債券発行による株式の希薄化の防止
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/30 16:06 UTC 版)
「株式の希薄化」の記事における「債券発行による株式の希薄化の防止」の解説
実は債券の場合は、その発行数が増えてもただちにこのような問題は生じない。債券保有者が持っている元利払い請求権は債権債務関係の中で保護されているからである。もちろん債務が増えれば、債務の償還可能性や利払いの可能性にマイナスの影響はある。しかし元利払い請求権はともかく法律的には保護された債権である。ところが株式に与えられる権利は、たとえば利益配当請求権は残余利益(residual profit)分配請求権とも呼ばれるように、債権者の権利に劣後しており、残余したものを出資比率に応じて分配を受けるという不安定な権利なので、新株発行により分配に与る者が増えれば、その権利内容の希薄化が生ずるのである。 他方で債券の発行あるいは借入という資金調達方法は、調達資金による投資収益率が調達資金コストを上回る限り、株主の利益率(株主資本利益率あるいは自己資本利益率)を改善する効果がある。いわゆる債務のレバレッジ効果である。もともと経営者の立場からみると、債券の発行にせよ借入にせよ利払いなどの負債コストを経費として課税対象所得から控除できる節税効果がある。株主は、株式の希薄化につながる株式を用いた資金調達よりは、債券の発行や借入など債務増加型の資金調達を好むと考えられる。 他方、債券保有者は、自らの立場の安全性を保つ上では、高い自己資本比率を好ましいと考えるから、債務増加型ではなく自己資本増加型の資金調達を好むと考えられる。 このように株式の発行を用いた資金調達には、株主に不利な問題があるので、内部留保型の成長が好まれるのはすでに述べたとおりである。しかし経営者サイドが、内部留保の速度を上回る規模の投資の必要や事業の再編の必要などから、発行株数を増やす選択を迫られることがある。そういったケースでは、株主、債権者、経営者の3者間が株数の増加についての利害を複雑に対立させている。
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