所得税法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/23 07:12 UTC 版)
概説
日本は租税法律主義を採っており、所得税については、所得税法で定められている。本法は純資産増加説、即ち包括的所得概念に基づく理念の基、立法されている[1]。原則は所得超過累進税率及び申告総合課税方式を採用するものである。これは暦年の個人所得合計額から人的控除額を差し引いた課税標準額に、相応する超過累進税率を乗じて税額を計算した上で、納税義務者自らが課税庁に申告及び納付するというものである。一方で、租税条約又は租税特別措置法による修正が採られていることも多く、このために所得分類、特に利子・配当・給与・雑・一時・譲渡・山林・退職の源泉ごとにそれぞれに超過累進税率と異なった税率を適用する分類所得税的な要素も散見される。これは昭和15年所得税法の名残りであると考えてよい。また、申告総合課税だけでなく、申告分離課税又は源泉分離課税といった複数の課税方式を採用している点も加えておく。
所得税法第2条に列挙する定義は制限的なものと概括的なものとが入り混じっている。これは他の公法(国籍法、戸籍法等)又は私法(民法、商法、金融商品取引法等)体系と接近するためであり、所得概念が包括的・重層的であることの証左でもある。加えて租税特別措置法等による修正があることで、租税制度を知らないままでは、個人が金融に投資する場合や不動産を譲渡する場合、正確な課税関係を語るのはほぼ不可能である[2]。もっとも経済活動の無国籍化・電子化に伴い、人物問わず流動性が急激化しているために課税関係が多元化することはやむを得ない面がある。しかし、所得税法に限ったことではないものの、新たな課税要件を都度に法条で定義するに当たり、必ず文言の射程限界に注意を払わなければならず、結果として重畳規定又は競合規定が増加し、複雑難解な法構造となることは自明である。そのため、制度の簡素性を損なわしめている観が否めず、民主的な申告納税制度を原則としながら、国民の租税制度理解を遠ざけかねない。また時限立法であるはずの租税特別措置法が利害関係人からのレントシーキングによって実質恒久化するに伴い、税負担の公平性が担保できているか疑問を呈せざるを得ない面がある。
注釈
- ^ 調整所得金額に対する1号税額の割合。
出典
- ^ 谷口勢津夫『税法基本講義』第2版171ページ
- ^ 増井良啓『租税法入門』87ページ
- ^ 所得税法 (明治20年3月23日勅令第5号)は、廃止
- ^ 第48国会衆議院会議録第1号 1965年2月26日
- ^ “第113回国会 衆議院本会議 第8号 (昭和63年9月22日)所得税法等の一部を改正する法律案の大蔵大臣の趣旨説明”. 国会会議録検索システム. 国立国会図書館 (1988年9月22日). 2020年1月31日閲覧。
- ^ 所得税法等の一部を改正する法律(昭和63年12月30日法律第109号)
- ^ 増井91ページ
- ^ 谷口233ページ
- ^ No.2029 確定申告書の提出先(納税地)|国税庁
- ^ No.2532 給与等に係る源泉所得税及び復興特別所得税の納税地|国税庁
- ^ No.2011 課税される所得と非課税所得|国税庁
- ^ 谷口勢津夫『税法基本講義』第2版225 - 230ページ
- ^ No.2220 総合課税制度国税庁
- ^ 谷口272ページ
- ^ a b No.2250 損益通算|所得税|国税庁
- ^ 第7節 損益通算及び損失の繰越控除 - 所得税法(令和2年度版)|税大講本|税務大学校|国税庁
- ^ 谷口304ページ
- ^ 谷口305ページ
- ^ 申告納税者の所得税負担率(平成19年分) 国税庁「平成19年分申告所得税標本調査(税務統計から見た申告所得税の実態)」より
- ^ 国税庁 No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)
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