田中美津 発言と思想

田中美津

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/01 22:49 UTC 版)

発言と思想

分断された女性

幼い時に受けたチャイルド・セクシャル・アビューズ(幼児への性的虐待)により、「私はダメだ、穢れてる」「私って邪悪な存在なんだ」と思い込み、「邪悪な私でも生きてていいんだと思えるような生き方をみつけよう」ともがき続ける[35]。その中で、泣いているベトナムの子供に自分の姿を見て、自己救済としてのベトナム救援活動を始めている[36]。 が、ヴィルヘルム・ライヒの『性と文化の革命』に感銘を受け、「性に対して否定的な考え方を持ってると、権威をありがたがって、自分の欲望を恐れる、のびやかさのない人間になる。管理されやすい人たちばっかりの世の中ができてしまうんだよ」と思い、心に光がさす。それが田中の一番有名なビラ[37]「便所からの解放」につながっていく[38]

私たち女は本来精神的な存在であるとともに、性的な存在である。それなのに男の意識を通じて、母(子どもを産ませる対象)と便所(性処理に都合のいい対象)とに引き裂かれてきた。そう、私有財産制下の秩序は、女をそのように抑圧することで保たれてきたのだ   田中美津「便所からの解放」 — 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 5

ここで田中は、「女が女として生きる」ことができない、女を分断する男性社会を告発している[37]

しかし田中は、「女だけが抑圧されている」といった被害者意識であるわけではない。男性も同様の抑圧の中にあるとしている。(2015年子宮筋腫・内膜症体験者の会)[39]

一方で「中絶の自由」とともに「生める社会を!生みたい社会を!」と訴える(2017年11月15日講演)[40]とともに、女性側も自ら<川へ行ってしまう自分>(=「おじいさんは山へ芝刈りにおばあさんは川へ洗濯へ」を社会的役割の強制の例えとしている)も変えていかないといけない[41]としている。

〇でありかつ×である

日本のウーマン・リブがもつ軽やかさしなやかさは田中だけによるものではないが[32]、田中には、建て前(例えば社会正義)と本音(自分の欲望)の両方を矛盾をも取り込み逃げない思考(田中が言う「取り乱し」)がある[42]

「いやな男なんかに、もちろんお尻触られたくない。でも好きな男が触りたいと思うお尻は欲しい。これが「ここにいる女」というものだ」[43]という田中から繰り返されるフレーズは、同じように「絶対的に悪いだけのものとか、良いだけのものとかは極めて少ないのではないか」(2014年6月21日たんぽぽ総会記念講演)[44]「化粧が媚なら、素顔も媚だ、イヤリングしながら戦って何が悪い」[45]「男からはかわいいと思われたい部分があるし、職場なんかでは女としてかわいいかどうかで云々されたくないしサ」のように、「〇か×か」ではない「〇でありかつ×」という考え方が見える[46]

言葉と学歴

「大学に行っても、私が欲しているものは手に入らないような気がして」[10]。と、大学には進学していない。運動をする中で、大学を経た女性に接し、大学に行くことにより男と同じ言葉や理論で思考・行動することで男並みになろうとする方向に行ってしまいやすいこと、結果として女としての言葉を取り戻すのにかえって苦労していると彼女たちをとらえた。そして、「自分のぐるりのことから考える」というフレーズを繰り返し、自分の言葉で語ることを強調している[45]。上野千鶴子は、田中の独特な言葉の使い方に「他人を乗せる力がある」と評している[47]

こころとからだ

鍼灸師である田中は、人は幸せになるために生きているとし、小さな生き物としてただ生きていることの大切さを訴える[48]。自分を肯定し、今を生き、からだを冷やさずに、幸せそうな顔をして、自分以上のもの以外のものになろうとしない、溜ったものは出す、といった健康法を説く講演会を多数行っている[49]


  1. ^ 『戦後日本スタディーズ2』, p. 279.
  2. ^ 「いのちの女たちへ」p96
  3. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 125.
  4. ^ 「いのちの女たちへ」p94
  5. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 110.
  6. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 126.
  7. ^ 「いのちの女たちへ」p121
  8. ^ 『戦後日本スタディーズ2』, p. 281.
  9. ^ 「いのちの女たちへ」p117
  10. ^ a b 『戦後日本スタディーズ2』, p. 284.
  11. ^ 『ひとびとの精神史5』p211
  12. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 113.
  13. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 214.
  14. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 76.
  15. ^ a b 加納実紀代侵略=差別と闘うアジア婦人会議と第二波フェミニズム」『紀要論文 女性学研究』第18巻2009年度男女共同参画事業シンポジウム「70年代フェミニズムを検証する : 侵略=差別と闘うアジア婦人会議の軌跡」、大阪府立大学女性学研究センター、アジア婦人会議、2011年3月、149-165頁、doi:10.24729/00004887 
  16. ^ 『インパクション 73号:特集リブ20年』p10
  17. ^ 井上輝子, 長尾洋子, 船橋邦子「ウーマンリブの思想と運動 : 関連資料の基礎的研究」『東西南北』第2006巻、和光大学総合文化研究所、2006年1月、134-158頁、CRID 1050001338313796096 
  18. ^ 上野千鶴子. “上野講演 ウーマン・リブ”. 国際基督教大学ジェンダー研究センター. 2023年7月25日閲覧。
  19. ^ 「強い女」男社会を告発 第38回 リブ女の解放宣言 性を公然と議論、風当たりも強く”. 日本経済新聞 (2014年5月18日). 2023年7月25日閲覧。
  20. ^ 上野 2015, p. 189-190.
  21. ^ 『明日はいきていないかもしれない…という自由』p5
  22. ^ 『インパクション 73号:特集リブ20年』p9
  23. ^ 『戦後日本スタディーズ2』, p. 287.
  24. ^ 『インパクション 73号:特集リブ20年』p42
  25. ^ 『戦後日本スタディーズ2』, p. 286-289.
  26. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 38.
  27. ^ a b 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 165
  28. ^ a b 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 143
  29. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 23.
  30. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 91.
  31. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 135.
  32. ^ a b 『ひとびとの精神史5』p209
  33. ^ この星は、私の星じゃない
  34. ^ ユーロスペース
  35. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 74.
  36. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 112.
  37. ^ a b 『ひとびとの精神史5』p224
  38. ^ 『戦後日本スタディーズ2』, p. 285.
  39. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 120.
  40. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 171.
  41. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 119.
  42. ^ 『ひとびとの精神史5』p228
  43. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 59.
  44. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 94.
  45. ^ a b 『戦後日本スタディーズ2』, p. 304.
  46. ^ 『ひとびとの精神史5』p229
  47. ^ 『戦後日本スタディーズ2』, p. 313.
  48. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 177,238.
  49. ^ 『明日は生きてないかもしれない……という自由』, p. 96,103,123.


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