バリー (犬) 後世への影響

バリー (犬)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/15 15:13 UTC 版)

後世への影響

ベルン自然史博物館収蔵のバリーの剥製

サン・ベルナール修道院ではバリーを記念して、必ず一頭のセント・バーナードにはバリーという名前をつけている[16]。バリーが活動していた時代には、バリーのタイプの犬には犬種として確立した名前がなかった。バリーの死から6年後の1820年まで、バリーはアルペン・マスチフ (en:Alpine Mastiff) と呼ばれたり[7]、アルペン・スパニエル (en:Alpine Spaniel) と呼ばれたりしていた[17]。イングランドでは「聖なる犬 (sacred dogs )」とも呼ばたこともあり、1828年にはドイツのケネルクラブが「アルペンドッグ」という名称を提案している。バリーが余生を過ごしたベルンでは、その死後から1860年になるまで、同じタイプの犬をバリーにちなんで「バリー・フンド(バリー犬)」と名づけていた[18]。最初にセント・バーナード(サン・ベルナールの英語読み)という名称が与えられたのは1865年だった[18][19]。そして1880年にスイスのケネルクラブがセント・バーナードという名称でこの犬種を公認したのである[20]

ベルン自然史博物館は、バリーが世界でもっとも有名なセント・バーナードだとしている。バリーは死後に毛皮が剥製となってベルン自然史博物館に収蔵され[5]、毛皮以外は埋葬された[21]。剥製にされた当初は現在のものとは異なり、頭を下げた穏やかで人に従順なポーズのものだった。その後剥製の毛皮が劣化し20以上の細片となってしまい、1923年にゲオルグ・ルプレヒトの手によって修復された。修復の過程でポーズが当初のものから変更され、ルプレヒトと博物館館長の話し合いの結果、頭部の形も当時のセント・バーナードにあわせて修正されている。もともとのバリーの頭部はストップ(鼻と額の間のくぼみ、額段)がより平坦だったが、修正後には頭部が大きくなり、ストップも明確になっている。動物画家として有名なエドウィン・ランドシーアの絵画『瀕死の旅人を救助するアルペン・マスチフ (Alpine Mastiffs Reanimating a Distressed Traveller)』で最初に紹介された[22]、修道院での救助活動中に首輪に吊り下げていたとする神話ともいえる小さな樽が追加された[5]。この樽は1978年に博物館館長のワルター・フーベル教授が取り除いたが、現在では再び追加されている[23]。バリーの記念碑はパリ近郊の動物霊園シムティエール・デ・シヤン入り口の反対側に位置している[24]

文学作品などでは、サミュエル・ロジャースの詩『サン・ベルナール修道院 (The Great Saint Bernard )』にバリーが登場する[25][26]。フランス人作家アンリ・ボルドー (en:Henry Bordeaux) が1911年に書いた小説『La Neige sur les pas 』ではバリーの業績を賞賛している[10]ウォルト・ディズニー・カンパニーが1977年に『サン・ベルナール修道院のバリー (Barry of the Great St. Bernard )』という題名のテレビ番組を制作しており[27]、他にもランダムハウスの少年少女向けシリーズからは『バリー、サン・ベルナールの勇者 (Barry: The Bravest Saint Bernard )』が2007年に出版されている[28]

サン・ベルナール修道院

2004年9月にはサン・ベルナール修道院で18頭のセント・バーナードが飼育されていた。サン・ベルナール修道院バリー財団は山の麓のマルティニ地方 (en:Martigny) に、修道院のセント・バーナード繁殖用犬舎を設立し、年間20頭ほどの仔犬が生まれている。2009年にマルティニにドッグ・ミュージアムが建てられ、開館を記念してベルン自然史博物館からバリーの剥製が貸与された[29]。毎年夏に修道院は犬を連れた旅行者に修道院を開放しており、現在では遭難者捜索にヘリコプターが使用されているが、山で昔ながらの犬を使った捜索を体験することが出来る[20]

東京消防庁の特別救助隊

なお、東京消防庁特別救助隊消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー)ではバリーが描かれたワッペンを救助工作車のドア側面と救助隊員の肩に付けている[30]


  1. ^ a b Hustace Walker (2000): p. 7
  2. ^ Fleischli (2006): p. 17
  3. ^ a b c d Fleischli (2006): p. 16
  4. ^ “The Dogs from the Hospice”, Naturhisorishches Museum Der Burgergemeinde Bern, オリジナルの2010年9月9日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20100909020744/http://www.nmbe.ch/deutsch/531_5_1_5.html 2011年3月22日閲覧。 
  5. ^ a b c d e “The Legendary Barry at the Natural History Museum”, Naturhisorisches Museum Der Burgergemeinde Bern, オリジナルの2010年9月7日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20100907194857/http://www.nmbe.ch/deutsch/531_5_1_9.html 2011年3月22日閲覧。 
  6. ^ Blumberg, Jess, A Brief History of the St. Bernard Rescue Dog, Smithstonian.org, http://www.smithsonianmag.com/history-archaeology/st-bernard-200801.html 2011年3月22日閲覧。 
  7. ^ a b c Woodworth, Samuel, ed. (1820), The Ladies' Literary Cabinet, Samuel Huestis, p. 205, https://books.google.co.uk/books?id=Z7AQAAAAYAAJ&pg=RA1-PA205&dq=barry+st+bernard&hl=en&ei=QsiXTLW7DY3aOMG60YkJ&sa=X&oi=book_result&ct=result#v=onepage&q=barry%20st%20bernard&f=false 
  8. ^ “The St. Bernard Dog”, The Plough, the Loom, and the Anvil 3 (1): 90, (July 1850), https://books.google.co.uk/books?id=PC1MAAAAYAAJ&pg=PA90&dq=barry+st+bernard&hl=en&ei=Le6XTMjjNs-o4Ab9p-2jBA&sa=X&oi=book_result&ct=result#v=onepage&q=barry%20st%20bernard&f=false 2011年3月22日閲覧。 
  9. ^ “Their Rescue and Life-Saving Work”, Naturhisorisches Museum Der Burgergemeinde Bern, オリジナルの2010年10月17日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20101017152652/http://www-nmbe.unibe.ch/deutsch/531_5_1_7.html 2011年3月22日閲覧。 
  10. ^ a b c “Cane di San Bernardo: Barry I, the "saint" of the Great Saint Bernard”, Italian Saint Bernard Club, オリジナルの2011年7月25日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20110725134357/http://www.canedisanbernardo.org/engl/capitolo9-engl.html 2011年3月22日閲覧。 
  11. ^ Wilkins, H.T. (December 1931), “Dog Heroes of the Valley of Death”, Popular Mechanics 56 (6): 901, https://books.google.co.uk/books?id=0-IDAAAAMBAJ&pg=PA898&dq=barry+st+bernard&hl=en&ei=9baXTPzSO4f44AbFr9iaBA&sa=X&oi=book_result&ct=result#v=onepage&q=barry%20st%20bernard&f=false 2011年3月22日閲覧。 
  12. ^ Watson, James (1906), The Dog Book, Doubleday, Page & Company, p. 575, https://archive.org/stream/dogbookpopularhi02wats#page/n347/mode/2up 
  13. ^ “The Legendary Barry at the Natural History Museum”, Natural History Museum of Bern, オリジナルの2010年9月7日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20100907194857/http://www.nmbe.ch/deutsch/531_5_1_9.html 2011年3月22日閲覧。 
  14. ^ Barry 200 years - a tribute to the nose, Natural History Museum of the Civic Community of Berne, (09/06/2000 - 02/25/2001), オリジナルの2011年5月12日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20110512123439/http://www.nmbe.ch/deutsch/221_5.html 2011年3月22日閲覧。 
  15. ^ Nussbaumer, Marc, Barry of the Great St. Bernard, pp. 92 and 77 illustrations CHF 24 
  16. ^ Hustace Walker (2000): p. 8
  17. ^ Brown, Thomas (1829), Biographical Sketches and Authentic Anecdotes of Dogs, Simpkin & Marshall, p. 278, https://books.google.co.jp/books?id=cC6FoV8cND4C&pg=PA278&dq=alpine+spaniel&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q=alpine%20spaniel&f=false 2011年3月22日閲覧。 
  18. ^ a b Fleischli (2006): p. 19
  19. ^ Fleischli (2006): p. 20
  20. ^ a b “St Bernard – Gentle Giants”, Dogs Monthly Magazine, http://www.dogsmonthly.co.uk/breed-features/st-bernard-gentle-giants/ 2011年3月22日閲覧。 
  21. ^ “The Dog of the Convent of St. Bernard”, The Monthly Magazine 51 (1): 8, (February 1821), https://books.google.co.uk/books?id=PVIoAAAAYAAJ&pg=PA8&dq=barry+st+bernard&hl=en&ei=GumXTO2WLJD84Ab_t73xAw&sa=X&oi=book_result&ct=result#v=onepage&q=barry%20st%20bernard&f=false 2011年3月22日閲覧。 
  22. ^ Lloyd, John (2007), The Book of General Ignorance, Harmony Books, p. 32, ISBN 978-0307394910 
  23. ^ “Bibliography”, Naturhisorisches Museum Der Burgergemeinde Bern, オリジナルの2010年10月17日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20101017152918/http://www-nmbe.unibe.ch/deutsch/531_5_1_10.html 2011年3月22日閲覧。 
  24. ^ “Les locataires du cimetière” (French), Asnieres-sur-Seine.fr, http://www.asnieres-sur-seine.fr/Tourisme-international/Patrimoine/Le-cimetiere-des-animaux 2011年3月22日閲覧。 
  25. ^ Rogers, Samuel (1875), The Poetical Works of Samuel Rogers, George Bell and Sons, p. 195, http://xtf.lib.virginia.edu/xtf/view?docId=chadwyck_ep/uvaGenText/tei/chep_3.1813.xml 
  26. ^ Leonard, R.M. (1893), The Dog in English Poetry, D. Nutt, pp. 25 & 26, https://archive.org/details/doginbritishpoet00leon 
  27. ^ “Barry of the Great St. Bernard (1977) (TV)”, IMDB, http://www.imdb.com/title/tt0276803/ 2011年3月22日閲覧。 
  28. ^ Hall, Lynn (2007), Barry: The Bravest Saint Bernard, Random House Books for Young Readers, ISBN 978-0375844393 
  29. ^ Maurer, Urs (2009年4月9日). “Legendary St Bernard rescue dogs find a home”. swissinfo.ch. http://www.swissinfo.ch/eng/Legendary_St_Bernard_dogs_find_a_home.html?cid=5373762 2011年3月22日閲覧。 
  30. ^ 災害防除


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