漢越語 歴史

漢越語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/09 07:44 UTC 版)

歴史

現在のベトナム北部は紀元前から中国系の王朝の支配を受け、漢文化がベトナムに伝えられた。しかし、古い時代にはベトナムでの漢語の使用は限定的であった。時代には仏僧の間に漢文の知識が普及した。本格的に漢語が使われるようになったのは10世紀以降、むしろベトナムが独立王朝を開いてからであった[8]。ベトナムの伝承漢字音も主要な部分はこのころに成立したと考えられる。

15世紀の前期黎朝時代には中国の影響を受けた刑律が作られ、科挙制度も完成された[9]

漢字を廃止してから、漢語を固有語で置きかえることも行われたが(飛行機を phi cơ(飛機)から máy bay に改めるなど)[6]、新たに作られた漢語もある(máy vô tuyến truyền hình(無線伝形、テレビ)など)[10]

他言語の漢字語との違い

日本語や朝鮮語における漢字語にも元の中国にない単語や表現があるように、漢越語にもベトナム語特有の表現がある。例えばキリスト教の「牧師」については「linh mục(靈牧)」と表現するが、これは他の漢字文化圏にはないものである。また、他の漢字文化圏での「理論」の意味に対応する言葉を「lý thuyết(理說)」と表記するが、これは古代中国語にあった単語を「theory」の訳語として用いたものである。アメリカ合衆国の公式名称は「Hoa Kỳ(花旗)」と呼ばれ、こちらは中国語では米国の国旗を指す表現である。

単語が同じ意味が全く違ったり語彙の意味が新しく変わった場合がある。ベトナム語の「giám đốc(監督)」は「理事」を意味する。また、「sinh viên(生員)」という表現は昔は過去の試験を準備する受験生を意味する言葉であったが、今では「大学生」の意味で使われている。

和製漢語はベトナムにも導入され、中国語やベトナム語とも共通している。しかし、中国やベトナムにおいて語彙が既に存在していた場合は和製漢語が淘汰されたケースも存在する。このような場合は日本語と朝鮮語のみで共通の語彙が用いられ、中国語およびベトナム語では異なる語彙が用いられている。全体的に西欧由来の概念語彙や抽象語彙は共通であるのに対し、具体的な語彙は異なる表現であることが多い。

日本語とベトナム語とで意味が異なる「同型異義語」の例
日本語 ベトナム語
チュ・クオック・グー 常用漢字
医師 bác sĩ, bác sỹ 博士
地図 bản đồ 版図
博物館 bảo tàng 宝蔵
デモ biểu tình 表情
学士 cử nhân 挙人
能力 khả năng 可能
裏切ること phản phúc 反覆
手段 phương tiện 方便
大学生 sinh viên 生員
事故 tai nạn 災難
天気 thời tiết 時節
図書館 thư viện 書院
博士 tiến sĩ, tiến sỹ 進士
ベトナム独特の「越製漢語」の例
日本語 ベトナム語
チュ・クオック・グー 常用漢字
マルチメディア đa phương tiện 多方便
特殊部隊 đặc công 特攻
領海 hải phận 海份
誇りに思うこと hãnh diện 倖面
マスク khẩu trang 口装
性的虐待 lạm dụng tình dục 濫用情慾
丁寧 lịch sự 歴事
犠牲者 nạn nhân 難人
芸術家 nghệ sỹ, nghệ sĩ 芸士
ラジオ放送 phát thanh 発声
音訳 phiên âm 翻音
乗り物、交通手段 phương tiện giao thông 方便交通
刑務官 quản giáo 管教
性交 quan hệ tình dục 関係情慾
重要 quan trọng 関重
またね、さようなら tạm biệt 暫別
美容院 thẩm mỹ viện 審美院
刑務所 trại giam 寨監
テレビ truyền hình 伝形
看護師 y tá 医佐
日中朝越で比較した例
日本語 朝鮮語 中国語 ベトナム語
飛行機 비행기 / 飛行機 飞机 / 飛機 máy bay / 𣛠𩙻
phi cơ / 飛機
汽車 기차 / 汽車 火车 / 火車 tàu hỏa / 艚火
野球 야구 / 野球 棒球 bóng chày / 𣈖持
会社 회사 / 會社 公司 công ty / 公司
写真 사진 / 寫眞 照片 nhiếp ảnh / 攝影
映画 영화 / 映畵 电影 / 電影 điện ảnh / 電影
空港 공항 / 空港 机场 / 機場 sân bay / 𡓏𩙻
phi trường / 飛場
時間 시간 / 時間 时间 / 時間 thời gian / 時間
역 / 驛 gaフランス語gare に由来)

  1. ^ 川本(1979) p.2
  2. ^ グエン・タイ・カン(1987) p.458
  3. ^ 三根谷(1993) p.184
  4. ^ 川本(1987) p.476
  5. ^ a b 冨田(1988) pp.782-783
  6. ^ a b グエン・タイ・カン(1987) p.461
  7. ^ 川本(1979) p.1
  8. ^ 三根谷(1993) p.201
  9. ^ 桜井由躬雄「亜熱帯のなかの中国文明」 『東南アジア史 1.大陸部』山川出版社〈新版 世界各国史 5〉、1999年、188-190頁。 
  10. ^ 川本(1987) p.480


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