欧州連合域内排出量取引制度 全体の排出量削減

欧州連合域内排出量取引制度

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/01 20:05 UTC 版)

全体の排出量削減

EU ETSの環境に対する有効性は排出量制限の厳格化が根拠となっている。フェーズ I では排出量の割当が過大なものであったとされており、ほんのわずかでも全体の排出削減量が上乗せされていれば目標を達成していたと考えられている。

フェーズI

2004年、EcofysはEU各加盟国ごとのNAP仮案について分析した[19] 。その分析結果では、フェーズ I での排出量制限は甘いものであり、ほとんどの国においては、国全体としては二酸化炭素排出量の削減を進めなければならなかったが、電力部門では削減を必要としないものとなっていた。つまりフェーズ I において、ほかの部門では大規模な排出量削減を実現しなければならない一方で、電力部門ではそのような努力を不要としていたのである。さらには、オランダなど一部の国は、Ecofysが算定していた、従来の計画で必要と考えられていたものよりも多くの排出許容量を設定しており、実質的には排出削減を不要とするような計画が示された。Ecofysによるフェーズ I でのNAP分析を受けて、NGO団体である気候行動ネットワークはこの排出制限案に「大いに失望させるもの」と表現し[8]、EU加盟25か国の中でイギリスとドイツの2か国だけしか関連産業部門に対して過去の水準と比較して排出量の削減を求めておらず、また2004年4月以前のEU加盟15か国全体では、排出量割当の合計が基準年と比べて4.3%増となっていると批判していた。2006年5月、複数の国において登録機関がそれぞれの事業者に対して、実際に必要となっていた排出許容量よりも多い量を割り当てていたことが明らかとなった。この事実が伝わって、排出量の売買価格は1トン当たり30ユーロから10ユーロまで急落、一時は上昇する兆しを見せたものの、2007年1月には4ユーロまで下落[11]、翌2月には1ユーロを切るようになり、同年12月初めには取引開始以来最低の0.03ユーロにまで値を下げた。

フェーズII

2006年、Ecofysはフェーズ II でのNAPに対する評価を実施した。このときのNAPは提案段階のもので、承認はされていないものであった。Ecofysはほとんどの加盟国が十分に厳しい排出量制限を設定していないとし、また京都ターゲットの達成には不十分なものであると評価した。さらに各国が公式に示した従来どおりの排出量見通しと新たなNAPでの排出量制限、およびEcofysが厳格に算定した従来どおりの排出量見通しと新たなNAPでの排出量制限を比較した。その結果、前者の比較では7%の削減がなされることになるが、後者の比較(ポルトガル、スペイン、イギリスの排出制限案を除く)では新たな排出制限量が従来の排出量見通しを上回るということが示された。

このため欧州委員会は12か国が提出していたNAPのうち、イギリス案のみを受諾し、ほかの11か国のものについて再検討を要するとした。このほか欧州委員会は2005年の排出量を7%下回るよう排出制限を強化した[17]


  1. ^ Ellerman, Denny; Buchner, Barbara (2007). “The European Union Emissions Trading Scheme: Origins, Allocation, and Early Results”. Review of Environmental Economics and Policy 1 (1): pp. 66-87. doi:10.1093/reep/rem003. ISSN 1750-6824 (Online), ISSN 1750-6816 (Print). http://reep.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/1/1/66 2008年4月19日閲覧。. The European Union Emissions Trading Scheme Review of Environmental Economics and Policy 2007
  2. ^ a b Questions and Answers on the Commission's proposal to revise the EU Emissions Trading System EUプレスリリース MEMO/08/35, Brussels 2008年1月23日
  3. ^ UK Emissions Trading Scheme イギリス環境・食糧・地方省(英語)
  4. ^ ITL link, EU ETS review key for 2008 prices Carbon Finance 2008年1月9日
  5. ^ Directive 2003/87/EC of the European Parliament and of the Council OJ L 275, 25.10.2003, p. 32-46
  6. ^ Questions and Answers on Emissions Trading and National Allocation Plans for 2008 to 2012 欧州委員会プレスリリース MEMO/08/35, Brussels 2006年11月29日 (PDF形式)
  7. ^ Öko-Institut report: "The environmental effectiveness and economic efficiency of the EU ETS 世界自然保護基金 2005年11月9日 (英語)
  8. ^ a b NAPs 2005-7: Do they deliver? 欧州気候行動ネットワーク 2006年 (英語、PDF形式)
  9. ^ Q&A: Europe's carbon trading scheme 英国放送協会 2006年12月20日 (英語)
  10. ^ Carbon 2006 market survey ポイントカーボン 2006年2月28日 (英語、PDF形式)
  11. ^ a b c Analyse van de CO2-markt Emissierechten 2007年11月 (オランダ語)
  12. ^ Directive 2004/101/EC of the European Parliament and of the Council OJ L 338, 13.11.2004, p. 18-23
  13. ^ Questions & Answers on Aviation & Climate Change EUプレスリリース MEMO/05/341, Brussels 2005年9月27日
  14. ^ Iceland, Norway, Liechtenstein to join EU emissions trading system EU Business (フランス通信社配信) 2007年10月27日 (英語)
  15. ^ Including Aviation into the EU ETS: Impact on EU allowance prices ICFコンサルティングによるイギリス環境・食料・地方省および運輸省への報告書 2006年2月1日 (英語、PDF形式)
  16. ^ イギリス庶民院における欧州委員会環境担当委員スタブロス・ディマスの演説 EUプレスリリース SPEECH/05/712 2005年11月21日
  17. ^ a b Emissions trading: Commission decides on first set of national allocation plans for the 2008-2012 trading period EUプレスリリース 2006年11月29日
  18. ^ Member States' compliance with the Emissions Trading Scheme 欧州議会環境委員会 2006年11月27日 (英語、PDF形式)
  19. ^ Analysis of NAPs for the EU ETS Ecofys August 2004
  20. ^ Hotspot newsletter 気候行動ネットワーク 2006年3月 (英語、PDF形式)


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