リヴァイアサンガス田とは? わかりやすく解説

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リヴァイアサンガス田

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/24 23:30 UTC 版)

リヴァイアサンガス田
イスラエル
地域 東地中海
場所 レバント海盆
陸上/海上 海上
座標 北緯33度10分04秒 東経33度37分02秒 / 北緯33.16778度 東経33.61722度 / 33.16778; 33.61722座標: 北緯33度10分04秒 東経33度37分02秒 / 北緯33.16778度 東経33.61722度 / 33.16778; 33.61722
運営者 シェブロン
共同運営 ニューメッド・エナジー (45.34%)
レシオ・エナジーズ (15%)
シェブロン (39.66%)
開発史
発見 2010年12月
生産開始 2019年12月31日
生産
推定ガス埋蔵量 35,000[1] billion立方フィート (990×10^9 m3)
採掘可能ガス量 22,000[1] billion立方フィート (620×10^9 m3)
地層 タマル砂層
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リヴァイアサンガス田(リヴァイアサンガスでん、英語: Leviathan gas field)はイスラエルの海洋ガス田。地中海沿岸の都市ハイファの沖合130キロメートル、キプロスとイスラエルとの排他的経済水域の境界近傍に位置している。2010年に発見され、2019年より生産が開始された。確認埋蔵量は22兆立方フィート。2019年のリヴァイアサンガス田の生産開始によりイスラエルでは天然ガスの国内消費量よりも資源生産量が上回ることとなり、リヴァイアサンガス田から産出される天然ガスの一部はエジプトヨルダンへと輸出されている。権益はアメリカシェブロンが39.66%、イスラエルのニューメッド・エナジー英語版が45.34%、同イスラエルのレシオ・エナジーズが15%を保有している。この大規模ガス田の発見により東地中海の海域における天然資源の探査が進むきっかけとなり、続いてキプロスエジプトにおいても立て続けにガス田が発見されたことから周辺諸国でスムーズに資源開発を進めるための協力関係を構築する事を目的として東地中海ガスフォーラムが作られた。

埋蔵資源

リヴァイアサンガス田は地中海東部のレバント海沿岸の都市ハイファから沖合に130キロメートル、水深1692メートルの海底に位置している海洋ガス田である[2][3]。この領域はキプロスとイスラエルとの排他的経済水域の境界近傍に位置している[2]。ガス田の確認埋蔵量は22兆立方フィートにおよび、発見当時は過去10年で発見されたガス田の中でも最大の規模であった[4]

ガス資源はレバント堆積盆地と呼ばれる海底地形に貯留されている。このガスの起源は厚さ3000メートルにもおよぶ白亜紀に堆積した有機物に富む泥灰岩の地層が由来と考えられており、その上層に存在する漸新世から中新世に形成された空隙の多い砂岩の地層がガスの貯留層となり、更にこの砂岩層の上に形成された泥岩層が砂岩層に貯留されたガスを封じ込めている。その上、メッシーナ期における地中海の海水蒸発(メッシニアン塩分危機英語版)によって厚さ1000メートルにおよぶ蒸発岩層が形成され、この強固な蒸発岩の地層によって鮮新世に起きたユーラシアプレートアラビアプレートの衝突に起因する大規模な断層形成によるガス貯留層の破壊から守られる形となり、これらの要因がガスの貯留層形成に有利に働いたと考えられている[5]

2021年にアメリカ地質調査所はこのレバント堆積盆地を含む東地中海全体で286兆立方フィートの天然ガスが賦存しているとの推定を発表した[6]

歴史

イスラエルは1960年代から1970年代にかけてエネルギー資源の探索を旺盛に行っていたものの結果は低調であったが[7]、1998年にアメリカのノーブル・エナジー英語版がイスラエルの洋上エネルギー資源の探査に進出し[8]、イスラエルのデレク・エナジーおよびアヴナー石油開発と共同でレバント海の海底に位置するレバント堆積盆地で重点的に資源探査を行った結果、1999年にNoa Northガス田が、さらに2000年にはMari-Bガス田が発見された[9][7]。Noa Northガス田はイスラエル初の商業規模の資源生産が可能な海洋ガス田であり[10]、Mari-Bガス田とともにヤム・テチス・プロジェクトとして2014年にイスラエル初の天然ガスの商業生産が開始された[9][11]。また、1999年にイスラエルの石油探査に参入したイギリスブリティッシュ・ガス英語版はレバント堆積盆地の深海鉱区における資源探査のライセンスを取得して2009年に10.8兆立方フィートの可採埋蔵量を有するタマルガス田英語版を発見したが、資源の採掘事業に共同参画するイルラエル国外のパートナー企業を得ることが出来ず、この鉱区における資源探査のライセンスを返還した[10]。一方でアメリカ地質調査所は2010年4月にこれらの鉱区を含むレバント堆積盆地にまだ122兆立方フィートの未発見のガス資源が存在しているとする推定を公表した[8]

イルラエルの資源開発会社であるレシオ石油開発の共同創業者である地質学者のEitan Aizenbergは地質調査のデータからこの海域におけるガス資源の存在を確信しており、ブリティッシュ・ガスが返還した深海鉱区の探査権について18か月の暫定ライセンスを得て資源探査に参入した[10]。その後、デレク・エナジー、アヴナー石油開発およびノーブル・エナジーが共同参画して探査が進められ、2010年6月3日にノーブル・エナジーは三次元地震探査のデータから地質的成功確率50%、埋蔵量評価16兆立方フィートの海底構造を発見し、2010年10月に試掘を行うと発表した[10][8]。このガス田の権益はレシオ石油開発が15%、デレク・エナジーおよびアヴナー石油開発が各22.67%、ノーブル・エナジーが39.66%であった[12]。その後、2010年10月にノーブル・エナジーはSedco Express掘削リグを用いてリヴァイアサン-1油井で試掘を開始し[13]、その結果12月に中新世の地層から少なくとも67メートルの厚さのガス貯留層の発見に成功し事前に見積もられた16兆立方フィートのガスの存在を確認できたと発表した[14]。Eitan Aizenbergはこのリヴァイアサンガス田発見の功績により「リヴァイアサンの父」と呼ばれ、2022年にはハイファ大学から名誉博士号が送られた[15]。また、この大規模ガス田の発見により東地中海の海域における天然資源の探査が進むきっかけとなり、続いてキプロスエジプトにおいても立て続けにガス田が発見されたことから周辺諸国でスムーズに資源開発を進めるための協力関係を構築する事を目的として東地中海ガスフォーラムが作られた[16]

このリヴァイアサン-1油井の試掘では約5000メートルの深さまで採掘されたが、このガス貯留層の更に深層の地下7200メートルの地層には地質学的成功確率8%、推定埋蔵量12億バレルの石油資源の存在が推定されており更なる深度への試掘が計画された[12]。2012年1月に採掘リグをより深部まで掘削可能なHomer Ferrington採掘リグに変更して深層の試掘を行ったが[17]、2012年5月に試掘油井が高圧層に遭遇し技術的問題から深層の試掘は中止された[18]。この試掘によって深層資源の見積を地質学的成功確率25%、推定埋蔵量6億バレルに修正した[19]。また、2011年にはリヴァイアサン-1油井の北東13キロメートルの地点で評価のための2本目の油井(リヴァイアサン-2)の試掘を開始したが[20]、海水の流入事故が起こりこの油井は放棄された[21]。その後、2011年6月にはリヴァイアサン-2油井から更に4.4キロメートル離れて3本目のリヴァイアサン-3油井での試掘を始め、こちらでは88メートルの厚さのガス貯留層の発見に成功した[22]。さらにリバイアサン-4油井での試掘の成功や得られた試料の解析、その後の探査データの再分析などによりリヴァイアサンガス田の推定埋蔵量は22兆立方フィートと上方修正された[23][24]

当初リヴァイアサンガス田は2016年には商業生産を開始する予定であったが[25]、2014年10月にノーブル・エナジーはリヴァイアサンガス田の生産開始を2018年初頭に後ろ倒しにする発表を行った[26]。また、ガス田開発に関する政府の許認可の動きや、イスラエルにおける洋上ガス田の開発がノーブル・エナジーとデレク・エナジーによる独占状態であったことが独占禁止委員会によって違法とされた事などでもガス田開発は遅れ、2016年2月時点で生産開始は2019年になるとの見通しとなった[27][28]。その後2016年6月にイスラエル政府によるリヴァイアサンガス田の開発の認可が下り[29]、2019年12月31日にガスの生産が開始された[30]。このリヴァイアサンガス田の生産開始により2020年にイスラエルは天然ガスの国内消費量よりも資源生産量が上回り天然ガスの自給率100%を達成し、リヴァイアサンガス田から産出される天然ガスの一部は過去に輸入で使用していたパイプラインを逆流させる形でエジプトヨルダンへと輸出されるようになった[6][2][31]。しかしながらガス販売の契約は順調と言えず、2020年にはエジプトとイスラエルの接近を危惧する武装勢力によってパイプライン爆破されるテロ事件が発生し、またヨルダンではイスラエルからのガス輸入に反対する抗議デモが起るなど、政治状況による輸出の壁が立ちふさがっており、ガス田の巨大な埋蔵量に対して生産能力を制限した開発を余儀なくされている[31]

2016年12月にリヴァイアサンガス田に権益を持つデレク・エナジーとアヴナー石油開発が企業合併し[32]、その後2022年2月にニューメッド・エナジー英語版に社名を変更した[33]。また、同じく2022年2月にレシオ石油開発もレシオ・エナジーズに社名変更している[34]。更に、リヴァイアサンガス田の開発を主導したノーブル・エナジーは2020年7月にアメリカのシェブロンに買収された[31]。その結果、リヴァイアサンガス田の権益保有率はシェブロンが39.66%、ニューメッド・エナジーが45.34%、レシオ・エナジーズが15%となった[35]

出典

  1. ^ a b "Noble Energy Announces First Gas From the Leviathan Field Offshore Israel" (Press release). Houston: Bloomberg News. Business Wire. 31 December 2019. 2020年1月7日閲覧
  2. ^ a b c 川田眞子『イスラエル・キプロス・エジプトを中心とする東地中海の天然ガス事情 ―Leviathanガス田生産開始―』(レポート)エネルギー・金属鉱物資源機構、2020年4月20日https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1008604/1008736.html2023年11月26日閲覧 
  3. ^ 本田博巳「2011年から2019年までに発見された巨大油ガス田の3事例」『石油・天然ガスレビュー』5page=21-34publisher=エネルギー・金属鉱物資源機構、2019年9月25日、2023年11月26日閲覧 
  4. ^ 東地中海の天然ガス:古い問題の新しい側面”. Global News View (2021年6月17日). 2023年11月26日閲覧。
  5. ^ Xiaobing LIU et. al. (2017-08). Petroleum Exploration and Development (中国石油探査開発研究院) 44 (4): 573-581. doi:10.1016/S1876-3804(17)30066-6. 
  6. ^ a b 豊田耕平『東地中海天然ガス動向 ―探鉱ブームと地政学的対立の構図―』(レポート)エネルギー・金属鉱物資源機構、2023年2月16日https://oilgas-info.jogmec.go.jp/seminar_docs/1009601/1009633.html2023年11月26日閲覧 
  7. ^ a b 加藤望『東地中海ガス田開発 交錯する期待と課題(その1)』(レポート)エネルギー・金属鉱物資源機構、2018年5月31日https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1004762/1007537.html2023年11月26日閲覧 
  8. ^ a b c 宮本善文『イスラエル:巨大ガス田発見による期待と不安』(レポート)エネルギー・金属鉱物資源機構、2010年8月16日https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1003968/1004034.html2023年11月26日閲覧 
  9. ^ a b 永井一聡『東地中海ガス田の開発動向と石油会社の動き』(レポート)エネルギー・金属鉱物資源機構、2013年7月26日https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1004313/1004368.html2023年11月26日閲覧 
  10. ^ a b c d SHOSHANNA SOLOMON (2018年4月18日). “Octogenarian geologist behind Israel’s giant gas field eyes foreign waters”. THE TIMES OF ISLAEL英語版. 2023年11月26日閲覧。
  11. ^ Robin Beckwith (2011-03-01). “Israel's Gas Bonanza”. Journal of Petroleum Technology (OnePetro) 63 (3): 46-49. doi:10.2118/0311-0046-JPT. 
  12. ^ a b Ron Steinblatt (2010年8月29日). “A swelling Leviathan”. Globes英語版. 2023年11月26日閲覧。
  13. ^ Long-haul Israeli well under way”. Offshore magazine (2010年10月19日). 2023年11月26日閲覧。
  14. ^ Noble Energy Announces Significant Discovery at Leviathan Offshore Israel”. offshore energy (2010年12月29日). 2023年11月26日閲覧。
  15. ^ Ratio Energy Co-founder, “Father of Leviathan gas field” bestowed with Honorary Doctorate”. OilNOW (2022年4月11日). 2023年11月26日閲覧。
  16. ^ Gregory Brew (2020年8月26日). “A Mediterranean Scramble: Unraveling The Turkish Fight For Natural Gas”. THE FUSE. 2023年11月26日閲覧。
  17. ^ Noble set to re-enter Israeli well”. Offshore magazine (2012年1月17日). 2023年11月26日閲覧。
  18. ^ Noble Energy halts drilling at Leviathan prospect offshore of Israel”. Offshore Technology (2012年5月2日). 2023年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年11月26日閲覧。
  19. ^ Leviathan oil prospects encouraging for region -geologist”. ロイター (2012年10月15日). 2023年11月26日閲覧。
  20. ^ Leviathan gas find lives up to billing”. Offshore magazine (2010年12月30日). 2023年11月26日閲覧。
  21. ^ Noble to shift Leviathan well location”. Offshore magazine (2011年5月16日). 2023年11月26日閲覧。
  22. ^ Noble upgrades gas estimate for Leviathan offshore Israel”. Offshore magazine (2011年12月20日). 2023年11月26日閲覧。
  23. ^ Latest Leviathan gas well offshore Israel shows strong results”. Offshore magazine (2013年3月8日). 2023年11月26日閲覧。
  24. ^ Report identifies more gas in Leviathan offshore Israel”. Offshore magazine (2014年7月14日). 2023年11月26日閲覧。
  25. ^ 天然ガスがイスラエルの歴史を変える”. ナショナル・ジオグラフィック (2012年7月10日). 2023年11月26日閲覧。
  26. ^ Noble Energy sets early 2018 target for Leviathan start-up”. Offshore magazine (2014年10月31日). 2023年11月26日閲覧。
  27. ^ 濱田秀明、増野伊登『イスラエル産ガスの行き先は?―東地中海のガス開発動向』(レポート)エネルギー・金属鉱物資源機構、2017年4月27日https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1004689/1004708.html2023年11月26日閲覧 
  28. ^ 中島勇 (2016年3月29日). “№188 イスラエル:最高裁がガス開発合意を違憲と判断”. 公益財団法人中東調査会. 2023年11月26日閲覧。
  29. ^ Israel approves deepwater Leviathan development”. Offshore magazine (2016年6月3日). 2023年11月26日閲覧。
  30. ^ Noble starts Leviathan gas production offshore Israel”. Offshore magazine (2020年1月1日). 2023年11月26日閲覧。
  31. ^ a b c 川田眞子『東地中海の天然ガス動向(2020年)Chevronの参入で東地中海が再び動き出すか?』(レポート)一般社団法人中東協力センター〈中東協力センターニュース〉、2020年11月https://www.jccme.or.jp/11/pdf/2020-11/josei03.pdf2023年11月27日閲覧 
  32. ^ Israel's Delek Drilling, Avner Oil approve merger”. ロイター (2016年12月25日). 2023年11月26日閲覧。
  33. ^ Delek Drilling to be renamed, pursuing further East Med gas projects”. Offshore magazine (2022年2月25日). 2023年11月26日閲覧。
  34. ^ Ratio winks at renewable energy: changes its name to “Ratio-energies””. Time news (2022年2月7日). 2023年11月26日閲覧。
  35. ^ Operations Leviathan”. NewMed energy. 2023年11月27日閲覧。



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