歎異抄 写本

歎異抄

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/17 08:32 UTC 版)

写本

重要な写本としては、蓮如本、端坊旧蔵永正本などがあり、蓮如本が最古のものである。2015年現在、原本は発見されていない。

蓮如本と永正本とには、助詞などの違いが見られるが、全体の内容として大きな違いは無い。最も原型的な古写本と考えられる蓮如本・永正本はともに「附録」と「蓮如の跋文」を備えているが、後代のものには、これらを欠く写本も存在する。[4]

上述のごとく、蓮如本と永正本には、蓮如の署名と次のような奥書が付されている。

右斯聖教者為当流大事聖教也 (右、かくの聖教は、当流大事の聖教と為すなり)
於無宿善機無左右不可許之者也 (宿善の機無きにおいては、左右無く[6]之を許すべからざるものなり)

 釈蓮如 御判

すなわち、本書は「当流大事の聖教」ではあるけれど、「宿善の機無き」者(仏縁の浅い、仏法をよく理解していない人達)にはいたずらに見せるべきではない、と蓮如は記している。しかし、これは禁書や秘書の類といった意味ではなく、蓮如が著した『御文』(『御文章』)においては、『歎異抄』の内容の引用が随所に見られる。

親鸞思想との相違点

歎異抄は書名が示すように、当時の真宗門徒たちの間で広がっていた様々な異説を正し、師である親鸞の教えを忠実に伝えようという意図の下で著されたものである。しかしながら、親鸞の著作から知られる思想と、歎異抄のそれとの相違を指摘する学者も多い[7]。たとえば仏教学者の末木文美士は、歎異抄作者の思想はある種の造悪無碍の立場を取っているとし[8]、これは親鸞の立場とは異なるとする。また、遠藤美保子は、「悪を行うことは避けられないことであり、そのような悪人だからこそ救われる」という論理によって自己を肯定する歎異抄の思想は、親鸞とは異なっているとする[9]。さらに遠藤は歎異抄の「本願ぼこり」という邪義について、本書にしか見いだされず、そもそも本当に存在した邪義かどうかについても疑問を呈している[10]

作者は歎異抄において、阿弥陀仏の本願を盾に悪行をおこなう者に対して、忠告は行なっているが、彼らの往生は否定せず、かれらも確実に浄土に往生できるとする。しかしながら、親鸞は書簡にも見られるように、どのような悪しき行いを為しても無条件に救済されるという考えは採っておらず、そのような念仏者の死後の往生については否定的な見解を述べている[11]

本願寺関係者撰述説

塩谷菊美は、本願寺関係者が覚如の『口伝鈔』や『改邪鈔』などをもとに歎異抄を編纂したという説をとなえ[1]、本書が「親鸞研究の一級史料」として用いられていることに異論を述べている[12]

塩谷は、本書が『口伝鈔』や『改邪鈔』を素材とし、これらの資料の背景にあった聖教の「悔い返し」などの文脈が無視されて使われていることを文献間の比較によって指摘した[3]。これによって塩谷は、いずれかの本願寺関係者が「親鸞の元に常時付き従っていた如信による口伝の書(『口伝鈔』)があるならば、弁舌巧みで知られた唯円による親鸞口伝の書もあるはずだ」と考えて撰述したとする仮説を提示している[13]


  1. ^ a b 塩谷 2012, pp. 39–42.
  2. ^ 塩谷 2012, p. 40.
  3. ^ a b 塩谷 2012, pp. 36–40.
  4. ^ a b 金子大栄 校注『歎異抄』、岩波文庫、1999年8月5日 第93刷、 pp.28-29.
  5. ^ 尾野 2021, p. 626.
  6. ^ 左右無く…「むやみ」にの意。
  7. ^ 松本志郎『新訳 歎異抄』p.12-13
  8. ^ 末木 2009, p. 241.
  9. ^ 遠藤 1998, pp. 69–71.
  10. ^ 遠藤 1998, pp. 65–66.
  11. ^ 『めでたき仏の御ちかいのあればとて、わざとすまじきことどもをもし、おもうまじきことどもをもおもいなんどせば、よくよく、この世のいとわしからず、身のわるきことをもおもいもしらぬにてそうらえば、念仏にこころざしもなく、仏の御ちかいにもこころざしのおわしまさぬにてそうらえば、念仏せさせたまうことも、その御こころざしにては、順次の往生もかたくやそうろうべからん。』(親鸞聖人御消息集(広本)(三))
  12. ^ 塩谷 2012, p. 33-34.
  13. ^ 塩谷 2012, pp. 40–42.






歎異抄と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「歎異抄」の関連用語

歎異抄のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



歎異抄のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの歎異抄 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS