オーバーハウザー効果 NMR分光法

オーバーハウザー効果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/23 04:42 UTC 版)

NMR分光法

NOEは構造割り当てのためにNMR分光法において使われている[7]。この応用では、NOEは化学結合を通してではなく空間を通して起こるという点においてスピン-スピン結合の応用とは異なっている。したがって、互いに近接近した原子はNOEを与えうるのに対して、スピン結合は2-3本の化学結合で原子がつなっがっている時にのみ観測される。観測されたNOEから得られる原子間距離は分子の3次元構造を確認するために役立つことが多い。2002年、クルト・ヴュートリッヒは溶液中の生体高分子の3次元構造を決定するために2次元NMR分光法を用いてNOEが利用できることを実証したことによりノーベル化学賞を授与された[8]

NOEを利用した2次元NMR実験法の一部の例としては、NOESY(nuclear Overhauser effect spectroscopy)、HOESY(heteronuclear Overhauser effect spectroscopy)、ROESY(Rotating frame nuclear Overhauser effect spectroscopy)、TRNOE(transferred nuclear Overhauser effect)、DPFGSE-NOE(double pulsed field gradient spin echo NOE)がある。NOESYは分子中の原子の相対的配向を決定でき、これによって3次元構造が得られる。HOESYは異なる元素の原子間のNOESY交差相関である。ROESYは磁化がゼロになるのを防ぐための磁化のスピンロックを含み、通常のNOESYが適用できない分子に適用される。TRNOEは、タンパク質へのリガンドの結合のように、同じ溶液中で相互作用する2つの異なる分子間のNOEを測定する[9]。DPFGSE-NOE実験法は過渡的(transient)NMR実験法であり、強いシグナルを抑制することで、非常に小さなNOEを検出する。

NOESY実験におけるNOE量は原子間距離の測定に使うことができる。2つの原子間の距離は測定されたNOE量とスケーリング定数に基づいて計算することができる。

は既知の固定された距離の測定に基づいて決定することができる。距離の範囲はスペクトル上の既知の距離とNOE量に基づいて報告することができ、平均と標準偏差、ピークを示さないNOESUスペクトル上の20箇所の測定、すなわちノイズ、測定誤差を与える。パラメータは全ての既知の距離が誤差境界内に入るように定められる。NOE量の下限は式

で示され、上限は

である。

こういった「固定距離」は研究する系に依存する。例えば、Locked核酸(架橋型人工核酸、Locked Nucleic Acids、略称LNA)は糖において距離に非常に小さな差がある多くの原子を持っており、グリコシド結合の二面角を見積ることができる。これによってNMRを使ってLNA分子動力学予測を基準に従って評価することが可能である[10]。しかし、RNAは立体配座がはるかに柔軟な糖を持っており、より広い下限と上限を持つ見積りが必要である[11]


  1. ^ Overhauser, Albert W. (1953). “Polarization of Nuclei in Metals”. Physical Review 92 (2): 411–5. Bibcode1953PhRv...92..411O. doi:10.1103/PhysRev.92.411. 
  2. ^ Carver, T. R.; Slichter, C. P. (1953). “Polarization of Nuclear Spins in Metals”. Physical Review 92 (1): 212–213. Bibcode1953PhRv...92..212C. doi:10.1103/PhysRev.92.212.2. 
  3. ^ Anderson, W. A.; Freeman, R. (1962). “Influence of a Second Radiofrequency Field on High-Resolution Nuclear Magnetic Resonance Spectra”. J. Chem. Phys. 37 (1): 411–5. Bibcode1962JChPh..37...85A. doi:10.1063/1.1732980. 
  4. ^ Kaiser, R. (1962). “Use of the Nuclear Overhauser Effect in the Analysis of High‐Resolution Nuclear Magnetic Resonance Spectra”. J. Chem. Phys. 39 (1): 2435. Bibcode1963JChPh..39.2435K. doi:10.1063/1.1734045. 
  5. ^ Solomon, I (1955). “Relaxation Processes in a System of Two Spins”. Phys. Rev. 99: 559. Bibcode1955PhRv...99..559S. doi:10.1103/PhysRev.99.559. http://www.mmrrcc.upenn.edu/mediawiki/images/d/df/A08.pdf. 
  6. ^ Anet, F. A. L.; Bourn, A. J. R (1965). “Nuclear Magnetic Resonance Spectral Assignments from Nuclear Overhauser Effects”. J. Am. Chem. Soc. 87 (22): 5250–5251. doi:10.1021/ja00950a048. http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja00950a048. 
  7. ^ Horst Friebolin "Basic One- and Two-Dimensional NMR Spectroscopy", 5th Edition, 2010, Wiley-VCH, Weinhiem. ISBN 978-3-527-32782-9.
  8. ^ The Nobel Prize in Chemistry 2002”. Nobelprize.org. 2011年3月24日閲覧。
  9. ^ Ni, Feng; Scheraga, Harold A. (1994). “Use of the Transferred Nuclear Overhauser Effect To Determine the Conformations of Ligands Bound to Proteins”. Accounts of Chemical Research 27 (9): 257–264. doi:10.1021/ar00045a001. ISSN 0001-4842. 
  10. ^ David E. Condon; Ilyas Yildirim; Scott D. Kennedy; Brendan C. Mort; Ryszard Kierzek; Douglas H. Turner (December 2013). “Optimization of an AMBER Force Field for the Artificial Nucleic Acid, LNA, and Benchmarking with NMR of L(CAAU)”. J. Phys. Chem. B 118 (5): 1216–1228. doi:10.1021/jp408909t. http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jp408909t. 
  11. ^ “Stacking in RNA: NMR of Four Tetramers Benchmark Molecular Dynamics”. Journal of Chemical Theory and Computation 11 (6): 2729–2742. (June 2015). doi:10.1021/ct501025q. PMC 4463549. PMID 26082675. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4463549/. 


「オーバーハウザー効果」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「オーバーハウザー効果」の関連用語

オーバーハウザー効果のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



オーバーハウザー効果のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのオーバーハウザー効果 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS