ピアノソナタ (リスト) 構成

ピアノソナタ (リスト)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/23 20:09 UTC 版)

構成

自筆譜9ページ目の部分

リストのピアノソナタは、その構造についても議論の的になり、現在に至るまで様々な分析が提唱されてきた[21][22]。このように多様な見方が可能となるのは、場面ごとの継ぎ合わせが入念に行われているため[23]、また、この曲では冒頭で提示された主題(動機)が全曲に渡って展開され続け[8]、提示部の進行中にも、主題が提示されるやいなやそれ自身が題材として絶えず展開される性格をもつため[24]である。

ただし大まかな把握に関しては、1972年ウィリアム・S・ニューマン英語版の提唱した[注 4]、単一楽章の全曲を覆うソナタ形式と、多楽章形式のソナタが重ね合わされている「二重機能形式」('double-function' form)という解釈[注 5]が広く受け入れられている[21][22][注 6]。分析者によって違いが生じるのは含まれる楽章数(ニューマンやアラン・ウォーカーらは全曲を四つに分けているが、レイ・ロングイヤー(Rey Longyear)や野本由紀夫らは三部としている[21][8])や、全体を覆うソナタ形式と多楽章形式との結び付きの厳密な把握においてである[22]

こうした構成は、フランツ・シューベルトの「さすらい人幻想曲」に前例があり(シューベルトの作品も、限られた数の音楽的要素から大規模な4楽章の楽曲が構成され、また第4楽章にはフーガが配置されている)、この曲を愛奏し編曲も行ったリストが影響を受けたと考えられる[26]。このピアノソナタの形式が完成に至る以前から、同様の構成の実験はリスト自身の手でかなり研究されていた。その足跡が2つのピアノ協奏曲第1番第2番)や『ダンテを読んで』、『スケルツォとマーチ』、『大演奏会用独奏曲』などの作品に見られる[27]。後2者は現在になってようやく注目されるようになり、音源の普及が進んでいる。


注釈

  1. ^ 現存する唯一のピアノソナタ。リストは1825年(14歳)にも3曲のピアノソナタと1曲の四手連弾のためのソナタを作曲しているが、いずれも紛失している。うちヘ短調のもの(S.692b)とハ短調のものは冒頭の断片が遺されている[1]
  2. ^ ウォーカーは、完成したソナタをシューマンが入院前に耳にしたとする証拠はないとしている[5]
  3. ^ 新自由新聞英語版1881年2月28日付。
  4. ^ ただし20世紀初頭の時点で、オイゲン・シュミッツドイツ語版[22]エルンスト・フォン・ドホナーニ[21]同様の解釈を行っている。
  5. ^ ウォーカーは「ソナタを覆うソナタ」(a sonata across a sonata)[7]カール・ダールハウスは「単一楽章性における多楽章性」(Mehrsätzigkeit in der Einsätzigkeit)[25]と表現している。
  6. ^ シャロン・ウィンクルホーファー(Sharon Winklhofer)はこれに従わず、副次楽章(slow sub-movement)を含む単一楽章制としている[21]
  7. ^ レスリー・ハワードの録音は24分04秒、ワレリー・アファナシエフの録音は41分38秒をかけている。
  8. ^ 野本やアミ・ドメル=ディエニー英語版は、動機bと動機cを一つの主題の前・後半としている[8][29]
  9. ^ ニューマンは導入部の存在を認めず、ロングイヤーやドメル=ディエニーは動機aまでを導入部、動機bを提示部の開始としている[21][29]
  10. ^ ウィンクルホーファーは、主題上の提示部(第1小節~)と調性上の提示部(第32小節~)が分離していると分析する[21]
  11. ^ ウィンクルホーファーや野本は第205小節から[8]、ロングイヤーは第179小節から[21]、ドメル=ディエニーは第171小節から展開部が開始しているとする[29]
  12. ^ ウォーカーは、リストにとって嬰ヘ長調は、「孤独の中の神の祝福」「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」、「ダンテを読んで」の「天国」を表す部分、「エステ荘の噴水」のような作品に使われる、「神聖な」「至福の」調であると述べている[32]
  13. ^ ウィンクルホーファーは、この第453小節からを全体における再現部としている[21]
  14. ^ 自筆譜では楽譜が書かれず、「第2頁へ 数字を振られた21小節間を繰り返すこと」(第32-52小節を指す)と注記されている[33]
  15. ^ コーダの開始は、ロングイヤー、ウィンクルホーファーは第650小節から[21]、ドメル=ディエニー、ブレンデルは第711小節のAndante sostenutoから[35][31]、野本は第729小節からとしている[8]

出典

  1. ^ Hamilton 1996, pp. 15–16.
  2. ^ Walker 1989, pp. 150.
  3. ^ a b c d e f 野本 2011, pp. 5–6.
  4. ^ a b c Herttrich 2016.
  5. ^ a b Walker 1989, pp. 156–157.
  6. ^ ピアノソナタ ロ短調 - ピティナ・ピアノ曲事典
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Walker 1989, pp. 151–156.
  8. ^ a b c d e f g h i j k l 野本 2011, pp. 6–12.
  9. ^ Carter 2006, p. 11.
  10. ^ 福田弥『〔作曲家・人と作品〕リスト』音楽之友社、2005年、196頁。 
  11. ^ a b Walker 1989, pp. 150–151.
  12. ^ ブレンデル 1992, p. 235.
  13. ^ ジョーゼフ・ホロヴィッツ 著、野水瑞穂 訳『アラウとの対話』みすず書房、2003年、159頁。 
  14. ^ Carter 2006, pp. 155–156.
  15. ^ ナンシー・B・ライクドイツ語版『クララ・シューマン -女の愛と芸術の生涯-』高野茂訳、音楽之友社、1986年、425頁。
  16. ^ Hamilton 1996, p. 70-71.
  17. ^ Hamilton 1996, pp. 71–72.
  18. ^ Walker 1989, pp. 149.
  19. ^ ブレンデル 1992, p. 232.
  20. ^ Hamilton 1996, p. ix.
  21. ^ a b c d e f g h i j Hamilton 1996, pp. 28–34.
  22. ^ a b c d Moortele, Steven Vande (2009). Two-Dimensional Sonata Form: Form and Cycle in Single-Movement Instrumental Works by Liszt,Strauss, Schoenberg, and Zemlinsky. Leuven University Press. pp.35-37
  23. ^ Hamilton 1996, pp. 43.
  24. ^ ドメル=ディエニー 2005, pp. 67, 73.
  25. ^ Carl Dahlhaus (1988). "Liszt, Schönberg und die große Form Das Prinzip der Mehrsätzigkeit in der Einsätzigkeit". Die Musikforschung 41 (8): 202-213
  26. ^ Hamilton 1996, p. 11.
  27. ^ Hamilton 1996, pp. 15–22.
  28. ^ a b c d Walker 2001, pp. 774–775.
  29. ^ a b c d e f g h i ドメル=ディエニー 2005, pp. 64–75.
  30. ^ a b c d e f g h i j k l Hamilton 1996, pp. 34–48.
  31. ^ a b c d e ブレンデル 1992, pp. 233–241.
  32. ^ Walker 1989, p. 154.
  33. ^ 野本 2011, p. 16.
  34. ^ ドメル=ディエニー 2005, p. 76.
  35. ^ ドメル=ディエニー 2005, p. 77.
  36. ^ Hamilton 1996, pp. 56–58.
  37. ^ a b Carter 2006, pp. 44–61.
  38. ^ Carter, Gerard; Adler, Martin (2011). LISZT PIANO SONATA MONOGRAPHS: Arthur Friedheim's Recently Discovered Roll Recording. Wensleydale Press. p. 20 
  39. ^ Hamilton 1996, p. 49.





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