バリー (犬)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/15 15:13 UTC 版)
![]() バリーのイラスト(ベルン自然史博物館, 1923年以前) | |
別名・愛称 | 選ばれし聖者の中の聖者 (The Saint of belected Saints)[1] |
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生物 | イヌ |
犬種 | 当時はアルペン・マスティフと呼ばれ、後年にセント・バーナードとして独立犬種となる |
性別 | 雄 |
生誕 | Barry der Menschenretter[2] 1800年 サン・ベルナール修道院 (en:Great St Bernard Hospice), アルプスペナイン山脈 (en:Pennine Alps) |
死没 | 1814年 ベルン, スイス |
国籍 | ![]() |
職業 | 捜索救助犬 |
所属 | サン・ベルナール修道院 |
体重 | 40–45キログラム (88–99 lb) |
体長 | 64センチメートル (25 in)以下 |
バリーは救助中の遭難者にオオカミと間違えられて殺されたという噂があるが、これは事実ではない。バリーは救助犬を引退した後はベルンで余生を送り、死後にベルン自然史博物館に引き取られた。現在も剥製として保存されているが、頭部は1923年に当時のセント・バーナードのスタンダードにあわせて修正されている。バリーの物語と名前は多くの文学作品の題材となり、記念碑がパリ近郊の世界最初の動物霊園ともいわれるシムティエール・デ・シヤン (en:Cimetière des Chiens) に建てられている。サン・ベルナール修道院ではバリーにちなんで、現在でも飼育されている犬にバリーという名前が受け継がれ続けており、2004年にはサン・ベルナール修道院バリー財団 (Foundation Barry du Grand Saint Bernard) が設立され、修道院が中心となって繁殖されるセント・バーナードを管理している。
歴史
グラン・サン・ベルナール峠(現在のスイス・イタリア国境)に位置するサン・ベルナール修道院の記録に最初に犬が登場するのは1707年で、「一頭の犬を埋葬した」というシンプルなものである[3]。1660年から1670年ごろに番犬として修道院に導入されたと考えられている[3]。ベルン自然史博物館が収蔵している古い頭蓋骨から、当時の修道院には少なくとも二種類の犬が飼育されていたとされる[4]。バリーが生まれた1800年には山岳救助犬として特別な犬が修道院で使役されていたことが分かっており[3]、一般的には牛飼いの犬と呼ばれていた[5]。
現在ベルン自然史博物館に保存されているバリーの体躯は現在のセント・バーナードよりも小型である。現在のセントバーナードの体重が65キログラムから85キログラムであるのに対し、バリーの体重は40キログラムから45キログラムと推測されている。現在のバリーの剥製の体高は約64センチメートルだが、生きていたころの体高はさらに小さかったと考えられる[5]。年代によって数に差異はあるが、バリーは山岳救助犬として40人以上の人命を救助したといわれている[6]。バリーの記録でもっとも有名なものは、凍て付いた洞窟で凍死寸前で眠っていた少年を救助したことである[7]。少年の上に覆いかぶさって自身の体温で少年を温めた後、背中に少年を乗せて修道院まで運んだ[3]。そして少年は一命を取りとめて両親のもとへ戻ったとされているが[7]、少年の母親は少年を襲った雪崩に巻き込まれて死んでいたという説もある[8]。ベルン自然史博物館でもこの伝説の真偽は議論となっているが、動物心理学者のペーター・ケイトリンは著作で次のように述べている[9][10]。
最高の犬にして最高の動物はバリーである。バリーは首の周りに小さな籠をつけて、嵐の日にも吹雪の日にも毎日のように山を巡って、不運にも雪崩の下敷きになった遭難者を捜索した。遭難者を雪の下から掘り出して蘇生させ、自分の手に負えないときにはすぐさま修道院に駆け戻って修道僧に助けを求めた。バリーは何人もの人々の命を救った。とても愛情深い性格で、救助した少年を背中に乗せて修道院まで運んでいくときにも、少年は何も恐れることなくバリーに身を委ねることができた。 — ペーター・ケイトリン, 『Complete Study on Animal Instinct』[10]
バリーの死
シムティエール・デ・シヤンの記念碑には「バリーは40人の命を救ったが、41人目を救助している最中に絶命した」との銘が刻まれている。この物語には続きがある。山で遭難したスイス人兵士をバリーがにおいをたどって捜索し、48時間後に雪に埋もれた兵士を発見した。バリーは兵士を掘り起こし、訓練されてきた通りに上に覆いかぶさって自分の体温で兵士の身体を温めようとした。しかし、兵士が目覚めたときにバリーを自分を襲おうとしているオオカミだと勘違いし、手にしていた銃剣でバリーに致命傷を与えてしまったというものである[11]。ジェームズ・ワトソンは1906年の著作『The Dog Book』で、この話は自身の友人で作家でもあった修道僧トーマス・ピアスから聞いたものだとしている[12]。
しかしながら、バリーの死にまつわるこの物語は事実ではない。バリーは修道院で救助犬として12年間使役された後引退し、余生を過ごすために修道僧によってベルンへと連れて来られている。その後14歳で死を迎え[1]、バリーの死体はベルン自然史美術館に引き取られた[5]。2000年にはバリーの栄誉と生誕200年を記念して、ベルン自然史博物館が特別展示会を開催している[13][14][15]。
- ^ a b Hustace Walker (2000): p. 7
- ^ Fleischli (2006): p. 17
- ^ a b c d Fleischli (2006): p. 16
- ^ “The Dogs from the Hospice”, Naturhisorishches Museum Der Burgergemeinde Bern, オリジナルの2010年9月9日時点におけるアーカイブ。 2011年3月22日閲覧。
- ^ a b c d e “The Legendary Barry at the Natural History Museum”, Naturhisorisches Museum Der Burgergemeinde Bern, オリジナルの2010年9月7日時点におけるアーカイブ。 2011年3月22日閲覧。
- ^ Blumberg, Jess, A Brief History of the St. Bernard Rescue Dog, Smithstonian.org 2011年3月22日閲覧。
- ^ a b c Woodworth, Samuel, ed. (1820), The Ladies' Literary Cabinet, Samuel Huestis, p. 205
- ^ “The St. Bernard Dog”, The Plough, the Loom, and the Anvil 3 (1): 90, (July 1850) 2011年3月22日閲覧。
- ^ “Their Rescue and Life-Saving Work”, Naturhisorisches Museum Der Burgergemeinde Bern, オリジナルの2010年10月17日時点におけるアーカイブ。 2011年3月22日閲覧。
- ^ a b c “Cane di San Bernardo: Barry I, the "saint" of the Great Saint Bernard”, Italian Saint Bernard Club, オリジナルの2011年7月25日時点におけるアーカイブ。 2011年3月22日閲覧。
- ^ Wilkins, H.T. (December 1931), “Dog Heroes of the Valley of Death”, Popular Mechanics 56 (6): 901 2011年3月22日閲覧。
- ^ Watson, James (1906), The Dog Book, Doubleday, Page & Company, p. 575
- ^ “The Legendary Barry at the Natural History Museum”, Natural History Museum of Bern, オリジナルの2010年9月7日時点におけるアーカイブ。 2011年3月22日閲覧。
- ^ Barry 200 years - a tribute to the nose, Natural History Museum of the Civic Community of Berne, (09/06/2000 - 02/25/2001), オリジナルの2011年5月12日時点におけるアーカイブ。 2011年3月22日閲覧。
- ^ Nussbaumer, Marc, Barry of the Great St. Bernard, pp. 92 and 77 illustrations CHF 24
- ^ Hustace Walker (2000): p. 8
- ^ Brown, Thomas (1829), Biographical Sketches and Authentic Anecdotes of Dogs, Simpkin & Marshall, p. 278 2011年3月22日閲覧。
- ^ a b Fleischli (2006): p. 19
- ^ Fleischli (2006): p. 20
- ^ a b “St Bernard – Gentle Giants”, Dogs Monthly Magazine 2011年3月22日閲覧。
- ^ “The Dog of the Convent of St. Bernard”, The Monthly Magazine 51 (1): 8, (February 1821) 2011年3月22日閲覧。
- ^ Lloyd, John (2007), The Book of General Ignorance, Harmony Books, p. 32, ISBN 978-0307394910
- ^ “Bibliography”, Naturhisorisches Museum Der Burgergemeinde Bern, オリジナルの2010年10月17日時点におけるアーカイブ。 2011年3月22日閲覧。
- ^ “Les locataires du cimetière” (French), Asnieres-sur-Seine.fr 2011年3月22日閲覧。
- ^ Rogers, Samuel (1875), The Poetical Works of Samuel Rogers, George Bell and Sons, p. 195
- ^ Leonard, R.M. (1893), The Dog in English Poetry, D. Nutt, pp. 25 & 26
- ^ “Barry of the Great St. Bernard (1977) (TV)”, IMDB 2011年3月22日閲覧。
- ^ Hall, Lynn (2007), Barry: The Bravest Saint Bernard, Random House Books for Young Readers, ISBN 978-0375844393
- ^ Maurer, Urs (2009年4月9日). “Legendary St Bernard rescue dogs find a home”. swissinfo.ch 2011年3月22日閲覧。
- ^ 災害防除
- 1 バリー (犬)とは
- 2 バリー (犬)の概要
- 3 後世への影響
- 4 参考文献
- 5 外部リンク
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