ドルーシャウトの肖像画 意義

ドルーシャウトの肖像画

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/18 08:01 UTC 版)

意義

エドワード・フラワーによるシェイクスピア像

この肖像画は、シェイクスピアの友人ベン・ジョンソンからも讃えられるできばえではあった。版画に並べて印字された詩「読者に」のなかで、ジョンソンは絵が詩人によく似ていると褒めており、彼によれば「彫刻刀は争いの種/自ずから本物にまさる」し、精確に「彼の顔をうがつ」ている。一方でシェイクスピアの読者がめあてにしている彼の「ウィット」はとらえそこねている、とも書いている。

しかしこうして肖像画としての正確さについて証言が得られたことで、評論家はドルーシャウトの版画を材料にしてシェイクスピアを描いたと伝えられる肖像画の真贋を見極めたのだった。19世紀の画家であり著述家のエイブラハム・ウィベルはこう言っている。

さまざまな時代で世間の注目をほしいままにしてきたペテン師のほとんどがこの鍵によって暴かれ、見破られるといってもよいだろう。どんな偽の証拠にも反論できる証人であり、いかに本物と認めるかいかに有罪を告げるか、いずれどんな鑑識眼も満足させることだろう[6]

同じような文脈でターニャ・クーパーも2006年に「最終的にシェイクスピアの容姿に関して妥当な視座を与えてくれる唯一の肖像画である」と書いている[1]

触発源

シェイクスピアの研究者はこの絵を他の肖像画の正しさを測るものさしとしてみるだけではなく、ドルーシャウト自身の触発源にも迫ろうとしている。19世紀の学者であるジョージ・シャーフは、光と影が矛盾していることを根拠にオリジナルの絵が「リムニングかクレヨン画のどちらか」であると主張した。両者とも立体感を明暗法ではなく主に輪郭線で表現する技法である。また彼はドルーシャウトが立体的な影を加えるには作家として未熟だったとも推論している[7]。メアリ・エドモンドは大マーティンが肖像画家のマルクス・ヘーラールツと交流があったことをうかがわせる点を指摘し、かつてヘーラールツもシェイクスピアの肖像画を描いていたことを示す資料があると記している。彼女のまとめによれば、この現存していないヘーラールツの絵をもとにドルーシャウトの版画はつくられている[8]。またダブレットカラーの描写や立体表現が稚拙であることはドルーシャウトが倣った原図にはシェイクスピアの頭と肩しか描かれていなかったことをうかがわせる。身体の部分は、当時は一般的であったように、彫刻師のほうで付け加えられたものだということだ[1]

エドワード・フラワーの肖像画として知られるようになる絵が発見されたのは19世紀のことである。絵には1609と年時が入っており、実際に17世紀の板に描かれていたものだった。はじめこの絵はドルーシャウトが版画に写した大本の作品だと広く受け入れられたが、1905年に美術研究者のマリオン・シュピールマンがこの肖像画はドルーシャウトの版画の第2ステートと一致することを証明した。もしこれが原図であるならば第1ステートに忠実であるはずだと考えたシュピールマンはそれが版画から写されたものであると結論づけた[9]。2005年に行われた科学的分析からも、この絵が17世紀のオリジナルの肖像画に重ねて描かれた偽物で、時代は19世紀のものだということが裏付けられた[10]


  1. ^ a b c d e f g Tarnya Cooper, Searching for Shakespeare, National Portrait Gallery; Yale Center for British Art, p. 48.
  2. ^ National Portrait Gallery
  3. ^ Mary Edmond, "It was for gentle Shakespeare cut. Shakespeare Quarterly 42.3 (1991), p. 343.
  4. ^ June Schlueter, "Martin Droeshout Redivivus: Reassessing the Folio Engraving of Shakespeare", Shakespeare Survey 60. Cambridge: Cambridge University Press, 2007, p. 240.
  5. ^ June Schlueter, "Martin Droeshout Redivivus: Reassessing the Folio Engraving of Shakespeare", Shakespeare Survey 60. Cambridge: Cambridge University Press, 2007, p. 242.
  6. ^ Wivell, Abraham, An inquiry into the history, authenticity, & characteristics of the Shakspeare portraits: in which the criticisms of Malone, Steevens, Boaden, & others, are examined, confirmed, or refuted. Embracing the Felton, the Chandos, the Duke of Somerset's pictures, the Droeshout print, and the monument of Shakspeare, at Stratford; together with an exposé of the spurious pictures and prints, 1827, p. 56.
  7. ^ George Scharf, On the Principal Portraits of William Shakespeare, London, Spottiswoode, 1864, p. 3. See also [The_Portraits_of_Shakespeare, 1911 Encyclopedia Britannica http://en.wikisource.org/wiki/1911_Encyclop%C3%A6dia_Britannica/Shakespeare,_William/The_Portraits_of_Shakespeare]
  8. ^ Mary Edmond, "It was for gentle Shakespeare cut". Shakespeare Quarterly 42.3 (1991), p. 344.
  9. ^ Paul Bertram and Frank Cossa, 'Willm Shakespeare 1609': The Flower Portrait Revisited, Shakespeare Quarterly, Vol. 37, No. 1 (Spring, 1986), pp. 83–96
  10. ^ Tarnya Cooper, Searching for Shakespeare, Yale University Press, 2006, pp. 72–4
  11. ^ a b Marjorie B. Garber, Profiling Shakespeare, Taylor & Francis, 24 Mar 2008, p. 221.
  12. ^ Samuel Schoenbaum, Shakespeare's Lives, Clarendon Press, 1970, p. 11.
  13. ^ a b Benjamin Roland Lewis, The Shakespeare documents: facsimiles, transliterations, translations, & commentary, Volume 2, Greenwood Press, 1969, pp. 553–556.
  14. ^ James Boaden, An inquiry into the authenticity of various pictures and prints: which, from the decease of the poet to our own times, have been offered to the public as portraits of Shakspeare: containing a careful examination of the evidence on which they claim to be received; by which the pretended portraits have been rejected, the genuine confirmed and established, illustrated by accurate and finished engravings, by the ablest artists, from such originals as were of indisputable authority, R. Triphook, 1824, pp. 16–18.
  15. ^ William Stone Booth, Droeshout Portrait of William Shakespeare an Experiment in Identification, Privately printed, 1911.
  16. ^ Percy Allen, The Life Story of Edward de Vere as "William Shakespeare", Palmer, 1932, pp. 319–28
  17. ^ Lillian Schwartz, "The Art Historian's Computer" Scientific American, April 1995, pp. 106–11. See also Terry Ross, "The Droeshout Engraving of Shakespeare: Why It's NOT Queen Elizabeth".
  18. ^ ダーニング・ローレンスは次のような主張も行っている。ドルーシャウトによる他の版画も "同じように狡知をこらしてつくられたものとみて間違いないだろう。つまり彼の版画に隠された意味を理解できる人間には作者の真の顔を暴くことができるように描かれているのである" Edwin Durning-Lawrence, Bacon Is Shake-Speare, John McBride Co., New York, 1910, pp. 23, 79–80.





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