オクロの天然原子炉 核分裂生成物の痕跡

オクロの天然原子炉

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/21 09:49 UTC 版)

核分裂生成物の痕跡

Nd

U-235の熱中性子による核分裂生成物と、通常のネオジムの同位体比を比べた図。Ce-142(長寿命のベータ放射体)が崩壊してNd-142になるには、天然原子炉が停止してから十分な時間がたっていない。

鉱石中のネオジムの同位体比が、通常地球上でみられるものとは異なっていた。たとえば、通常のネオジムは142Ndを27%含むところが、オクロのネオジムは6%以下しか含んでおらず、代わりに143Ndの比率が高かった。通常のNdからオクロのNdを差し引いてみると、Ndの同位体の構成は235Uの核分裂反応で生成されるものと一致していた。

Ru

U-235の熱中性子による核分裂生成物と、通常のルテニウムの同位体比を比べた図。Mo-100(二重ベータ崩壊を起こす長寿命の同位体)が崩壊してRu-100になるには、天然原子炉が停止してから十分な時間がたっていない。

同様の調査がルテニウムの同位体比についても行われた。オクロのルテニウムは99Ruを予想より多く含んでいた(12.7%に対して27-30%)。これは99Tcが99Ruにベータ崩壊したとすると説明できる。次のグラフでは、天然のルテニウムの同位体比と、235Uが熱中性子で核分裂した結果生成されたルテニウムとを比較している。核分裂生成物の同位体比が異なることがはっきりわかる。核分裂生成物の100Ruのレベルが低い理由は、モリブデンの長寿命の同位体100Mo(半減期 = 1019年)のためである。天然原子炉が稼働していた時間を考えると、100Ruの崩壊はほとんど起こらなかった。

フィクションへの登場

  • ロジャー・ゼラズニイのSF小説『燃えつきた橋英語版』(1976年)[12]で言及されており、この天然原子炉は放射線による突然変異の増加によって地球生物の進化を加速させ、人類の出現を早めるためにある異星種族が意図的に設置したとの設定が説明されている。
  • 豊田有恒のSF小説『進化の鎮魂曲』において、オクロの天然原子炉が生物進化の初期段階で重要な役割を果たしたことが示唆されている。
  • 星野之宣のSF漫画『ベムハンター・ソード』のエピソードにおいて、天然原子炉の熱に依存した生態圏「原子力生命圏」が登場する。作中では、地球にも天然原子炉が存在したことが言及されている。

  1. ^ Kuroda, Paul Kazuo (1956). “On the Nuclear Physical Stability of the Uranium Minerals”. Journal of Chemical Physics 25: 781–782; 1295–1296. doi:10.1063/1.1743058. 
  2. ^ 黒田和夫『17億年前の原子炉―核宇宙化学の最前線』講談社〈ブルーバックス〉、1988年。ISBN 4061327208 
  3. ^ Meshik, A. P. (November 2005). “The Workings of an Ancient Nuclear Reactor”. Scientific American. http://www.sciam.com/article.cfm?id=ancient-nuclear-reactor. 
  4. ^ a b c d Gauthier-Lafaye, F.; Holliger, P.; Blanc, P.-L. (1996). “Natural fission reactors in the Franceville Basin, Gabon: a review of the conditions and results of a "critical event" in a geologic system”. Geochimica et Cosmochimica Acta 60 (25): 4831–4852. doi:10.1016/S0016-7037(96)00245-1. 
  5. ^ Davis, E. D.; Gould, C. R.; Sharapov, E. I. (2014). "Oklo reactors and implications for nuclear science". International Journal of Modern Physics E23 (4): 1430007. arXiv:1404.4948. Bibcode:2014IJMPE..2330007D. doi:10.1142/S0218301314300070. ISSN 0218-3013.
  6. ^ G.A., コーアン (1976年9月). “天然の原子炉”. サイエンス: 22. 
  7. ^ Meshik, A. P.; et al. (2004). “Record of Cycling Operation of the Natural Nuclear Reactor in the Oklo/Okelobondo Area in Gabon”. Physical Review Letters 93 (18): 182302. doi:10.1103/PhysRevLett.93.182302. 
  8. ^ De Laeter, J. R.; Rosman, K. J. R.; Smith, C. L. (1980). “The Oklo Natural Reactor: Cumulative Fission Yields and Retentivity of the Symmetric Mass Region Fission Products”. Earth and Planetary Science Letters 50: 238–246. doi:10.1016/0012-821X(80)90135-1. 
  9. ^ Gauthier-Lafaye, F. (2002). “2 billion year old natural analogs for nuclear waste disposal: the natural nuclear fission reactors in Gabon (Africa)”. Comptes Rendus Physique 3 (7–8): 839–849. doi:10.1016/S1631-0705(02)01351-8. 
  10. ^ New Scientist: Oklo Reactor and fine-structure value. June 30, 2004.
  11. ^ Petrov, Yu. V.; Nazarov, A. I., Onegin, M. S., Sakhnovsky, E. G. (2006). “Natural nuclear reactor at Oklo and variation of fundamental constants: Computation of neutronics of a fresh core”. Physical Review C 74 (6): 064610. doi:10.1103/PHYSREVC.74.064610. 
  12. ^ ロジャー・ゼラズニイ『燃えつきた橋』早川書房〈ハヤカワ文庫〉、1982年。ISBN 4150104611 


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