第一種過誤と第二種過誤 過誤種別拡張の提案

第一種過誤と第二種過誤

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 04:00 UTC 版)

過誤種別拡張の提案

ネイマンとピアソンが提唱した第一種過誤(偽陽性)と第二種過誤(偽陰性)は広く採用されているが、それら以外の過誤(「第三種過誤英語版」や「第四種過誤英語版」)を定義しようという試みがいくつかなされてきた[注釈 5]

これらは広く受け入れられるには至っていない。以下では、主なものを紹介する。

David

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンでネイマンやピアソンと同僚だったこともあるフローレンス・ナイチンゲール・デヴィッド (1909年-1993年)[13]は、冗談交じりに 1947年の論文で、自身の研究結果についてネイマンとピアソンの「過誤の2種類の源泉」を三番目に拡張する可能性について触れている。

私は、この理論の基本的考え方を説明するにあたって、私が(第三種の)過誤に陥っているという批判、標本に対して間違った検査法を選んでいるという批判を受けるのではないかと心配してきた [14]

Mosteller

1948年にフレデリック・モステラー(1916年 - 2006年)[注釈 6] は「第三種過誤」を次のように定義することを提唱した[15]

  • 第一種過誤: 真である帰無仮説を棄却する
  • 第二種過誤: 偽である帰無仮説を採択する
  • 第三種過誤: 間違った理由で、正しく帰無仮説を棄却する

Kaiser

ヘンリー・F・カイザー(1927年 - 1992年)は1966年の論文でMostellerの分類を拡張し、「第三種過誤」を棄却された仮説に基づいて間違った判断をすることを指すとした[16]。また、Kaiserはこれをγ過誤(γ errors)と呼んでいる。

Kimball

1957年、アライン・W・キンボール(オークリッジ国立研究所の統計学者)は、第一種過誤と第二種過誤に続く新たな種類の過誤を提案した。Kimballの定義した「第三種過誤」とは「間違った問題に正しい答を与えることによる過誤」である[17]

数学者リチャード・ハミング(1915年 - 1998年)は「間違った問題に正しい解法を与えるよりも、正しい問題に間違った解法を与える方が望ましい」と述べている。

ハーバード大学の経済学者ハワード・ライファも「間違った問題を解く破目に陥った」経験を述べている[18][注釈 7]

MitroffとFeatheringham

1974年、Ian MitroffとTom FeatheringhamはKimballの分類を拡張し、「問題の解法を考える際の最重要な要素は、その問題がまずどのように説明され、公式化されているかである」とした。

彼らは、第三種過誤を「正しい問題を解くべきときに間違った問題を解く過誤」あるいは「問題を正しく表現すべきときに間違った表現を選択する過誤」とした[19]

Raiffa

1969年、ハーバード大学の経済学者Howard Raiffaは冗談として「第四種過誤の候補: 正しい問題を解くのに時間が掛かりすぎること」とした[20]

MarascuiloとLevin

1970年、MarascuiloとLevinは第四種過誤を提案した。これはMosteller的な定義であり「正しく棄却された仮説の不適切な解釈」による過誤である。彼らは、この例として「医師の病気の診断が正しいのに、その後の医薬の処方箋が間違っている場合」を挙げている[21]


注釈

  1. ^ ごまかしなどの他の意図的な誤りを除く。より網羅的な説明はAllchin (2001) を参照されたい。
  2. ^ a b 観測値と予測値の誤差の大きさが観測値の大きさとは無関係である。
  3. ^ 英語では、type I および type II という表記が普通であって、type-I や type-II、あるいは type 1 や type 2 とは書かない。
  4. ^ 検出アルゴリズムや検査法を開発する際に、偽陽性と偽陰性のリスクのバランスを考えねばならない。通常、そのアルゴリズムが一致と判断する際の差分のしきい値がある。しきい値が高ければ、偽陰性が増え、偽陽性が減る。
  5. ^ 例えば、Onwuegbuzie & Daniel (2003) では新たに8種類の過誤を定義している。
  6. ^ 1981年のアメリカ科学振興協会会長[1]
  7. ^ なお、ライファはこの回顧の中で「第三種過誤」を間違ってジョン・テューキー(1915年 - 2000年)の作った用語としている。
  8. ^ 偽陽性の発生率は語彙を制限することで減らすことができる。しかし、この作業にはコストがかかる。語彙を決定するには専門家の作業が必要になり、各文書に適切なインデックスを付与するという作業も発生するからである。
  9. ^ このような新生児スクリーニングについて、通常のスクリーニングに比較して偽陽性となる確率が12倍という研究結果がある (Gambrill, 2006. [2])
  10. ^ 偽陽性率が高いため、米国では10年間の間に受診した女性の半数が偽陽性の結果を受け取っている。このため、再検査などに毎年1億ドルかかっている。実際、陽性とされたうちの90%から95%が偽陽性であるという。
  11. ^ 偽陽性率が低いのは、結果を2回チェックしているため。また、2回目ではしきい値を高く設定しており、検査の統計的検定力を低下させているとも言える。

出典

  1. ^ 医歯薬英語辞書
  2. ^ false negativeの意味・使い方. 英辞郎.
  3. ^ a b JIS Z 8101-1:2015 統計 − 用語と記号 − 第1部:確率及び一般統計用語”. 2019年4月28日閲覧。
  4. ^ 川出真清、2011、「仮説検定 望ましい仮説検定とは:第1種のエラーと第2種のエラー」、『コンパクト統計学』初版、8巻、新世社〈コンパクト経済学ライブラリ〉 ISBN 978-4-88384-156-1 p. 165
  5. ^ Neyman and Pearson, 1928/1967, p.1.
  6. ^ David, 1949, p.28.
  7. ^ Neyman and Pearson, 1928/1967, p.31.
  8. ^ Neyman and Pearson, 1930/1967, p.100.
  9. ^ a b Neyman and Pearson, 1933/1967, p.187.
  10. ^ Neyman and Pearson, 1933, p.201.
  11. ^ 例えば Neyman and Pearson, 1933/1967, p.186 参照
  12. ^ Neyman and Pearson, 1933/1967, p.190.
  13. ^ Larry Riddle (2014年1月10日). “Florence Nightingale David”. Biographies of Women Mathematicians. 2015年2月28日閲覧。
  14. ^ David,1947, p.339.
  15. ^ Mosteller, 1948, p.61.
  16. ^ Kaiser, 1966, pp.162-163.
  17. ^ Kimball, 1957, p.134.
  18. ^ Raiffa, 1968, pp.264-265.
  19. ^ Mittoff and Featheringham, 1974, p.383.
  20. ^ Raiffa, 1968, p.264.
  21. ^ Morascuilo and Levin, 1970, p.398.
  22. ^ 心霊/超常現象の偽陽性の証拠例を示しているサイトとして Moorestown Ghost Research がある。





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