アラスカ州
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経済

アラスカ州の2007年度州内総生産は449億ドルで国内第45位だった。同年の1人当たり所得は40,042ドルで国内第15位だった。その経済は石油・ガス産業が支配的であり、州歳入の80%以上になっている。石油・ガスを除く主な輸出品は海産物であり、サケ、タラ、カニが多い。
農業の占める比率は小さい。農産物は主に州内消費用であり、苗木、酪製品、野菜および家畜が含まれている。製造業は限られたものであり、食料や雑貨は輸入されている。
雇用は主に政府によるものであり、他に天然資源採掘、海運および輸送などの産業で雇用されている。フェアバンクスやアンカレッジでは、軍事基地も経済の大きな要素になっている。連邦政府の交付金も経済の大きな要素であり、税率を低く抑えられている。鉱工業生産品として、原油、天然ガス、石炭、金、貴金属、亜鉛などの鉱物、海産物加工品、木材および木製品がある。サービス産業や観光産業も成長しつつある。
エネルギー
米国の中で最も天然資源に恵まれ、とりわけ「原油」の埋蔵量が豊富である。プルドーベイ油田(プルドー湾油田)は米国最大の規模を誇り、それら産出事業のおかげで州民に対する補助金が潤沢で平均所得も国内トップクラスにある。21世紀初頭からの原油価格高騰により、他の油田候補地の開発も州政府は検討しているが、一方でこれらの多くが北極圏国立自然保護区(ANWR)に位置し、州議会ではアラスカの自然・生態系愛護を訴えるアメリカ民主党との間で長らく論争が続いており、開発推進派のサラ・ペイリン州知事が2008年共和党大会で副大統領候補に指名されて以降(ただし正大統領候補マケインのほうが従来は開発反対を唱えていた)俄然注目を集めた。その後選挙には敗れたものの、国家のエネルギー問題解決の鍵を握る構想として部分的に解禁される道も残されている。
アラスカ・ノーススロープとクック湾で石油と天然ガスの埋蔵が確認されている。エネルギー情報管理局に拠れば、原油生産では国内第2位の州になっている。ノーススロープのプルードー湾油田はアメリカ合衆国および北アメリカでも最大の産出量を誇り、日量40万バーレル (64,000 m3/日)となっている。これは国内石油生産量の8%に相当している。
トランス・アラスカ・パイプラインは1日210万バーレル (330,000 m3) までの原油を輸送することができ、国内最大のパイプラインとなっている。さらに瀝青炭、準瀝青炭および褐炭のかなりの埋蔵量が発見されている。アメリカ合衆国地質調査局はノーススロープの天然ガス水和物から取り出すことのできる85.4兆立方フィート (2,420 km3) の未確認埋蔵量があると推計している[49]。また川が多いので国内でも最大級の水力発電を生み出す可能性を持っている。さらに海岸線では風力発電や地熱発電の可能性も高い[50]。
アラスカの経済は暖房、輸送、電力、照明に高価な軽油を使う比重が高まっている。風力や水力は豊富にありながら未開発であり、州全体のエネルギー供給計画では、2001年時点での燃料コスト (0.50ドル/ガロン 以下)、送電距離、少ない人口を考慮して経済的に成り立たないと判断された[51]。州都市部でのガス燃料代は国内平均よりも通常1ガロン当たり30セントないし60セント高い。田園部ではかなり高くなるが、輸送費、季節変動のある最大使用量、石油開発施設との距離など様々な要素により変動がある。
恒久基金
アラスカ恒久基金は1976年の住民投票で承認され、主にトランス・アラスカ・パイプラインから得られる石油収入の余剰金を配分するものであり、憲法でも認められている。この基金は先ず1969年プルードー湾油田鉱区借用権の売り出し前に当時の知事キース・ミラーが提案したものであり、議会が販売利益9億ドルを一度に消費してしまうことを恐れたものだった。これは後のジェイ・ハモンド知事やキナイ選出の州議会下院議員ヒュー・マローンから支持を受けた。それ以来これは魅力的な政治観として機能し、振り分けられた歳入は一般基金に積み立てられることになった。
アラスカ州憲法は州の基金を特定目的に使うことをしないように規定されている。恒久基金はこの数少ない例外となったが、これには創設されるときの政治的不信感が大きく作用した。基金は当初の734,000ドルから、ロイヤルティと投資計画の結果として400億ドルにまで成長した。この元本は全てではないもののほとんどがアラスカ州外に投資されている。そのためにアラスカ州の政治家は州内に投資すべきと言う要求をしばしばすることになったが、実際には実現していない。
1982年からは基金の年間増加分から得られる配当金が資格有るアラスカ州民に支払われてきた。その額は1982年の1,000ドル(分配計画に関する訴訟のために配当が止められたので3年分に相当)から、2008年の3,269ドル(「資源リベート」1,200ドル1回分を含む)まで変化した。毎年議会は収入の8%をとり、インフレの対策費として3%を元本に戻し、残り5%を資格有る州民に配当している。恒久基金の配当を受けるためには州内に12か月以上居住し、一定限度の不在期間があっても住居を維持しなければならない[52]。また様々な資格剥奪条件となる判決や刑事告発を受けていないことが必要であり、違背すれば配当は差し押さえられる。
生活費
アラスカ州の物価はアメリカ合衆国本土より高い傾向にあった。これがアンカレッジ市の大半やフェアバンクス市の一部では変化してきており、過去5年間で生活費が下がってきた。連邦政府特にアメリカ合衆国郵便公社の雇員や実働任務にある軍事関係者は基本給の25%を生活費補助として受けている。生活費は下がってきたが依然として国内では高いレベルにあるのが理由である。
アンカレッジ、フェアバンクスおよびジュノーに大型郊外店ができたことも物価を下げることに寄与した。ウォルマートは1993年にアンカレッジに1号店を出店し、2004年にはフェアバンクスにも開店した。現在ではジュノー、ケチカンおよびコディアックなど人口の集中する場所の大半をカバーしている。しかし、田園部は輸送手段が限られているために国内と比べて食品や消費財の価格が極めて高い。田園部の住人は都市に出てきてコストコやサムズクラブのような倉庫型量販店から食品や雑貨を購入している。ネット商店の中には送料無料をうたっているものがあり[53]、町で買うよりも安く品物を手に入れることができる。
農業
アラスカ州では寒冷な気候と険しい地形のために農業はあまり発展していない。農地はアンカレッジ市の北東約40マイル (64 km) のマタヌスカ・バレーか、同南西約60マイル (96 km) のキナイ半島にある。栽培できる季節は100日ほどと短いが、夏の長い日照時間で作物が育つ。主要作物はジャガイモ、ニンジン、レタス、キャベツなどである。フェアバンクスの南東約100マイル (160 km) のデルタジャンクション地域にも幾らか農地が集中しており、大半はフォートグリーリーの北と東にある。この地域はハモンド知事がその2期目に推進した州の企画に従って開発された。この地域の作物はオオムギと干し草が多い。
アラスカ州には郡 (County) が無いので郡祭 (county fair) も無い。しかし、州祭と地方祭(その最大のものはパーマーで開かれるアラスカ州祭)を組み合わせて、晩夏に開催されるものが多い。これらの祭は歴史あるあるいは現在農業を行っている町で行われることが多く、地元農夫が作物を出品し、また遊園地の乗り物、コンサート、食品屋台など高収益の出店物も出ている。アラスカの農業では「アラスカ育ち」がスローガンになっている。
アラスカ州は海産物が豊富であり、主な漁場はベーリング海と北太平洋である。海産物は数少ない他州よりも安価な食品になっている。多くのアラスカ州民は生活の食料としてまたスポーツとしてサケの狩漁シーズンを楽しむ[54]。
業としての狩猟は特に遠隔地のブッシュでは通常にあることであり、カリブー、ムースおよびドールシープなどが対象である。伝統的な先住民の食料として、エスキモーのアイスクリームと言われるアクタックがある。これはトナカイの脂肪、アザラシの脂、干し魚および土地で獲れるベリーで作ることができる。
アラスカのトナカイはスワード半島に集中しており、そこでは野生のカリブーが家畜化されたトナカイと混じり合えないようになっている[55]。
アラスカ州の食料の大半は外部から輸送されてくるものであり、輸送費のために食料費は高くなる。田園部では輸入された食料が途方もなく高価になるので、狩猟採集で生きていくことが必要である。村に輸入される食料は7セント/ポンド (15セント/kg) のものが50セント/ポンド (1.10ドル/kg) 以上にまで上がることがある。1ガロンのミルクを村に配達するコストは多くの村で約3.5ドルとなり、そこでの一人当たり年収は20,000ドル以下である。燃料費も1ガロン当たり8ドルを超えることがある。
林業
アラスカ州には約4700万haの森林面積があるが、多くは山間部の原生林で林業的視点(伐採・運搬コスト、樹種など)から利用できる森林はアラスカ州南東部沿岸部に限られる。南東部には、トンガス国有林を中心にパルプ材や製材に利用できるヘムロック、スプルース、シダーが生育し、1950年代以降にはアラスカパルプなど日本の企業も進出して盛んに利用されてきたが[56]、森林資源の減少と自然保護の意識の高まりにより伐採規制が強化。2010年代には大幅な縮小を余儀なくされている[57]。
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