デーメーテール
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/23 21:36 UTC 版)
概説
クロノスとレアーの娘で、ゼウスの姉にあたる[3]。ゼウスとの間に娘コレー(後の冥府の王妃ペルセポネー)をもうけたものの[4]、その経緯はゼウスがデーメーテールに無理やり迫った挙句、無理やり子供を作らされたため、ゼウスにあまり良い印象を持っていなかった(ただし子供であるペルセポネーには愛情を注いでいた)。さらに弟の海神ポセイドーンからも無理強いされ、秘儀の女神デスポイナと1頭の名馬アレイオーン(アリーオーン)を生んだ[5]。最も有名な恋人のイーアシオーンは愛する者をとられたゼウスの嫉妬によって稲妻に撃たれた。イーアシオーンとの間にプルートスと[6][7][8][9][10]ピロメーロスを生んだ[10][11]。
普段は温厚だが怒ると飢餓をもたらすため、ゼウスも一目置いている。テッサリアー地方の王エリュシクトーンがデーメーテールの聖地である森の木を根こそぎ伐採したときは、彼の下へ「飢餓」を遣わして、エリュシクトーンをいくら食べても満たされない激しい飢えで苦しめ、最終的にはエリュシクトーンが自身の体を貪り食う形で死に追いやった[12]。この火が燃えるような飢えの苦しみのため、彼はアイトーン(燃え盛るの意)と呼ばれるほどであった[13][14][15]。
デーメーテール信仰の歴史は非常に古く、紀元前10世紀(紀元前17~15世紀頃からデーメーテールの祭儀であるエレウシースの秘儀が始まっていることからさらに古い可能性もある)にも遡ると考えられる。デーメーテールの名前も後半「メーテール」は古代ギリシャ語の母を意味する言葉である。前半の「デー」ははっきりとはしないが、大地を意味する「ゲー」(ガイア)が変形したものであるとの説が有力である。この名前が示す通り、彼女は本来、ギリシャの土着の農耕民族に崇拝された大地の女神、豊穣の女神と考えられている。
後世にギリシャに侵入した遊牧民族(と考えられる)は農耕民族を征服し、被征服民族のこの信仰を弾圧した。デーメーテールがゼウスに辱めを受ける神話は豊穣の女神に奉じる農耕民族が雷の神を奉じる遊牧民族に征服されたことを、ペルセポネーが攫われたことでデーメーテールが放浪する神話は彼女の信仰の拠点が弾圧によって各地を転々としたことを示していると考えられている。
しかし結局、被征服者のデーメーテール信仰を無視できず自らの神である雷の神の姉であり愛人の地位を与えて取り込んだものと考えられる。神話でもデーメーテールは神々の始祖であるガイアからレアーに続く地母神の正当な後継であり、数多の女神の中でも最高位の存在とされ「大女神」と呼ばれている。
- ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』、203頁。
- ^ 呉茂一、261頁。
- ^ “百科事典マイペディアの解説”. コトバンク. 2018年1月28日閲覧。
- ^ ヘーシオドス『神統記』912行。
- ^ パウサニアス、8巻25・5。
- ^ ヘーシオドス『神統記』969行-971行。
- ^ シケリアのディオドロス、5巻49・4。
- ^ シケリアのディオドロス、5巻77・1。
- ^ シケリアのディオドロス、5巻77・2。
- ^ a b “ヒュギーヌス『天文譜』2巻4話”. ToposText. 2022年2月10日閲覧。
- ^ Pierre Grimal 1986, p.366.
- ^ オウィディウス『変身物語』8巻。
- ^ アイリアーノス、1巻27。
- ^ リュコプローン『アレクサンドラ』1393行への古註。
- ^ ヘーシオドス断片69、5行-6行(Papyrus Cairensis Instituti Francogallici、322 fr.)
- ^ オウィディウス『変身物語』5巻539行-541行。
- ^ アポロドーロス、1巻5・3。
- ^ アポロドーロス、2巻5・12。
- ^ パウサニアース、8巻25・5。
- ^ a b パウサニアース、8巻25・7。
- ^ a b パウサニアース、8巻42・1。
- ^ 呉茂一改版、319頁。
- ^ パウサニアース、8巻37・9。
- ^ パウサニアース、8巻25・6。
- ^ パウサニアース、8巻42・2。
- ^ パウサニアース、8巻42・4。
- ^ 呉茂一改版、320頁。
- ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』、204頁。
- ^ 豊田和二『図解雑学 ギリシア神話』ナツメ社。
- ^ 創元社編集部『ギリシア神話ろまねすく』創元社。
- ^ クレア・ギブソン『シンボルの謎を解く』産調出版。
固有名詞の分類
- デーメーテールのページへのリンク