八月の光
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/26 03:20 UTC 版)
作品の分析
孤独感、疎外感、実存主義、決定論
この作品の主題はおそらく孤独感である。リーナ、クリスマス、ハイタワー、バンチおよびジョアナは全て様々な程度に孤独である。クリスマスは自分の目的あるいはアイデンティティを探求する実存主義的人物と見ることもできる。クリスマスは犠牲者であり、物としてみなされ、実際に無力である。ハイタワーが社会から身を引きそこに戻ろうとしないのはクリスマスとの対照として読むこともできる。同様にリーナの天真爛漫さもクリスマスと対照をなしている。
キリスト教
ジョー・クリスマスはクリスマスの日に孤児院のまえに捨てられていたことから名付けられており、イエスの生誕を象徴する明らかに示唆的な名前になっている。この小説には66人の人物が登場し、聖書には66の書がある。クリスマスの33歳の死は昇華と静謐の中で語られている。クリスマスが隠れていた木製テーブルを貫通したパーシー・グリムの5発の銃弾は、十字架に打ち込まれた釘に似ている。リーナとその父の居ない赤ん坊は聖母マリアとイエス・キリストを想起させる。バイロン・バンチはナザレのヨセフのように振る舞い、ルーカス・バーチの代わりに父親役を務める。キリスト教のイメージが全編を通じて垣間見られる。
フラスバ(Hlavsa)の著作『フォークナーと現代小説徹底研究』(Faulkner and the Thoroughly Modern Novel)[3]で詳述されるように、この小説には21の章があり、これはヨハネによる福音書と同じである。小説の各章はヨハネによる福音書の主題に対応している。例えば、ヨハネの福音書の有名な冒頭句「初めに、ことばがあった。ことばは神とともにあった。」は、リーナが赤ん坊の父親であるルーカス・バーチの「ことば」を執拗に信じていることにあたる。ヨハネの福音書の第5章で足の萎えた人を浸水によって癒すことは、ジョーが繰り返し液体の中に浸かることに表されている。ヨハネの福音書の第7章でイエスが宮で教えることは、マッケカンがジョーに公教要理を覚えさせようとすることに反映される。最も重要なのはヨハネの福音書の19章でキリストの磔が行われるところであり、この小説の19章でもジョー・クリスマスが殺され、去勢される。
フォークナー自身は1949年に出版された『大学でのフォークナー』という書物の中の質疑応答で、クリスマス=キリスト説を否定している。クリスマスは自分が白人か黒人か分からぬままに社会から自己疎外しようとした悲劇的人物だと説いた[4]。さらに「この物語はリーナ・グローヴから生れたのです。何ひとつ持たぬ妊娠した若い娘がその愛人を探し出そうと決心して出かけてゆく、というのが発想の元でした。女性というものの持つ勇気と忍耐強さ - それへの感嘆からあの物語は始まったのです。語り進むにつれて、私はあれこれ深入りしましたが、しかしこれは主としてリーナ・グローヴの物語なのです」と語っている[4]。
女嫌い、同性愛
クリスマスの女性との関係は厳密には機能不全である。かれは暴力的な言葉でのみ関係を理解し実行する。実際にこのことは他の登場人物についても程度は劣るが当てはまる。同性愛であるということも想像することができ、またジョーの女性との関係は矛盾していると言う者もいる。ジョーは女性が彼を泣かせようとする存在に過ぎないと考える。
人種問題
クリスマスの人種的アイデンティティ(あるいはその欠如)はアイデンティティに関するより大きなテーマの一部に過ぎない。クリスマスに流れている黒人の血は、彼に対する他人の挙動によって定義され、彼の誕生以来その体と行動に染み付いてきたある種の原罪を表している。黒人であることは地獄のようなイメージに結び付けられ、ある種の不純と神からの隔絶となる。このことはヨーロッパ人と同じ外観であるクリスマスにとっては特に問題であるが、クリスマスはアフリカ人の血を引いているという確証は持っていない。クリスマスは常にその生活を旅しながら生きており、所属しているとは考えられない白人社会から逃避している。その動かしがたい宿命の深さを白人の社会は理解できないために、その純潔と見られる社会を憎んでいる。彼の人種的アイデンティティとされるものは彼が忌み嫌うと共に心にしまっておく秘密のように見える。彼はしばしば自分が黒人であると人々に語り、人々が驚き、憐れみ、あるいは嫌悪に満ちた反応をするのを楽しんでいるように見られる。
フォークナーはジョアナとハイタワーという人物を通じて「人種差別の呪い」という概念を探索してもいる。二人共黒人に対する同情心から社会に阻害され脅かされているが、2人共ジェファソンに留まる道を選んでいる。
固有名詞の分類
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