アメリカ合衆国ドル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/27 09:59 UTC 版)
有事のドル買い
為替相場では「有事のドル買い」と呼ばれ、有事(戦争や紛争)が起こった場合「国際通貨であるアメリカ合衆国ドルを買っておけば安心である」という経験則がある。
一方で、アメリカ本土が攻撃を受けた2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件では、「アメリカと言えど安全ではない、超大国ではなくなった」ということで米ドルは下落した。また、それ以降は有事はアメリカの対テロ戦争に繋がっていることが多いため、戦費支出による財政悪化が嫌気され、逆に「有事のドル売り」(円、ユーロやスイス・フラン、地金の高騰)となることがしばしばある。
なおアメリカ合衆国連邦政府は、緊急事態に備えて40億ドル分の紙幣を核シェルターに退蔵させていることが、1976年、ある上院議員により暴露されている[3]。
通貨の一覧
現用貨幣
画像 | 額(¢) | 硬貨 | 柄 | 愛称 | ||||
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表 | 裏 | 幅(mm) | 重量(g) | 材質 | 表 | 裏 | ||
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1 | 19.05 mm | 2.50 g | 亜鉛に銅メッキ | エイブラハム・リンカーン | アメリカ合衆国の盾 | ペニー |
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5 | 21.21 mm | 5.00 g | 白銅 | トーマス・ジェファーソン IN GOD WE TRUST |
モンティチェロ[注 2] | ニッケル |
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10 | 17.91 mm | 2.268 g | 白銅及び銅のクラッド貨幣 | フランクリン・ルーズベルト | たいまつ、オークの枝、 オリーブの枝 |
ダイム |
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25 | 24.26 mm | 5.67 g | ジョージ・ワシントン | ハクトウワシ[注 3] | クウォータ | |
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50 | 30.61 mm | 11.34 g | ジョン・F・ケネディ | アメリカ大統領の紋章 | ハーフダラー | |
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100 | 26.50 mm | 8.10 g | マンガン青銅及び銅のクラッド貨幣 | ジョージ・ワシントン[注 4] | 自由の女神像 | ダラーコイン |
種類 ($) | 肖像 | 裏のデザイン | ||
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1 | ![]() |
ジョージ・ワシントン | ![]() |
アメリカ合衆国の国章 プロビデンスの目 IN GOD WE TRUST |
2 | ![]() |
トーマス・ジェファーソン | ![]() |
独立宣言署名の図 |
5 | ![]() |
エイブラハム・リンカーン | ![]() |
リンカーン・メモリアル |
10 | ![]() |
アレクサンダー・ハミルトン | ![]() |
財務省建物 |
20 | ![]() |
アンドリュー・ジャクソン | ![]() |
ホワイトハウス |
50 | ![]() |
ユリシーズ・S・グラント | ![]() |
連邦議会議事堂 |
100 | ![]() |
ベンジャミン・フランクリン | ![]() |
独立記念館 |
2014年時点で、支払いがなされている紙幣は以上である。いわゆる「グリーンバック」と呼ばれる紙幣で、このうち、2ドル紙幣以外は多数流通している。1ドルおよび2ドル紙幣は、2世代前のデザインである。全ての紙幣には「IN GOD WE TRUST」と書かれている。
100ドル紙幣の紙幣流通総量に占める割合は80%(2018年末現在)、流通金額は1.3兆アメリカ合衆国ドルで約144兆円である(2019年5月7日現在)[4]。
1ドル紙幣のジョージ・ワシントンの肖像部分に加工をした紙幣もある。これは1967年以降アメリカ合衆国財務省が法的に認めているもので、認定許可された業者により加工される。対象になっているものは、有名人・キャラクター・動物など多岐である。
合衆国国章の図柄は、USドルの紙幣や25¢の裏面に描かれた図柄の元となっている。
2016年4月20日に財務省が発表したデザイン改定決定では、新たな20ドル紙幣の表側肖像を奴隷解放に尽力した黒人女性のハリエット・タブマンとし、ジャクソンの肖像は裏側にまわすこと、5ドル紙幣の裏側にはマーティン・ルーサー・キング・ジュニアを、10ドル紙幣の裏側には女性参政権獲得運動に尽力したルクレシア・モットら5人の女性の肖像を描くこととされた。具体的な新デザインは2020年に公表するとした[5]。これにより、肖像の人物が全て白人男性で占められていた状況が解消されることになる。
デザイン改定に関する一連の方針はジェイコブ・ルー財務長官によって発表された。しかし、後任のスティーヴン・マヌーチン財務長官は2017年8月のインタビューにて、いずれ議論する必要があると前置きをしつつも、現時点では偽造防止技術の向上などに焦点を当てていると語り、肖像の変更に関する検討が後回しにされていることを示唆した[6]。
種類 ($) | 肖像 | 裏のデザイン | ||
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500 | ![]() |
ウィリアム・マッキンリー | ![]() |
装飾した500 |
1,000 | ![]() |
グロバー・クリーブランド | ![]() |
United States of America の文字 |
5,000 | ![]() |
ジェームズ・マディソン | ![]() |
ワシントン辞任の図[注 5] |
10,000 | ![]() |
サーモン・P・チェース | ![]() |
装飾した10,000 |
以上に現在発行されていない額の高額面紙幣を示す。
金貨証券
金貨と兌換出来る金貨証券は1928年まで発行されていた。1933年の大統領令(大統領令6102号)による金の私有禁止にともない、金との兌換ができなくなったのはもちろんのこと、金貨証券の所持も禁止された。1964年の金所持解禁にともない、金貨証券の所持も合法化された。現在では古銭として収集家のコレクションとなっている。
最後の発行シリーズにおける額面は10ドル、20ドル、50ドル、100ドル、500ドル、1,000ドル、5,000ドル、10,000ドル、100,000ドル。このうち100,000ドル証券は連邦準備銀行間の取引にのみ用いられ、一般には流通しなかった[7]。
銀貨証券

銀貨と兌換出来る銀貨証券は1957年まで発行されていた。1964年に銀貨ではなく銀地金との兌換となり、1968年に兌換停止。現在では金貨証券同様に収集品である。
最後の発行シリーズにおける額面は1ドル、5ドル、10ドル、の3種類だが、古くは1,000ドル証券まで存在した。
アメリカ合衆国以外の流通地域
地域としての流通
自国通貨を放棄して代わりにUSドルを使用すること、すなわちUSドルによる通貨代替を「ドル化政策」(ドラリゼーション、英: dollarization[8])と呼ぶ。ドル化を行う理由には様々なものがあり、アメリカの影響力が強く建国当初から独自通貨を持たないパナマのような国もある。また、インフレーションなどの自国における経済混乱に終止符を打つ最終手段としてそれまで発行されていた自国通貨の発行を停止し、世界で最も多く流通している通貨であるアメリカ・ドルを導入することで強引にインフレを終息させることもあり、特に2000年代以降、エクアドル・エルサルバドル・ジンバブエがこの政策を取って自国通貨を廃止した。こうしたドル化には経済混乱の収束のほか、特に小国において過大な負担となりがちな通貨発行に対するコストを削減することができるメリットがあるものの、通貨発行益を失ううえ理論上中央銀行が不要となり、独自の金融政策が不可能となるデメリットがある。
アメリカ合衆国ドル(USドル)を公に通貨として利用するアメリカ合衆国(本土)以外の地域
- アメリカ合衆国の支配地域
- アメリカとの自由連合盟約国:ミクロネシア連邦、マーシャル諸島、パラオ
- 上記以外の地域
- エクアドル:2000年、スクレからUSドルに切り替えた。
- エルサルバドル:2001年1月より、1USドル=8.75サルバドール・コロンに固定され、USドルも合法的に流通している。
- パナマ:常に1USドル=1バルボアに固定されている。バルボア紙幣は存在せず、流通している紙幣は米ドルのみである。硬貨はパナマ発行のセンテシモ(=1/100バルボア。センタボ、セントとも呼ばれる)硬貨と米国発行のセント通貨が等価で併用されている。
- 東ティモール:独自の硬貨である、東ティモール・センターボ硬貨も発行されている。
- ヴァージン諸島(イギリス領)
- タークス・カイコス諸島(イギリス領)
- イギリス領インド洋地域(イギリス領):UKポンドとあわせてUSドルも合法的に流通している。
- BES諸島(オランダ領)
- ジンバブエ:ハイパーインフレーションに伴い、2009年以降自国通貨ジンバブエ・ドルの発行を停止、USドルや南アフリカ・ランドなど複数の通貨が公的に使用された。2019年6月のRTGSドル正式導入に伴い外貨の流通がいったん禁止されたが[9]、再度のインフレーションにより、2020年3月より再びUSドルの流通を暫定的に認めている。
- カンボジア:独自の通貨(リエル)があるが都市部では米ドルが優位に流通している[10]。
- 香港ドルなどドルペッグ制を採用している国の通貨は、実質的に米ドルと固定相場が保たれているため、米ドル圏ともいえる。
- 北朝鮮の開城工業地区、金剛山では、その特殊性から、北朝鮮ウォン、韓国ウォンとも使えず、米ドルもしくはユーロ紙幣が流通している。
- アメリカ占領下の沖縄では、当初B円という軍票が通貨として使用されていたが、1958年9月から1972年の沖縄返還まではUSドル(120B円=1ドル)が公式通貨であった。返還時に1ドルから305円とする交換が行われる。ただし、前年の1971年に実施された変動為替相場制への移行にともないドル下落が発生、この影響に対して1972年2月には通貨ストライキが発生するなど混乱がみられたため、1971年に確認されていた個人が保有するドル現金分については、日本国政府が損失補償し360円とされた。また、5月20日まではドルも併用が認められていた。
より小規模な流通
在日米軍・在韓米軍施設内などで使用が可能であり、沖縄県ほか米軍基地の存在する地域では、令和期になっても個人商店を主体に一般商店で使用可能なことが多い[11]。それ以外にも訪日外国人旅行向けに「ドル支払い受け付けます」としている店舗もある(ヨドバシカメラなど)が、広範囲の地域の経済通貨として使用されているわけではなく、同様の例は世界中に膨大に存在するため、個々の例示は割愛する。
特筆すべき非流通地域
- アメリカ連合国ではアメリカ連合国ドル (Confederate States of America dollar) が法定通貨だった。
- アメリカ植民地時代のフィリピンでは、米ドル1:1固定のフィリピン・ペソが法定通貨だった。
注釈
- ^ ただし近年は紙幣投入、レシート払い出しの仕様を持った機器が多いために直接コインを投入できる機器が非常に少ない点に留意が必要である。
- ^ 造幣局は、期間限定で5セントの裏のデザインを変更することを決定している。2004年3月より「ルイジアナ購入/平和のメダル」に変更。2004年秋より「キールボート」へ変更。2006年には、元の「モンティチェロ」へ戻す予定。
- ^ 1999年から毎年5種類ずつアメリカの各州にちなんだデザインの25¢コインが発行されている。50州25セント硬貨
- ^ 2007年2月15日から毎年4種類ずつ歴代大統領の肖像を就任順にデザインした1ドル硬貨が発行される。en:Presidential $1 Coin Program
- ^ 5,000ドル紙幣の裏面ワシントン辞任の図は、記念紙幣的なもので、通常の5,000ドル紙幣の裏面は装飾した5,000である。
出典
- ^ Chester L. Krause and Clofford Mishler, Colin R. Brucell, Standard catalog of WORLD COINS, Krause publications, 1989.
- ^ s:アメリカ合衆国憲法#第1条
- ^ 国家用の大金庫『朝日新聞』1976年(昭和51年)3月4日朝刊、13版、7面
- ^ “新1万円札は使われるのか (PDF)”. ARC WATCHING 2019年6月号. 2020年11月4日閲覧。
- ^ 新20ドル札に黒人女性 米紙幣120年ぶりの女性起用:朝日新聞デジタル (2016年4月21日)
- ^ “Steven Mnuchin on Harriet Tubman's $20 bill: 'We will be looking at this issue'”. 2018年8月13日閲覧。
- ^ U.S. Bureau of Engraving and Printing - $100,000 Gold Certificate
- ^ dollarizationの意味・用例|英辞郎 on the WEB:アルク
- ^ “ジンバブエ、RTGSを唯一の法定通貨に制定 政策金利50%へ”. ロイター. (2019年6月25日) 2019年7月23日閲覧。
- ^ 工藤剛 (2007), カンボジア通信: 合気道事始めイン・カンボジア, 文芸社, pp. 102-104, ISBN 9784286032313
- ^ 「平和について考える良い機会」「頑張ってる姿を」本土復帰50年で沖縄出身の力士が思い語る 日刊スポーツ 2022年5月15日20時38分 (2022年5月16日閲覧)
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