ETS-VIIIとは? わかりやすく解説

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きく8号

(ETS-VIII から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/05/04 11:07 UTC 版)

技術試験衛星VIII型
「きく8号(ETS-VIII)」
所属 JAXA, NICT, NTT
主製造業者 三菱電機
公式ページ 技術試験衛星VIII型「きく8号(ETS-VIII)
国際標識番号 2006-059A
カタログ番号 29656
状態 運用終了
目的 3t級静止衛星バスシステム及び移動体通信の実証
設計寿命 3年(ミッション機器)
10年(バス機器)
打上げ機 H-IIAロケット 11号機
打上げ日時 2006年12月18日15:32 (JST)
軌道投入日 2007年1月8日19:59 (JST)
運用終了日 2017年1月10日
停波日 2017年1月10日15:25 (JST)
物理的特長
衛星バス DS2000
本体寸法 2.45 m × 2.35 m × 7.3 m
最大寸法 40 m (太陽電池パドル端間)
37 m (展開アンテナ端間)
質量 5.8 t (打ち上げ時)
2.8 t (静止軌道投入時)
1.1 t (ペイロード)
発生電力 7.5 kW(3年後夏至)
主な推進器 アポジエンジン:500N級2液式化学スラスタR-4D-11
南北制御用:22N2液式スラスタ
25mN級キセノンイオンエンジン XIES
姿勢制御方式 3軸姿勢制御
軌道要素
周回対象 地球
軌道 静止軌道
静止経度 東経146度
高度 (h) 約 36,000 km
軌道傾斜角 (i) 0度
軌道周期 (P) 1日
搭載機器
LDR 大型展開アンテナ反射鏡部
LDAF 大型展開アンテナ給電部
SCNE S帯コンバータ部
OBP 音声通信用搭載交換機
PKT 高速データ通信用衛星搭載パケット交換機
FLCE Ka帯フィーダリンク装置
HAC 高精度時刻基準装置
TCE 高精度時刻比較装置
SLR レーザー反射鏡
DPR 展開ラジエータ
TEDA 技術データ取得装置
テンプレートを表示
きく8号の1/1スケール模型

きく8号(きく8ごう)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、 情報通信研究機構(NICT)、日本電信電話株式会社(NTT)が共同で開発した技術試験衛星である。開発時の名称は技術試験衛星VIII型 (ETS-VIII) 。

2006年(平成18年)12月18日にH-IIAロケット11号機で打ち上げられ、2017年(平成29年)1月10日に停波し運用を終了した。衛星開発費410億円[注釈 1][1]

概要

当機は移動体通信、特に打ち上げ時期である2006年当時一般的であった携帯電話に見られるようなハンディタイプの端末と衛星との直接通信を可能にする技術を目的として開発された。当時の携帯電話は通信に地上の基地局が必要であり、一般に山間部や海上ではサービスが提供されていなかった。また災害発生時も通話が困難になることが多かった。当機は山間部、海上、災害発生域で安定した通信サービスを提供することを目標とした。また測位システムに静止衛星を利用するための実験も行う。ミッション期間は3年、衛星の寿命は10年の予定。

JAXAの衛星は打ち上げが成功した後で公式な愛称が発表されるのが一般的であるが、当機は打ち上げ前に愛称が公表された。

機体設計

当時日本の人工衛星で最大の重さだった[2]。日本の人工衛星で初めてセシウム原子時計を搭載した。高精度時刻基準装置(HAC)としては東芝製だが、原子時計(HAC-CFS)はGPS衛星に採用されるものと同じ海外製[3][4]

大型展開アンテナLDR

  • 片側のアンテナ:19.2 m × 16.7 m、137kg[5]
  • オフセット角度:51.2°
  • 反射鏡:14モジュール
  • 鏡面精度:2.4mmRMS以下

大型展開アンテナは六角形のモジュールを片側14個を並べたような構造をしている。アンテナ反射面はメッキを施したモリブデン線を編んで作ったメッシュでできており、打ち上げ時は畳まれた状態で、軌道上で傘を開くように展開される。当時世界最大のアンテナであり、実績を持つのは日本とアメリカだけだった[6]。同様のアンテナは電波天文衛星ASTRO-Gでも採用される予定だったが、計画が中止された。

衛星バス

電源系を従来の50V非安定化電源バスから、国際的にも採用が増えいている100V安定化電源バスへ変更され電力効率が向上された。バッテリはニッケル水素バッテリ100AH[4]

南北制御用推進器としてキセノンイオンエンジン(IES)を搭載し、きく6号かけはしで採用されたものをを改良し、ジンバル機構を搭載して1台運用とした[4]

きく8号の衛星バスをベースにした衛星バスがDS2000としてシリーズ化され、以降三菱電機製の静止衛星に標準バスとして多数採用されている。

大型展開アンテナ小型・部分モデル(LDREX-1/2)

きく8号の大型展開アンテナ(LDR)のリスク低減のため、部分モデルとしてLDREX、LDREX-2が作られ、軌道上確認が実施された。きく8号のLDRが片側14モジュールなのに対し、LDREXは半分の7モジュールからなる。

LDREXは2000年(平成12年)12月20日にアリアン5に搭載し打ち上げられたが、予定通り展開せず、カメラの視野から外れたため完全に展開したかどうか不明となった。メッシュの引っ掛かりが生じたと推定され、事前の地上試験では重力と支持治具の影響で振動が小さかったと考えられた[7]

LDREX-2はアンテナ固縛開放タイミングをずらして揺れを抑制し、メッシュの引っ掛かり帽子、アシストばね追加による展開力増加の対策が施され、2005年(平成17年)4月の航空機による微小重力試験の後[5]、2006年(平成18年)10月13日にアリアン5で打ち上げられ、正常に展開したことが確認された[8]

運用史

日時は日本時間。

計画

  • 1997年(平成9年):プロジェクト開始[4]
  • 1998年(平成10年):詳細設計開始[4]
  • 2001年(平成13年):詳細設計審査完了[4]
  • 2003年(平成15年)9月:筑波宇宙センターで衛星組み立て完了[2]
  • 2004年(平成16年)3月:火星探査機のぞみ地球観測衛星みどりIIの不具合を受け、システムプロトフライト試験を中断してETS-VIIIの「総点検」が実施される[2]
  • 2005年(平成17年)2月:「総点検」が完了[2]
  • 2006年(平成18年)9月4日:種子島宇宙センター第2衛星フェアリング等に衛星機体搬入[2]

運用

  • 2006年(平成18年)
    • 12月18日15時32分:H-IIAロケット11号機により打ち上げ[注釈 2]
    • 12月25日17時31分:大型展開アンテナ(LDR)の展開を開始するも送信アンテナの展開に時間がかかり受信アンテナのみを展開する。
    • 12月26日18時56分:残った送信アンテナの展開を再開。衛星からのテレメトリデータ及び搭載カメラの画像により同アンテナの展開完了を確認。
    • 12月27日:姿勢制御を定常モードに変更。これにより打ち上げ後のクリティカルフェーズを終了し、初期機能確認フェーズへ移行。
  • 2007年(平成19年)
    • 1月8日:所定の位置である東経146度にて、衛星の静止化完了。
    • 1月30日:低雑音増幅器(LNA)の電源投入試験中、異常が発生[9]。新聞報道によると、異常が発生したのは受信側アンテナの増幅器であり、電源を投入する命令を送ったところ、断続的にオン・オフを繰り返す現象が発生した。予備電源系統も同様の状態だという。送信側アンテナは正常であるが、復旧しない場合は今後の地上との通信試験が大きく制約される可能性がある。2月21日現在、8系統ある増幅器のうち1系統でショートしている可能性が高いとされている。
    • 4月25日:定常運用へ移行した[10]。故障している受信側アンテナの低雑音増幅器電源(LNA-PS)については、引き続き原因の調査および対策方法の検討が行われている。LNA-PS以外の装置については、問題は起きていない。
    • 9月5日:きく8号の実験成果の中間報告が行われた。大型展開アンテナ(LDR)の鏡面精度や利得、測位システムの精度は設計どおり。磁場や帯電などの宇宙環境をモニタするための技術データ取得装置(TEDA)も正常に稼動している。きく8号の通信機能を使用した防災訓練も行われた[11]
  • 2008年(平成20年)
    • 1月11日:「桜島火山爆発総合防災訓練」に参加。衛星通信実験用端末による情報伝達実験を実施。S帯受信系異常への対策、衛星側は、測位用アンテナで代替。地上側は、 アップリンク回線(衛星受信)を成立させるために、外部アンテナの接続。
    • 1月15日:イオンエンジンのA系統南側スラスタが噴射できない異常が発生。A系統の電源部に問題が生じていることがが判明[12]
    • 1月23日:イオンスラスタをB系統に切り替えるが、B系統の南側スラスタに点火不安定現象が発生。イオンスラスタが使えない状態でも、化学燃料スラスタによって予定されたミッション期間の運用に支障がないとされた[12]
    • 7月7日:イオンスラスタB系統の北側・南側スラスタの選択ができない異常が発生し、スラスタ噴射ができなくなり、以降は化学燃料スラスタで運用を継続した[13]
  • 2010年(平成22年)
    • 1月8日:定常運用を終了し、後期利用段階へ移行[6]
  • 2011年(平成23年)
    • 1月:運用をNICTに移管し、運用及び実験を継続[14]
    • 3月24日東北地方太平洋沖地震の災害対策支援として情報通信研究機構と協力の上、岩手県大船渡市市役所に地上アンテナと可搬型通信実験端末を設置。筑波宇宙センター経由で768kbpsの衛星通信回線を接続し、市職員にインターネット接続環境を提供[15][16]
    • 4月4日:同様に災害対策支援として岩手県上閉伊郡大槌町中央公民館に地上アンテナと可搬型通信実験端末を設置。一般の被災者向けにインターネット接続環境を提供[16]
    • 4月10日:大船渡市役所への衛星通信回線の接続提供を終了[16]
    • 4月21日:大槌町中央公民館への衛星通信回線の接続提供を終了[16]
    • 4月26日宮城県女川町嵩白浜の避難所へ地上アンテナと可搬型通信実験端末を設置。一般の被災者向けにインターネット接続環境を提供[16]
    • 5月12日:地上通信系インフラの復旧にともない、女川町嵩白浜の避難所への衛星通信回線の接続提供を終了。東北地方太平洋沖地震におけるきく8号による災害対策支援が終了[16]
  • 2012年(平成24年)12月:NICTによる運用終了。JAXAの運用となり、防災利用実証実験を開始[14]
  • 2016年(平成28年)12月19日:軌道上運用10年に達し、軌道離脱開始。高度を340km上昇させる[14]
  • 2017年(平成29年)
    • 1月1日:残推薬排出を開始。排出量39.92kg[14]
    • 1月10日15時25分:停波作業を実施し、運用を終了[17]

その他

きく8号のキャッチフレーズ

大きなアンテナがひらく未来の扉、届ける安心
 —大型衛星を使った新しい携帯通信の世界へ—[18]

きく8号のシンボルキャラクター

キャラクター名称「きくはちぞう」

プロフィール(「はちぞうブログ」より)
  • 身長:伸縮自在との噂も…
  • 国籍:日本
  • 兄弟:8人兄弟の末っ子
  • 趣味:東京-種子島観光
  • 特技:大きな耳で日本全国どこの音も聞くことができる。
  • 将来の夢は、大きくなって人の役に立つこと!
  • はちぞうブログ」(2007年5月9日の更新を最後に休止中)

きく8号に関連する作品

  • 妄想科学シリーズ ワンダバスタイル 本編中に「キク8号」(清水愛)というキャラクターが登場する。名前の由来は日本の技術試験衛星「きく」シリーズからと見られている。なお、この作品の制作当時には人工衛星のきく8号は打ち上げられていなかった。

脚注

注釈

  1. 1996年の計画時点
  2. 当初12月16日の打上げを予定していたが、氷結層を含む雲が観測されたことにより、12月18日に延期されていた。

出典

  1. 技術試験衛星VIII型(ETS一VIII)の進捗状況について|第13回宇宙開発委員会 (1996年5月22日). 2026年5月4日閲覧。
  2. 1 2 3 4 5 JAXA | 技術試験衛星VIII型「きく8号」(ETS-VIII)”. JAXA | 宇宙航空研究開発機構. 2026年5月4日閲覧。
  3. 技術試験衛星VIII型搭載 高精度時刻基準装置の開発 (2000年5月). 2026年5月4日閲覧。
  4. 1 2 3 4 5 6 技術試験衛星VIII型「きく8 号」の開発と運用|通信ソサイエティマガジン NO. 3 冬号 2007”. 2026年5月4日閲覧。
  5. 1 2 大型展開アンテナ小型・部分モデル2 大型展開アンテナ小型・部分モデル2(LDREX-2)の打上げについて (2006年8月23日). 2026年5月4日閲覧。
  6. 1 2 技術試験衛星VIII型「きく8号」(ETS-VIII)定常段階終了と後期利用計画について”. JAXA (2010年6月2日). 2011年8月25日閲覧。
  7. JAXA|ETS-VIII大型展開アンテナ小型部分モデル(LDREX)展開実験の結果について”. www.jaxa.jp. 2026年5月4日閲覧。
  8. 大型展開アンテナ小型・部分モデル2(LDREX-2)の軌道上実験結果について (2006年10月25日). 2026年5月4日閲覧。
  9. 技術試験衛星VIII型(ETS-VIII:きく8号)通信系ミッション機器の異常について”. JAXA (2007年2月2日). 2011年8月25日閲覧。
  10. 技術試験衛星Ⅷ型(ETS-Ⅷ)「きく8号」の定常段階移行について (2007年5月9日). 2026年5月4日閲覧。
  11. 技術試験衛星VIII型「きく8号」実験成果中間報告”. JAXA (2007年9月5日). 2011年8月25日閲覧。
  12. 1 2 JAXA|技術試験衛星VIII型「きく8号」のイオンエンジン異常について”. www.jaxa.jp. 2026年5月4日閲覧。
  13. JAXA|技術試験衛星VIII型「きく8号」のイオンエンジン異常について”. www.jaxa.jp. 2026年5月4日閲覧。
  14. 1 2 3 4 技術試験衛星Ⅷ型 (ETS-Ⅷ)の運用終了について (2017年2月14日). 2026年5月4日閲覧。
  15. 技術試験衛星VIII型「きく8号」(ETS-VIII)による東北地方太平洋沖地震の災害対策支援における人工衛星回線の接続開始について”. JAXA (2011年3月24日). 2011年8月25日閲覧。
  16. 1 2 3 4 5 6 技術試験衛星VIII型「きく8号」(ETS-VIII)による災害対策支援”. JAXA. 2011年8月25日閲覧。
  17. 「きく8号」の運用終了について”. JAXA (2017年1月11日). 2017年1月12日閲覧。
  18. 技術試験衛星VIII型(ETS-VIII)の愛称、キャッチフレーズ、シンボルキャラクターについて”. JAXA (2006年10月21日). 2011年8月25日閲覧。

関連項目

外部リンク

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