戦争と平和 (オペラ) 物語

戦争と平和 (オペラ)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/22 16:08 UTC 版)

物語

『新グローヴオペラ事典』[24]と『オペラ名曲百科』[23]を参照した。

全2部、13場からなり、5幕構成として上演されることがある[25]。原作の内容を大幅に刈り込み、とくに第1部は、原作第2巻後半で描かれるナターシャの恋愛に場面が集中している。

エピグラフ

原作第3巻から改変した詩で、外国の侵入に対する抵抗の決意を合唱が歌う。第2部冒頭に置くこともでき、どちらを採るべきかプロコフィエフは決定していない。

第1部

クトゥーゾフを表すライトモティーフを用いた短い序曲がおかれている。

第1場

舞踏会のナターシャ。レオニード・パステルナーク

ロストフ邸とその庭。5月の夜、客として滞在しているアンドレイが眠れずにいると、ロストフ家令嬢のナターシャとそのいとこのソーニャが上階の窓辺へ現れ、声が聞こえてくる。妻を亡くしているアンドレイにナターシャへの想いが芽生える。

第2場

1809年大晦日、老貴族の館の舞踏会場。ポロネーズが踊られ、合唱がそれに続く。ナターシャは父親のロストフ伯爵とソーニャとともに現れ、洗礼親のアフロシーモワ、その知人のペロンスカヤと言葉を交わす。ピエールとその妻エレン、エレンの兄アナトールと友人のドーロホフが次々と到着する。アナトールはナターシャの容姿を気に入り、エレンに仲立ちを頼む。皇帝アレクサンドル1世が現れ、マズルカが踊られる。

アンドレイが現れて、ピエールはナターシャを彼に引きあわせる。ワルツにのってアンドレイとナターシャは言葉を交わし、それを見ていたロストフ伯爵はふたたびアンドレイを家へと招待する。

第3場

ボルコンスキー老公爵邸。アンドレイの求婚を受けたナターシャはロストフ伯爵とともに、アンドレイの父親の老公爵のもとを訪れる。しかし老公爵はすぐに現れず、彼女たちはアンドレイの妹のマリヤとやりとりする。結婚に反対する老公爵から侮辱を受け、ナターシャは怒りとアンドレイへの愛を歌う。

第4場

ナターシャを描いた絵葉書。Elisabeth Boehm

ベズーホフ伯爵邸。舞踏会が開かれているなか、エレンはナターシャの婚約を祝福するが、アナトールが彼女に恋していることも伝える。アナトールが現れて彼女を誘惑し、情熱的な手紙を渡していく。ソーニャからは警告されるものの、ナターシャは心を動かされている。

第5場

ドーロホフの家。アナトールがナターシャとの駆け落ちの計画を話し、ドーロホフからは警告を受ける。アナトールは御者のバラガを呼び、遊び相手のジプシー女、マトリョーシャに別れを告げて出発していく。

第6場

アフロシーモワ邸。ナターシャはアナトールを待っていたが、ソーニャの密告によって計画が知られアナトールは追い返される。アフロシーモワがエレンやアナトールの「フランス風」の道徳を非難する。ピエールが現れて、アナトールには妻がいることを伝えられたナターシャは行いを悔いる。ピエールはナターシャへの秘めた思いを打ち明ける。

第7場

ベズーホフ邸。エレンやアナトールたちが話しているところへピエールが現れ、アナトールを激しく非難する。一人になったピエールが物思いにふけっていると、デニーソフが戦争の勃発を知らせに現れる。

第2部

第8場

ボロジノの戦い。Louis Lejeune

ボロジノの戦い前夜のロシア軍堡塁。義勇兵たちの合唱に続き、アンドレイとデニーソフが言葉を交わす。農民たちは住処を追われた悲しみと抵抗の意思を歌い、ピエールと出会ったアンドレイは勝利への決意を語る。

合唱に迎えられてクトゥーゾフ総司令官が登場し、軍を鼓舞する。アンドレイはクトゥーゾフから参謀に加わるよう誘いを受けるが、連隊のもとにとどまると答える。

第9場

ボロジノの戦いの最中、ナポレオン軍の位置するシェヴァルジノ堡塁。ナポレオンはモスクワへの入城を思い描くが、前線からはかんばしくない報告が続き、苦戦にナポレオンは困惑する。

第10場

フィリ(Fili)の農家。将軍たちが集まって軍事会議が開かれ、モスクワの扱いが議題になっている。モスクワを放棄する苦渋の決断を下したクトゥーゾフは、モスクワへの思いを歌う(「荘厳なる、陽に輝く、ロシアの町々の母よ」 Величавая в солнечных лучах)。

第11場

フランス軍に占領されたモスクワ。フランス人兵士たちは無為に過ごしており、モスクワの住民たちは反抗的である。ピエールが現れてロストフ家の小間使いのドゥニャーシャと出会い、ロストフ家は家財道具を捨てて退去し、偶然負傷者として滞在していたアンドレイもともにいたと聞かされる。

負傷したアンドレイのもとを訪れるナターシャ。レオニード・パステルナーク画

街を後にするまえに住民たちは建物へ火を放っていく。ピエールは放火の罪を着せられてフランス軍に捕縛され、おなじ捕虜のカタラーエフと知り合う。混乱のなか街は炎に包まれていく。

第12場

薄暗い農家。瀕死の重傷を負ったアンドレイはベッドに横たわり、幻覚を見ている。我に返ると枕元にはナターシャの姿がある。アンドレイはナターシャを許し、二人は出会いを回想しながらあらためて愛を語りあい、アンドレイは息絶える。

第13場

吹雪のスモレンスク街道。フランス軍が捕虜を連れて撤退していく。カタラーエフは隊列についていけなくなり射殺される。デニーソフ率いるパルチザンが現れて、ピエールたちは解放され、アンドレイの死とナターシャの無事を知らされる。クトゥーゾフが登場してロシアの勝利を宣言し、一同の喜びの合唱で終わる。


  1. ^ 『オックスフォードオペラ大事典』によると、ボリショイ劇場1842年以降オペラシーズンの幕開けにかならず「皇帝に捧げた命」を上演していたが、本作ははじめてその慣例を破る作品となった[6]
  2. ^ 1942年5月の試演を担当したのはアナトリー・ヴェデルニコフスヴャトスラフ・リヒテルだった[4]
  3. ^ プロコフィエフは本作を自分のもっとも代表的な、満を持した作品と考えており、ミラ・メンデリソンによれば、晩年には毎日のように上演の可能性について話していた[11]
  4. ^ 1958年に出版されている。
  5. ^ 第1部と第2部の分離についても指摘されるが、タラスキンは、第1部におけるナターシャ/アナトーリ/アンドレイ/ピエールと、第2部におけるロシア/フランス/人民/クトゥーゾフの関係が対応すると分析している[18]
  6. ^ マースは第2場の四拍子のポロネーズと、「スペードの女王」第2幕の四拍子のサラバンドとの関係を指摘している。また第5稿で追加された第1場の二重唱は、「スペードの女王」第1幕の二重唱でチャイコフスキーが用いたのと同じヴァシーリー・ジュコーフスキーの詩を取りあげている[11]
  7. ^ 映画「イワン雷帝」のため書かれた旋律が転用された。他にもオペラ内では、1937年に劇付随音楽として書かれたが演奏されなかった「エヴゲーニイ・オネーギン」の音楽も転用されている。
  8. ^ 新たな作品番号は与えられていない。
  1. ^ マース 2006, pp. 540.
  2. ^ a b 長木誠司 (2015). オペラの20世紀: 夢のまた夢へ. 平凡社. p. 307-311 
  3. ^ 田辺佐保子 (2002). “プロコフィエフ”. オペラ・ハンドブック 新版. 新書館. p. 50 
  4. ^ a b c d e f g h Taruskin 2006, pp. 384-387.
  5. ^ 伊藤 1995, p. 229.
  6. ^ ジョン・ウォラック、ユアン・ウエスト (1996). オックスフォードオペラ大事典. 大崎滋生、西原稔 監訳. 平凡社 
  7. ^ Ian MacKenzie (2010年1月29日). “Prokofiev's "War and Peace" original critical hit”. uk.reuters.com. 2018年5月25日閲覧。
  8. ^ マース 2006, pp. 541-543.
  9. ^ Nestyev 1961, p. 364.
  10. ^ マース 2006, pp. 509.
  11. ^ a b c マース 2006, pp. 544-545.
  12. ^ Richard, Taruskin (1992). “War and Peace”. In Sadie, Stanley. The New Grove dictionary of opera. 4. Macmillan. pp. 1103 
  13. ^ セルゲイ・プロコフィエフ (2010). プロコフィエフ: 自伝/随想集. 田代薫 訳. 音楽之友社. pp. 210-211 
  14. ^ マース 2006, pp. 541-542.
  15. ^ Nestyev 1961, p. 445-446.
  16. ^ Nestyev 1961, p. 446.
  17. ^ Nestyev 1961, p. 447-448.
  18. ^ a b c d Taruskin 2006, pp. 389-390.
  19. ^ Nestyev 1961, p. 451-452.
  20. ^ Nestyev 1961, p. 448-449.
  21. ^ 日本ロシア音楽家協会 (2006). ロシア音楽事典. 河合楽器製作所出版部. p. 191 
  22. ^ Taruskin 2006, pp. 383-384.
  23. ^ a b 永竹由幸『オペラ名曲百科 下』音楽之友社、1984年、438-445頁。
  24. ^ Taruskin 2006, pp. 388-389.
  25. ^ The Oxford Dictionary of Music (Sixth ed.). Oxford University Press. (2013). p. 905 
  26. ^ Christopher Palmer (1992). Prokofiev: Symphonic Suite from "War and Peace" etc (PDF). Philharmonia Orchestra, Neeme Järvi. Chandos. CHAN10538。


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