1-メチルシクロプロペン
1-メチルシクロプロペン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/11 21:41 UTC 版)
1-メチルシクロプロペン | |
---|---|
![]() |
|
![]() |
![]() |
1-Methylcycloprop-1-ene
|
|
識別情報 | |
3D model (JSmol)
|
|
略称 | 1-MCP |
ChEBI | |
ChemSpider | |
ECHA InfoCard | 100.130.871 |
PubChem CID
|
|
UNII | |
CompTox Dashboard (EPA)
|
|
|
|
|
|
特性 | |
化学式 | C4H6 |
モル質量 | 54.09 g mol−1 |
沸点 | 12 °C, 285 K, 54 °F 概算[1] |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
1-メチルシクロプロペン (1-methylcyclopropene, 1-MCP) は、化学合成によって製造される、植物の成長制御因子である。化学構造は植物ホルモンの1つのエチレンと類似しているために、植物に影響を与える。商業的には、果実の成熟を抑えたりカットした果物の傷みを抑える用途に使われる。
化学的性質
1-メチルシクロプロペンは、C4H6の化学式を持つシクロアルケンである。常温常圧では気体として存在する。
作用機序
エチレンは常温常圧で気体として存在する。植物の一生を通じて、果実の成熟や開花、落葉等のプロセスを制御するために、エチレンは常に痕跡量でホルモンとして作用する[2][3]。1-メチルシクロプロペンの作用機序は、植物のエチレン受容体に結合して、エチレンによるシグナルが、エチレン受容体に入らないように遮断する事による[4][5]。換言すれば、植物が持つエチレン受容体に対して、エチレンが結合する事を阻害する機序を有し[6]、エチレン阻害剤として、植物に作用する。
商業利用
1-メチルシクロプロペンの商業的な利用法には、主に2つの形態が有る。1つは観賞用の植物の鮮度を保つための使用である。もう1つは、輸送中や保存中などに、果物の成熟を抑制するための使用である。どちらの使用法においても、1-メチルシクロプロペンは扱い易くするために他の物質と混合され、水や溶媒に溶かして用いられる[7]。通常は、冷蔵庫、トラック、温室、倉庫、船などの閉鎖された場所で用いられる[7]。
観葉植物の鮮度の維持
1-メチルシクロプロペンは「EthylBloc」と言う名称で、アメリカ合衆国環境保護庁から観賞用作物への使用の承認を受け[8]、切花、鉢植え、観葉植物等の枯れ、葉の黄変などの防止に用いられている[9][10]。
食用農産物の輸送・保管中の成熟防止
1-メチルシクロプロペンは「SmartFresh」と言う商品名でも販売され、農業工業に従事する農家、運送屋、船員によって、果物や野菜の鮮度を維持するために用いられている。このような方法による農作物への利用は、アメリカ合衆国や欧州連合を含む26の地域で、リンゴ、キウイフルーツ、トマト、バナナ、プラム、カキ、アボカド、メロンに対して認められている[11]。これを使用すれば、消費者にとっては、熟し過ぎていない農作物を比較的安価に入手できるという利点が有るものの、見かけよりも古い農産物を買わされてしまうというリスクも有る[12]。
研究
1-メチルシクロプロペンを用いた新たな農業技術の開発も試みられている。例えば、高温や乾燥といったストレスを受けている作物の畑に1-メチルシクロプロペンを散布すると、散布しない場合と比較して、作物は高温や旱魃に対しての耐久力が増すと判明した[13]。
出典
- ^ Daly James and Kourelis Bob, January 25, 2000. Synthesis methods, complexes and delivery methods for the safe and convenient storage, transport and application of compounds for inhibiting the ethylene response in plants. US Patent 6,017,849.
- ^ Chow B, McCourt P. (2006). “Plant hormone receptors: perception is everything.”. Genes Dev. 20 (15): 1998–2008. doi:10.1101/gad.1432806. PMID 16882977.
- ^ De Paepe A, Van der Straeten D. (2005). “Ethylene biosynthesis and signaling: an overview.”. Vitam. Horm. 72: 399–430. PMID 16492477.
- ^ Serek, M.; Tamari, G.; Sisler, E.C.; Borochov, A. (1995). “Inhibition of ethylene-induced cellular senescence symptoms by 1-methylcyclopropene, a new inhibitor of ethylene action”. Physiol. Plant 94: 229–232. doi:10.1111/j.1399-3054.1995.tb05305.x.
- ^ Sisler E.C., Serek M. (2003). “Compounds interacting with the ethylene receptor in plants”. Plant Biol. 5: 473–80. doi:10.1055/s-2003-44782.
- ^ 米本 仁巳 『熱帯果樹の栽培 ――完熟果をつくる・楽しむ28種――』 p.23 農山漁村文化協会 2009年3月10日発行 ISBN 978-4-540-08152-1
- ^ a b “1-Methylcyclopropene Fact Sheet”. epa.gov. U.S. Environmental Protection Agency. 2023年12月1日閲覧。
- ^ Jim Daly and Anne Schluter (2001). “EthylBloc - An Industry Perspective” (PDF). Perishables Handling Quarterly (108): 5 .
- ^ “What is EthylBloc technology?”. agrofresh.com. 2023年12月1日閲覧。
- ^ “EthylBloc Ethylene Inhibitor”. floralife.com. 2023年12月1日閲覧。
- ^ “SmartFresh Quality System”. agrofresh.com. 2023年12月1日閲覧。
- ^ “Europeans buying year-old apples”. Leah Vyse. 2005年12月13日閲覧。
- ^ “Syngenta-Agrofresh Alliance: New crop protection technology takes aim at row crops”. Farm Industry News. 2008年1月18日閲覧。
関連項目
1-メチルシクロプロペンと同じ種類の言葉
プロペンに関連する言葉 | プロペン 13ジクロロプロペン 1メチルシクロプロペン ポリプロペン シクロプロペン |
- 1-メチルシクロプロペンのページへのリンク