夫唱婦和
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/04 07:59 UTC 版)
27歳の延子は夫・牧山が帰宅すると、ネクタイをほどき、靴下を脱がせ足袋をはかせてやる貞淑な妻だった。出かけにも、夫に靴下をはかせ、ワイシャツやチョッキを着せた。そういった習慣は、延子の母親も亡き父親にしていたことだった。牧山は養子だったが、東京の教師のため、延子の田舎の実家には母一人になったが、一人娘の延子が東京へ行ってしまうと、妾の子・桂子を引き取っていた。延子と牧山夫婦は仲が良く、牧山は老後になったら、今の若い自分達のことを、延子に昔話としていろいろ聞かせてもらうことを楽しみとしていた。 延子の母親が死に、牧山は反対したが、桂子を東京の家に引き取ることになった。延子より3歳年下の桂子は背ばかり高く、骨張った感じで女らしさがなく、家事もぞんざいで、延子が牧山に足袋をはかせているのを見て冷笑していた。だが、そんな桂子も恋愛をしている女の眼のように変わってきた。桂子は牧山の助手・佐川と結婚の約束をし、妊娠していることを延子に打ち明けた。 しかし佐川の話を聞くと、佐川は桂子と結婚するつもりはないと言った。佐川は松山夫婦の前で、自分の日記を延子に見てもらいたいと言った。佐川の日記には、延子を愛していることが綴られ、それを桂子に見破られて、関係を迫られたことが書かれてあった。松山は延子に桂子の非の判断を任せたために、その日記を見ず、真実を知らないままだった。延子は佐山が自分を愛していたなどとは夢にも思わなかった。自分の覚えている人生と夫の覚えている人生が、違って来たことを自覚した延子は、老後の思い出話の中にそのことを夫に言えるだろうか、言えるようにならなければならないと考えた。
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