Hoteling
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/09/07 10:04 UTC 版)
ホテリング(英: hoteling)は、従業員に固定した個人席を割り当てず、オフィスで働く日にデスクなどの作業場所を事前に予約して使うオフィスの運用方式である[1][2]。ホテルの客室を必要な期間だけ予約する運用になぞらえた呼称で、1990年代に欧米の経営コンサルティング会社で導入された[3]。席を固定しない運用としてホットデスク(日本ではフリーアドレスと呼ばれる)と同じ流れで論じられることが多く[4]、坪本裕之は、予約を要しない完全な自由席である日本型フリーアドレスを、ホテリングから変化した形態としている[2]。
概要
ホテリングでは、個人専用の机を設けず、共有されたデスクや個室を、使いたい者があらかじめ予約してから利用する[2][1][3]。予約された場所が実際に使われているかを把握する仕組みを併せて用いる例もある[1]。
呼称は、仕事の内容やスケジュールに応じて必要な空間やサービスを必要な期間だけ予約する、ホテルのような運用形態であることに由来する[3]。岸本章弘は、2008年の時点で、こうした運用がオフィス・コンシェルジュのようなビジネス支援サービスを伴う事例も増えていると述べている[3]。
不動産・ファシリティマネジメントの分野では、ホテリングは特定の個人専用の机を設けない「ノンテリトリアル・オフィス」の一類型として、フリーアドレスと並べて扱われる[5][3]。鈴木晴紀は、外出が多い営業部門などを中心にこうしたワークプレースが採用され、常時空いている机が最小となることを目標にスペースの効率が追求されるとしている[5]。
運用
運用は次のような要素からなる。
- 座席の予約
- 利用者は、オフィスで働く日に合わせてデスクや個室を予約する[2]。アメリカ航空宇宙局(NASA)の刊行物によれば、同機関の予約の仕組みでは、日時と拠点を選ぶと空いている場所の一覧が示され、1日単位で、また30分から8時間までの枠で予約する[6]。
- チェックイン
- 出社した利用者が予約した場所で受付操作を行い、その場所が実際に使われているかを他の利用者にも示す運用がある。NASAの刊行物は、ジェット推進研究所で導入が進む予約ツールでは、地図上から使いたい場所を登録し、二次元コードの読み取りで入退室を記録すると記している[6]。丸田一は、予約された席の利用状況を把握するために位置情報サービスが用いられると述べている[1]。
- 席数の設定
- デスクの数を在籍者数より少なくする事例が報告されている[2][5]。坪本裕之は、先行例とされるアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)のメルボルン支社では、コンサルタント総数の30%程度のデスクしか設置されていなかったとする報告を紹介している[2]。
歴史
岸本章弘によれば、1990年代初頭に情報技術の進化とともに欧米で「オルタナティブ・オフィシング」と呼ばれるオフィスの見直しが始まり、コンサルタントなど移動の多い専門職を対象に、個人のテリトリーを持たないノンテリトリアル・オフィスが普及した。共有された空間を効率よく運用する方式として、必要な空間やサービスを必要な期間だけ予約するホテリングが開発されたという[3]。岸本は、2008年には、ノンテリトリアル・オフィスやホテリングが主要な経営コンサルティング会社で一般的になっているとしている[3]。
日本では2000年代に、不動産やファシリティマネジメントの分野で、ワークプレースの一形態として整理されるようになった[5]。坪本裕之は、東京都心の丸の内地区に移転した旧会計事務所系の経営コンサルティング企業1社で、顧客先に常駐して対面接触が重視されるコンサルタントの作業空間にホテリングが採用され、1人当たり床面積の抑制が図られたとしている[2]。
2010年代にはアメリカ合衆国連邦政府にも広がった。『ニューヨーク・タイムズ』は、改修されたアメリカ合衆国一般調達局の本庁舎で、約3,300人の職員の大半が、同局が「ホテリング」と呼ぶ座席共有の仕組みに参加し、建物の地図を備えた予約システムで作業場所を1日単位または1週単位で事前に予約すると報じた[7]。CBSニュースも、同局が多くの固定席をやめ、職員に作業場所を事前に予約させる方式を採ったと伝えている[4]。NASAは、2022年の刊行物で、ハイブリッドワークの運用にホテリングを組み込むための予約ツールの導入を進めているとしている[6]。
テレワークとの関係
ホテリングは、テレワークの普及によってオフィスに人がいない時間が増えたことと関連づけて論じられている[1][7]。
丸田一は、テレワークの普及に伴ってオフィスの見直しが進み、固定席をやめた座席を働き手が選ぶ方式とともに、座席予約の仕組みが用いられるようになったと述べている[1]。『ニューヨーク・タイムズ』は、アメリカ合衆国一般調達局がホテリングを採り入れた前提として、在宅勤務や出張のために多くの職員の席が日によって空いている実情を挙げている[7]。
岸本章弘は、作業に応じて自席以外の場所で過ごす時間が増えれば専用の個人席を提供する必要が低くなるとし、ホテリングと同様に、移動しながら働くスタイルにも、情報技術や空間だけでなく働き手を支援するサービスの充実が欠かせないと述べている[3]。
関連項目
脚注
- 1 2 3 4 5 6 丸田一「BLE規格を利用した場所特定技術」『電気設備学会誌』第42巻第7号、電気設備学会、2022年、405–408頁、doi:10.14936/ieiej.42.405、2026年9月7日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 坪本裕之「東京都心における外資系経営コンサルティング会社の新たなオフィス形態の構築」『都市地理学』第3巻、日本都市地理学会、2008年、18–32頁、 doi:10.32245/urbangeography.3.0_18、2026年9月7日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 岸本章弘「変革するワークプレイスの現在と未来」『日本画像学会誌』第47巻第1号、日本画像学会、2008年、25–31頁、 doi:10.11370/isj.47.25、2026年9月7日閲覧。
- 1 2 Peterson, Kim (2014年11月14日). “Why companies are doing away with assigned desks”. CBS News (英語). 2026年9月7日閲覧.
- 1 2 3 4 鈴木晴紀「不動産を利用する場面でのマネジメント」『日本不動産学会誌』第23巻第2号、日本不動産学会、2009年、83–92頁、 doi:10.5736/jares.23.2_83、2026年9月7日閲覧。
- 1 2 3 “IT Talk, July–September 2022” (PDF) (英語). アメリカ航空宇宙局 (2022年). 2026年9月7日閲覧。
- 1 2 3 Siddons, Andrew (2014年7月7日). “To Cut Costs, Federal Workers Become Nomads”. The New York Times (英語). 2026年9月7日閲覧.
- Hotelingのページへのリンク