紙巻きたばこ 安全性

紙巻きたばこ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/19 18:10 UTC 版)

安全性

タバコ葉には、有毒で習慣性の強いニコチンが含まれているので、乳児等が誤って口にしないよう、吸い殻も含め十分な注意が必要である。小児がたばこを一部(1本の一部など)飲み込んだくらいでは8割が無症状で死亡例はないが、成人が意図的に誤飲した場合(おそらく大量)、重篤な症状や死亡例がありうる[23]

ライトたばこなど低ニコチン低タールをうたう製品は、大衆を欺いており、欧州は「ライト」「低タール」といった用語の使用を禁じている[19]。実際には、減少したニコチン摂取量を補うために喫煙するたばこの本数が増えたり[12]、より深く吸い込むことにつながり、肺腺がんのリスクを増大させるとみられている[24]

有害性

フィリピンにおけるたばこ製品の包装。

たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の第11条は、誤った印象を与える用語を用いないために「ライト」といった用語の取り扱いを含めることができ、その包装において大きく明瞭で判読可能な警告を付し、面積の50%以上を占めるべきで30%を下回ることなく、また写真や絵を使うことができるとしている[25]。フランスでも写真を用いた同様の包装である[20]

薬物に関する独立科学評議会における、ニコチン含有製品を多基準意思決定分析英語版によって数値化した研究では、紙巻きたばこの有害性を100とすると、小型葉巻67、パイプ22、水パイプ14、電子たばこ4、ニコチンガムパッチは約2である[1]

実際の喫煙により摂取されるニコチン量は異なるが1 - 3mg前後である。表示上のニコチン量や製品名のマイルド(MildまたはMilds)、ライト (Lights) という記載は健康に関する安全性やリスクの軽減を意味しない[26]。体に入るニコチンやタールの量は吸い方によって大きく違う。長さの1/3まで吸ったところで止め普通の吸い方で吸ったときに比べて、タバコの3/4の長さまで吸い、煙を肺の奥まで思い切り吸い込んだときは吸い込むニコチン量は20-30倍の量になるとされる[27]

2009年アメリカでは、タバコに起因する443,000人の死亡があり、アルコールでは98,334人であった[2]。たばこを吸う人のうち、約半数はたばこに関連した病気で死亡するとする調査報告や[28]、たばこを吸う人は、吸わない人に比べて寿命が約14年短くなるという指摘も存在する[29]。一方で、喫煙者と非喫煙者の死亡率の比較からは40歳前に禁煙した場合には死亡率に変化は見られず、60歳以前であっても喫煙者より低いリスクであった[3]

症例対照研究とコホート研究にて自殺と喫煙の関連がみられている[4]。1995年と1998年に日本で行われた40から69歳の男性約4万5千人を対象にした多目的コホート研究(JPHC研究)でも、喫煙者では自殺率が30%高くなっていると報告されている。自殺率はとくに一日あたりの喫煙本数が多いと増加する[30][31]。たばこの消費と自殺企図による入院に関連が見られた[5]


  1. ^ 紙巻たばこの太さは直径ではなく円周で表示するのが一般的 -出典 日本専売公社『たばこの話あれこれ』p.100
  1. ^ a b Sweanor, David; Nutt, David J.; Phillips, Lawrence D.; Balfour, David; Curran, H. Valerie; Dockrell, Martin; Foulds, Jonathan; Fagerstrom, Karl et al. (2014). “Estimating the Harms of Nicotine-Containing Products Using the MCDA Approach”. European Addiction Research 20 (5): 218–225. doi:10.1159/000360220. PMID 24714502. https://www.karger.com/Article/FullText/360220. 
  2. ^ a b コロンビア大学嗜癖物質乱用国立センター (2012-06). Addiction Medicine: Closing the Gap between Science and Practice. p. 56. http://www.casacolumbia.org/templates/NewsRoom.aspx?articleid=678&zoneid=51 
  3. ^ a b Thun, Michael J.; Carter, Brian D.; Feskanich, Diane; Freedman, Neal D.; Prentice, Ross; Lopez, Alan D.; Hartge, Patricia; Gapstur, Susan M. (2013). “50-Year Trends in Smoking-Related Mortality in the United States”. New England Journal of Medicine 368 (4): 351–364. doi:10.1056/NEJMsa1211127. PMC 3632080. PMID 23343064. http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMsa1211127#t=article. 
  4. ^ a b Hughes, John R. (2008). “Smoking and suicide: A brief overview”. Drug and Alcohol Dependence 98 (3): 169–178. doi:10.1016/j.drugalcdep.2008.06.003. PMC 2585177. PMID 18676099. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2585177/. 
  5. ^ a b Hooman, Sharifi; Zahra, Hessami; Safa, Mitra; et al. (2013). “Association between cigarette smoking and suicide in psychiatric inpatients”. Tobacco Induced Diseases 11 (1): 5. doi:10.1186/1617-9625-11-5. PMC 3586371. PMID 23419005. https://tobaccoinduceddiseases.biomedcentral.com/articles/10.1186/1617-9625-11-5. 
  6. ^ a b c d e f g JTたばこワールド・たばこの構造 2012.8.30閲覧
  7. ^ a b c 日本専売公社『たばこの話あれこれ』日本専売公社、1976年、p.100
  8. ^ フィリップ・J・ヒルツ 著、小林薫 訳「10章 宣誓の上で」『タバコ・ウォーズ: 米タバコ帝国の栄光と崩壊』早川書房、1998年。ISBN 978-4-15-208183-4 (元B&W社研究部長ウィガンド博士の証言)
  9. ^ Connolly, G. N (2000). “How cigarette additives are used to mask environmental tobacco smoke”. Tobacco Control 9 (3): 283–291. doi:10.1136/tc.9.3.283. PMC 1748381. PMID 10982572. http://tobaccocontrol.bmj.com/content/9/3/283.long. 
  10. ^ a b c d 第6章 煙草消費の変容と煙草専売の運営 戦間期日本の家計消費 世帯の対応とその限界、西川邦夫、東京大学社会科学研究所研究シリーズ No. 57、東京大学社会科学研究所、2015、p85
  11. ^ 日本専売公社東京工場・工場史編集委員会 編著『たばこと共に七十余年』日本専売公社東京工場発行、1982年、pp.5-10
  12. ^ a b c Michael J Thun, David M Burns (2001). “Health impact of “reduced yield” cigarettes: a critical assessment of the epidemiological evidence”. Tob Control (10): i4-i11. doi:10.1136/tc.10.suppl_1.i4. PMC 1766045. http://tobaccocontrol.bmj.com/content/10/suppl_1/i4.full. 
  13. ^ 上野堅實『タバコの歴史』大修館書店、1998年、pp.167-168
  14. ^ ジョーダン・グッドマン 著『タバコの世界史』和田光弘 他 訳、平凡社、1996年、pp.124-126
  15. ^ a b ジョーダン・グッドマン 著『タバコの世界史』和田光弘 他 訳、平凡社、1996年、pp.124-130
  16. ^ ジョーダン・グッドマン 著『タバコの世界史』和田光弘 他 訳、平凡社、1996年、pp.131
  17. ^ United States Department of Health and Human Services, Public Health Service, National Institutes of Health, National Cancer Institute (19 November 2001). Monograph 13: Risks Associated with Smoking Cigarettes with Low Tar Machine-Measured Yields of Tar and Nicotine (Report). 米国がん協会. 2016年9月1日閲覧
  18. ^ 紙巻たばこで肺ガン イヌに吸わせて発生 米の学者が初めて実証『朝日新聞』1970年(昭和45年)2月6日夕刊 3版 11面
  19. ^ a b White, C. (2002). “Tobacco industry knowingly duped public with "low tar" brands”. BMJ 324 (7338): 633. doi:10.1136/bmj.324.7338.633. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1172091/. 
  20. ^ a b “喫煙による死者数、2030年までに年800万人に増加へ”. ロイター. (2017年1月10日). https://jp.reuters.com/article/health-tobacco-idJPKBN14U0C7 2018年2月18日閲覧。 
  21. ^ 湯前宗太郎、平野麻理子 (2018年7月20日). “フィリップ・モリス、日本で三重苦 加熱式・法規制”. 日本経済新聞. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33196640Q8A720C1000000/ 2018年11月10日閲覧。 
  22. ^ “米「メンソールたばこ」禁止方針”. 共同通信. https://escholarship.org/content/qt33d643pd/qt33d643pd.pdf?t=lnrnmz 2018年11月20日閲覧。 
  23. ^ 黒川顕『中毒症のすべて―いざという時に役立つ、的確な治療のために』永井書店、2006年、278-282頁。ISBN 4-8159-1741-8 
  24. ^ Sheldon, T. (2001). “Low tar cigarettes linked to rise in adenocarcinomas”. BMJ 322 (7288): 693. doi:10.1136/bmj.322.7288.693. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1119898/. 
  25. ^ たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約 (PDF) (外務省)
  26. ^ タールニコチン含有量推移 厚生労働省 最新たばこ情報
  27. ^ 日本専売公社『タバコの話あれこれ』日本専売公社、1976年、p.97
  28. ^ Doll, R. (2004). “Mortality in relation to smoking: 50 years' observations on male British doctors”. BMJ 328 (7455): 1519–0. doi:10.1136/bmj.38142.554479.AE. PMC 437139. PMID 15213107. http://www.bmj.com/content/328/7455/1519. 
  29. ^ NYC
  30. ^ Iwasaki M,et al.Cigarette smoking and completed suicide among middle-aged men: a population-based cohort study in Japan.Ann Epidemiol. 2005 Apr;15(4):286-92.
  31. ^ 国立がん研究センター「たばこと自殺について」Iwasaki Mらの2005年の研究の要約





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