東山トンネル (愛知県) 歴史

東山トンネル (愛知県)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/30 05:57 UTC 版)

歴史

高速1号線(5号万場線と2号東山線の総称)の東側ルートは当初予定された四谷出入口 - 名古屋ICを廃止のうえ、1976年11月に代替ルートとして四谷出入口 - 高針JCTに変更された(ルート変更の経緯については名古屋高速2号東山線#路線構想を参照)。この変更によって通過地域の住民は東山公園の自然破壊、排気ガスによる環境悪化の懸念から建設反対運動を展開した[44][7]。ただし、変更当時は高針JCT接続の名古屋環状2号線の事業化が未決定のため、決定を見るまでは四谷以東は計画留保のうえ都市計画から除外、それに呼応して反対運動も下火になった。ただし、留保の間も都市計画決定に向けた水面下の作業が行われ、換気塔から排出される排気ガスの環境への影響、気流等の観測データを採取のうえ、住民立合いのもとで説明会を実施した[44][45]

その後、名古屋環状2号線専用部が事業認可を受け、高針ルート検討へのお膳立てが整いつつあったところへ、1987年11月の1号楠線および都心環状線の一部で半地下式から高架式に再変更する都市計画変更を受けて名古屋市は道路整備も新段階に入ったと判断、そのうえで、長年計画留保となっていた四谷 - 高針間の再検討を開始すると表明した[7]

これに伴って反対運動も再燃した。住民側は換気所から排出される排気ガスが起伏の多い当該地域の谷間に滞留することで公害増長の恐れがあると懸念を表明[46]。これに対して公社は気流の実証実験を重ねて疑念の払拭に努めた[44]。また、東名高速と東名阪自動車道を直結する通過交通が環境を悪化させるとの懸念も表明したが、こちらは伊勢湾岸自動車道豊田JCT - 四日市JCTの開通によって通過交通はそちらにシフトし、なおかつ豊田 - 四日市開通以後に四谷 - 高針間が開通することから通過交通は入ってこない、と名古屋市は釈明した[47]。しかしながら、住民側が特に不満を募らせたのが、なぜ緑多き東山公園をルートに選定したのか、選定するなら国道153号直結ルートとする方が合理的ではないかとの主張であった。名古屋市はこれについて、153号ルートでは名古屋環状2号線との接続部(植田ICに該当)が大規模化して建設困難と説明した[48]。また、東名高速名古屋ICに直結せず高針接続とすることは交通計画上不合理であるとの指摘については地下鉄が通っていることから建設不可との釈明を行った[48]。他にも、排気ガス抑制の観点からトンネル区間の最高速度50km/hと予定しているが、それを守る車などあるのか、という意見も出された[48][49]

様々な不満が噴出するも、名古屋市は高針ルートが都市計画決定を進める上での基本となりうるとの考えを堅持して譲ることはなく[50]、また、吹上 - 四谷間のみが先行開通すると四谷近辺で大渋滞が発生しかねないとの懸念や国からの同時開通の要望もあって[51]、1976年の凍結以来15年の時を経て高針ルートの都市計画が決定をみた[52]

年表

  • 1970年(昭和45年)9月25日 : 高速1号線として名古屋西IC - 名古屋ICを結ぶ当初案は再検討を要するとの判断から千種区鏡ヶ池以東は留保ということで最初の都市計画を決定[53]
  • 1973年(昭和48年)1月19日 : 広小路ルートから名古屋ICに至る区間を都市計画決定[54]
  • 1975年(昭和50年)
    • 4月15日 : 名古屋市は高速1号の広小路ルートから東山公園の南を直進のうえ、そのまま名古屋環状2号線に直結する新ルートを初めて公表[55]
    • 5月27日 : 名古屋市は市議会建設環境部会に名古屋都市高速道路素案を提出。市道鏡ヶ池線の東端を変更し、東山公園から高針に至るルート案を盛り込む[56]
    • 10月12日 : 高針ルート変更に反対する住民組織が発足[57]
  • 1976年(昭和51年)11月29日 : 高針ルートへの変更案を名古屋環状2号が整備計画未決定との理由により一旦留保、併せて千種区鏡池通(四谷出入口) - 名古屋IC間を廃止することを都市計画決定[45]
  • 1977年(昭和52年)4月1日 : 藤巻町周辺にて排気ガスの影響調査の一環で通年気象観測を実施[45]
  • 1982年(昭和57年)11月5日 : 環状2号専用部は近畿自動車道名古屋亀山線として、名古屋西JCT - 名古屋IC間の都市計画決定[58]
  • 1987年(昭和62年)11月27日 : 名古屋市の定例市議会本会議で西尾名古屋市長が市議会議員の質問に答える形で四谷 - 高針間の留保解除と建設に向けた意思を初めて表明[7]
  • 1990年(平成2年)4月6日 : 四谷 - 高針間の都市計画変更原案概要について名古屋市が初の地元説明会を開催[48]
  • 1991年(平成3年)
    • 8月28日 : 千種区鏡池通終点から名東区猪高町(高針JCT)まで区間延伸する都市計画決定[33][3]
    • 10月9日 : 路線認定[3]
  • 1992年(平成4年)10月 : 用地買収に着手[15]
  • 1992年(平成8年)11月11日 : 沿線住民への事業説明会を実施(11日と16日)[3]
  • 1996年(平成8年)10月1日 : 立坑工事に着手[59]
  • 2001年(平成13年)9月10日 : トンネルが貫通[60]
  • 2003年(平成15年)3月29日 : 東山トンネルを含む四谷出入口 - 高針JCT(3.6km)の開通により供用を開始[15]
  • 2012年(平成24年)12月7、10、11日 : 笹子トンネル天井板崩落事故を受けてトンネル内の緊急点検を実施[35]
  • 2019年(平成31年)2月3日-2月28日:東山トンネル内の天井板撤去工事を実施、同期間は全面通行止めとなった[61]

注釈

  1. ^ 同じ資料でありながらトンネル長が2,800mであったり3,560mであったりと数値が異なるが、本項では『名古屋高速道路公社30年史』p.123の3,560mと3,190mを採った。
  2. ^ 4.8m。この区域は4.8 - 14mの土被りしかない(『名古屋高速道路公社30年史』名古屋高速道路公社30年史編集委員会、2002年、p=129)

出典

  1. ^ a b c 名古屋高速道路公社30年史編集委員会 2002, p. 128.
  2. ^ a b 名古屋高速道路公社 2004, p. 29.
  3. ^ a b c d 名古屋高速道路公社 2004, p. 2.
  4. ^ 名古屋高速道路公社 2004, p. 1.
  5. ^ a b 名古屋高速道路公社30年史編集委員会 2002, p. 122.
  6. ^ a b 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 112.
  7. ^ a b c d e “高速道1号線の四谷-高針 建設へ向け一歩「来年度にも環境アセス手続き」西尾市長市会でで意思表示”. 毎日新聞. (1987年11月27日夕刊) 
  8. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 99.
  9. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, pp. 107–108.
  10. ^ a b c 名古屋高速道路公社30年史編集委員会 2002, p. 124.
  11. ^ a b 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 111.
  12. ^ 名古屋高速道路公社 2004, pp. 77–79.
  13. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, pp. 167–168.
  14. ^ 名古屋高速道路公社 2004, p. ¡¡(序文)・26.
  15. ^ a b c 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 107.
  16. ^ 名古屋高速道路公社 2004, p. ¡¡(序文).
  17. ^ 名古屋高速道路公社 2004, p. 47.
  18. ^ 名古屋高速道路公社30年史編集委員会 2002, p. 48.
  19. ^ a b 名古屋高速道路公社 2004, p. 10.
  20. ^ 名古屋高速道路公社 2004, p. ¡¡(序文)・10 - 11.
  21. ^ 名古屋高速道路公社 2004, p. 12.
  22. ^ 名古屋高速道路公社30年史編集委員会 2002, p. 129.
  23. ^ a b “名大電顕ショック高速道素案 頭かかえる学者『わずかな振動でも困る』”. 中日新聞: p. 6. (1975年5月27日夕刊) 
  24. ^ a b 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 167.
  25. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 110.
  26. ^ a b c d e 名古屋高速道路公社30年史編集委員会 2002, pp. 122–125.
  27. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, pp. 105–106.
  28. ^ 名古屋高速道路公社 2004, pp. 545–548.
  29. ^ 名古屋高速道路公社30年史編集委員会 2002, p. 126.
  30. ^ a b 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 168.
  31. ^ 名古屋高速道路公社30年史編集委員会 2002, p. 120、122.
  32. ^ a b 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, pp. 108–109.
  33. ^ a b 名古屋高速道路公社30年史編集委員会 2002, p. 120.
  34. ^ 名古屋高速道路公社 2004, p. 26.
  35. ^ a b “東山トンネルの緊急点検を公開 名古屋高速”. 中日新聞: p. 34. (2012年12月12日朝刊) 
  36. ^ http://www.nagoya-expressway.or.jp/app/webroot/files/common/150330.pdf
  37. ^ a b c d “なごやの特走隊 千種の巨大建造物の正体は”. 中日新聞: p. 18. (2009年2月23日朝刊) 
  38. ^ 安全につくられている東山トンネル”. 名古屋高速道路公社. 2016年3月27日閲覧。
  39. ^ a b 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 114.
  40. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 32.
  41. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 108.
  42. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 109.
  43. ^ 名古屋高速道路公社 2004, p. 27.
  44. ^ a b c 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, pp. 166–167.
  45. ^ a b c 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 456.
  46. ^ “都市高速の留保区間建設問題「ルート白紙撤回を」藤巻町民らが決起集会”. 中日新聞. (1987年12月14日朝刊) 
  47. ^ “27日にも態度決定 都市高速四谷-高針間留保解除 市議会部会で審議”. 中日新聞. (1990年4月25日朝刊) 
  48. ^ a b c d “都市高速1号四谷-高針間 名東で初の地元説明会 ルート変更や環境問題 住民の質問集中”. 中日新聞. (1990年4月7日朝刊) 
  49. ^ a b “都市高速1号線四谷-高針間工事 環境対策など質問相次ぐ 説明会に沿線住民約100人”. 朝日新聞. (1992年11月12日朝刊) 
  50. ^ “『ルート再検討を』都市高1号線の『留保』区間反対の会が要望書”. 中日新聞. (1989年10月4日朝刊) 
  51. ^ “都市高速 市長の留保区間建設発言"早い動き"地元反発”. 中日新聞. (1989年9月29日朝刊) 
  52. ^ “名古屋高速新ルート”. 朝日新聞. (1991年8月21日朝刊) 
  53. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 17.
  54. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 18、454.
  55. ^ “鏡ヶ池線 大幅に変更 東山公園南を通過 環状2号と結ぶ”. 中日新聞: p. 1. (1975年4月16日朝刊) 
  56. ^ “1、2号線だけの十字型 名古屋都市高速道路 市当局が変更素案提出”. 中日新聞: p. 1. (1975年5月27日夕刊) 
  57. ^ “『静かな環境を守れ』名東区藤巻町高速道路反対の会誕生”. 中日新聞: p. 10. (1975年10月13日朝刊) 
  58. ^ 日本道路公団名古屋建設局 名古屋工事事務所 1992, p. 7、22.
  59. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, pp. 107、463.
  60. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 465.
  61. ^ 名古屋高速 東山トンネル天井板撤去工事”. 名古屋高速道路公社. 2019年3月10日閲覧。
  62. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, pp. 112–113.
  63. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 231、261.
  64. ^ a b 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, pp. 181–182.
  65. ^ 名古屋高速道路公社四十年史編集委員会 2012, p. 29.
  66. ^ 国内最強といわれる愛知県警の移動式オービスが名古屋高速東山トンネル内で運用”. サンスポ (2018年10月30日). 2018年11月13日閲覧。[リンク切れ]





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