第一種過誤と第二種過誤 統計学的扱い

第一種過誤と第二種過誤

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 04:00 UTC 版)

統計学的扱い

定義

第一種過誤と第二種過誤

ネイマンとピアソンによる過誤の定義は広く採用され、第一種過誤と第二種過誤として知られている。また、分かりやすさから、これらをそれぞれ偽陽性と偽陰性とも呼ぶことが多い。これらの用語は本来の定義から拡大解釈され、様々な場面で使われるようになっている。例えば、

  • 第一種過誤偽陽性): 受諾(受理)されるべき帰無仮説を拒絶(却下)する過誤。例えば、無実の人物を有罪にすること。
  • 第二種過誤偽陰性): 拒絶(却下)されるべき帰無仮説を受諾(受理)する過誤。例えば、真犯人を無罪にすること。

上の例は、この拡大された定義での曖昧さを示している。ここでは「無罪であること」を中心に考えているが、当然ながら「有罪であること」を中心に考えることもできる。以下の表で条件を示す。

  実際の状態
テスト
 結果 
陽性 状態「有」 + 結果「陽性」
= 真陽性 (true positive, TP)
状態「無」 + 結果「陽性」
= 偽陽性 (false positive, FP)
第一種過誤
 陰性  状態「有」 + 結果「陰性」
= 偽陰性 (false negative, FN)
第二種過誤
状態「無」 + 結果「陰性」
= 真陰性 (true negative, TN)

妊娠検査の例を示す。

  実際の状態
妊娠している 妊娠していない
検査
 結果 
妊娠している 真陽性 偽陽性
 (妊娠しているという検査結果だが、
実際には妊娠していない) 
第一種過誤
妊娠していない 偽陰性
 (妊娠しているのに
検出できなかった) 
第二種過誤
真陰性

ここで、検査結果が「真」や「偽」といった場合、2種類の意味があることに注意する。実際の状態(条件)では、真 = 有(ある属性が有る)と、偽 = 無(ある属性が無い)であり、検査結果の正確性においては、真陽性/偽陽性/真陰性/偽陰性という使われ方をする。上の表ではこの混同を避けるため、状態については「有/無」で表している。

偽陽性率・第一種過誤

偽陽性率とは、陰性の標本集団のうち、誤って陽性と判定された標本の割合である。すなわち、1 から特異度を引いた値と同じである。

特異度が増大すると第一種過誤となる確率が低下するが、第二種過誤となる確率が増大する[注釈 4]

偽陰性率・第二種過誤

偽陰性率とは、陽性の標本集団のうち、誤って陰性と判定された標本の割合である。すなわち、1 から感度を引いた値と同じである。

を検出力と呼ぶ。


注釈

  1. ^ ごまかしなどの他の意図的な誤りを除く。より網羅的な説明はAllchin (2001) を参照されたい。
  2. ^ a b 観測値と予測値の誤差の大きさが観測値の大きさとは無関係である。
  3. ^ 英語では、type I および type II という表記が普通であって、type-I や type-II、あるいは type 1 や type 2 とは書かない。
  4. ^ 検出アルゴリズムや検査法を開発する際に、偽陽性と偽陰性のリスクのバランスを考えねばならない。通常、そのアルゴリズムが一致と判断する際の差分のしきい値がある。しきい値が高ければ、偽陰性が増え、偽陽性が減る。
  5. ^ 例えば、Onwuegbuzie & Daniel (2003) では新たに8種類の過誤を定義している。
  6. ^ 1981年のアメリカ科学振興協会会長[1]
  7. ^ なお、ライファはこの回顧の中で「第三種過誤」を間違ってジョン・テューキー(1915年 - 2000年)の作った用語としている。
  8. ^ 偽陽性の発生率は語彙を制限することで減らすことができる。しかし、この作業にはコストがかかる。語彙を決定するには専門家の作業が必要になり、各文書に適切なインデックスを付与するという作業も発生するからである。
  9. ^ このような新生児スクリーニングについて、通常のスクリーニングに比較して偽陽性となる確率が12倍という研究結果がある (Gambrill, 2006. [2])
  10. ^ 偽陽性率が高いため、米国では10年間の間に受診した女性の半数が偽陽性の結果を受け取っている。このため、再検査などに毎年1億ドルかかっている。実際、陽性とされたうちの90%から95%が偽陽性であるという。
  11. ^ 偽陽性率が低いのは、結果を2回チェックしているため。また、2回目ではしきい値を高く設定しており、検査の統計的検定力を低下させているとも言える。

出典

  1. ^ 医歯薬英語辞書
  2. ^ false negativeの意味・使い方. 英辞郎.
  3. ^ a b JIS Z 8101-1:2015 統計 − 用語と記号 − 第1部:確率及び一般統計用語”. 2019年4月28日閲覧。
  4. ^ 川出真清、2011、「仮説検定 望ましい仮説検定とは:第1種のエラーと第2種のエラー」、『コンパクト統計学』初版、8巻、新世社〈コンパクト経済学ライブラリ〉 ISBN 978-4-88384-156-1 p. 165
  5. ^ Neyman and Pearson, 1928/1967, p.1.
  6. ^ David, 1949, p.28.
  7. ^ Neyman and Pearson, 1928/1967, p.31.
  8. ^ Neyman and Pearson, 1930/1967, p.100.
  9. ^ a b Neyman and Pearson, 1933/1967, p.187.
  10. ^ Neyman and Pearson, 1933, p.201.
  11. ^ 例えば Neyman and Pearson, 1933/1967, p.186 参照
  12. ^ Neyman and Pearson, 1933/1967, p.190.
  13. ^ Larry Riddle (2014年1月10日). “Florence Nightingale David”. Biographies of Women Mathematicians. 2015年2月28日閲覧。
  14. ^ David,1947, p.339.
  15. ^ Mosteller, 1948, p.61.
  16. ^ Kaiser, 1966, pp.162-163.
  17. ^ Kimball, 1957, p.134.
  18. ^ Raiffa, 1968, pp.264-265.
  19. ^ Mittoff and Featheringham, 1974, p.383.
  20. ^ Raiffa, 1968, p.264.
  21. ^ Morascuilo and Levin, 1970, p.398.
  22. ^ 心霊/超常現象の偽陽性の証拠例を示しているサイトとして Moorestown Ghost Research がある。





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