press
- ^ Jaini, Padmanabh (2000). “Chapter 5. Bhavyata and Abhavyata : A Jaina Doctrine of 'Predestination'”. Collected Papers on Jaina Studies. Delhi: Motilal Banarsidass Publ.. ISBN 81-208-1691-9
- ^ Kuhn, Hermann (2001). Karma, The Mechanism : Create Your Own Fate. Wunstorf, Germany: Crosswind Publishing. ISBN 3-9806211-4-6
- ^ Jaini, Padmanabh (1998). The Jaina Path of Purification. New Delhi: Motilal Banarsidass. ISBN 81-208-1578-5
- ^ *Varni, Jinendra; Ed. Prof. Sagarmal Jain, Translated Justice T.K. Tukol and Dr. K.K. Dixit (1993). Samaṇ Suttaṁ. New Delhi: Bhagwan Mahavir memorial Samiti Verse 262 - 4
- ^ Jacobi, Hermann; Ed. F. Max Müller (1884). Kalpa Sutra, Jain Sutras Part I, Sacred Books of the East, Vol. 22. Oxford: The Clarendon Press
- ^ Jaini, Padmanabh (2000). Collected Papers on Jaina Studies. Delhi: Motilal Banarsidass Publ.. ISBN 81-208-1691-9: "Moksa and Nirvana are synonymous in Jainism". p.168
- ^ Michael Carrithers, Caroline Humphrey (1991) The Assembly of listeners: Jains in society Cambridge University Press. ISBN 0521365058: "Nirvana: A synonym for liberation, release, moksa." p.297
- ^ Jacobi, Hermann; Ed. F. Max Müller (1895). Uttaradhyayana Sutra, Jain Sutras Part II, Sacred Books of the East, Vol. 45. Oxford: The Clarendon Press
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