金子徹

現代俳句データベース(人名)

金子徹

金子徹の俳句

うれしさを吹いて口笛通ったよ

ここから秋です　ローカル線終点

さきがけて咲く詩へんぽん孤塁の旗

つかまえた蟹が少年の日を挟んでた

てっぺんに熟柿のように平和がある

ひとすじの火縄が奔る霜夜汽車

ぶらんこや故郷遠くなり近くなり

よれよれの神と行き交う里神楽

不登校児の開かずの窓よ蟬しぐれ

八月の空へ慟哭の喉仏

初日を指す子の指先に幸とまれ

初蝶を追って少年毀れけり

千年の呪文ほどけて蝶の羽化

噂消えてからも豌豆膨らみぬ

地球この母艦の青き危うさよ

基地の網くぐるバッタの迷彩服

墓石につきし花びら流さず帰る

安楽死出来ぬ桜が地吹雪す

定年という止まり木もある冬かもめ

富士稜線たてがみとなる雪けむり

寒たまご　掌の上に地球の重さ

寒夜火事遠からず近からず

岸辺まで来て流木のためらいぬ

後先を絶って拈華の一行詩

懐かしの蜩を聴く火焔土器

手の先に憑きものがいる阿波踊り

文庫本も我も秋陽に黄ばみいて

新緑をゆっくり回す太極拳

明け方の銀河に懸かる蟬の殻

春日だけ乗せてゴンドラ降りてくる

春月に吊り出されくる潜水艦

昼の火事蛇ゆっくりと衣脱ぐ

月光の帯　玄鯨の帰りゆく

村も都会も等温線の夏祭り

流木を焚けばどよもす夜の潮

混沌が次第に蝌蚪になってゆく

烏瓜　どの蔓引いたら踊るやろ

眠る子の野鳥図鑑や雪降りおり

終章のページをめくる法師蟬

背負ってきた昭和が重い蟬時雨

胸うちの吃水線の上がる春

自販機の缶リストラのように落つ

芯まで焦げきって向日葵の永い黙祷

花の旅終る　切符が吸い込まれ

蛇行する老いさき愉し猫柳

街の灯を引き抜いて翔つ最終便

貨車過ぎて風花息を乱しけり

追伸につくつくぼうし鳴いてます

遠蛙　活断層は夜も目覚め

郵便受けにも差し込んである鵙の声