カリーのパラドックス
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/04 11:55 UTC 版)
カリーのパラドックス(英: Curry's paradox)は、素朴集合論や素朴論理学で見られるパラドックスであり、自己言及文といくつかの一見問題ない論理的推論規則から任意の文が派生されることを示す。名称の由来は論理学者のハスケル・カリーから。
ドイツの数学者マルティン・フーゴー・レープ(Martin Hugo Löb)の名をとって レープのパラドックスとも呼ばれている[1]。
自然言語の場合
カリーのパラドックスの自然言語版は次のような文である。
- この文が真なら、サンタクロースは実在する。
この文が真であると仮定する。すると、その内容からサンタクロースが実在するということが結論として得られる。これは conditional derivation(条件付き演繹)と呼ばれる自然演繹技法を使った推論である。
つまり、この文が真であるなら、サンタクロースは実在する — これはその文そのものと全く同じである。従ってこの文は真であり、サンタクロースは実在しなければならない。
この文形を使えばどんな主張も「証明」される。これがパラドックスである。
数理論理学の場合
証明しようとしている命題を Y とし、ここでは「サンタクロースは実在する」という命題を表すとする。次に X が真であれば Y が成り立つという文を X で表す。数学的にはこれを X = (X → Y) と記し、X が自分自身を使って定義されていることがわかる。証明は以下のようになる。
1. X → X
2. X → (X → Y)
- X = X → Y であることから、1 の右辺を置換
3. X → Y
- 2 に縮約規則を適用
4. X
- X = X → Y であることから 3 を置換
5. Y
- 4 と 3 にモーダスポネンスを適用
派生として、Y が Z∧¬Z のような矛盾した形式の場合もある。この場合、X が X = (X → (Z∧¬Z)) となる。これに推論規則を適用していくと最終的に X = ¬X となり、嘘つきのパラドックスと等価である。
なお、自己言及の代わりにヤブロのパラドックスと同様の方法を用いて、X_n(nは任意の自然数)という無限個の文を考え
X_n⇔(∀m>n.(X_m⇒Y))
と定義しても、すべてのX_nが真となるため、Yが導ける[2]。
ある X_n が偽とするとある m>n についてX_m∧¬Yがなりたつことになる。当然X_mも¬Yも導ける。
しかし X_m は∀l>m.(X_l⇒Y)を意味し ¬Y ならば、すべての l>m で ¬X_l である。
そうなると、すべての l>m で X_l⇒Y が成立してしまうので X_l が成り立つ。
これは矛盾である。したがっていかなるX_nも真であり、X_nとX_n⇒Yから、Yが導ける。
素朴集合論の場合
数理論理学的には自己言及文を含まなくとも、素朴集合論では次の集合 X から任意の論理式 Y を証明できる。
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