弱化 (心理学)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/15 17:24 UTC 版)
オペラント条件づけにおける弱化(じゃっか、英: punishment)とは、ヒトや動物における行動の直後に生じる環境の変化によって、その行動が将来再び生起する可能性を低下させる作用を指す。
弱化が対象とするのは罰そのものではなく、あくまで行動の出現率である。ある刺激や出来事が弱化として機能するかどうかは、その後の行動頻度の変化によって判断される。したがって、その出来事が嫌悪的・不快的であるか否かに直接依存するわけではない。
例えば、鞭打ちは多くの人にとって行動を減少させるため弱化として作用するが、マゾヒズムの傾向を持つ者にとっては、むしろ行動を増加させる強化として機能する場合もある。
種類
オペラント条件づけにおける弱化には、大きく分けて二種類ある。
正の弱化(positive punishment)
行動の直後に嫌悪的な刺激(嫌子)が加わることで、その行動の生起率が減少する場合を指す。例として、動物への電気ショックや人への叱責がある。
例:裸足で熱いアスファルト(嫌子)を歩いたとき、足に痛みを感じる。この経験により、同じ状況で再び裸足で歩く可能性は低下する。
負の弱化(negative punishment)
行動の直後に強化子(好子)が取り除かれることで、その行動の生起率が減少する場合を指す。例として、エサ入れの撤去や子どもの携帯電話の使用の剥奪がある。
例:10代の子どもが門限を破ったとき、両親が携帯電話(好子)の使用を一時的に禁止する。この処置により門限破りの頻度が低下していく。
復帰
復帰とは、もともと強化によって維持されていた行動に対して弱化の随伴性(嫌子の出現や好子の消失)が加わり、その行動が減少した後、弱化を引き起こしていた刺激がなくなることで、再びその行動が出現する現象を指す。
たとえば、ある子どもが授業中に騒いでいたとする。そのたびに教師が叱っていたため、叱責という嫌子の出現によって騒ぐ行動は次第に減少した。しかし、その後、教師がいなくなり叱られなくなると、再び子どもは騒ぐようになる。このように、弱化をもたらしていた条件がなくなることで、かつて抑制されていた行動が再び現れることが「復帰」である[1]。
弱化子
弱化子とは、ある行動の直後に呈示され、その行動の将来の生起頻度を低下させる機能をもつ刺激のことである。例えば、交通違反をした際に科される罰金が結果的に違反行動を減少させる場合、罰金は弱化子として機能している。しかし、行動が減少しない場合には、罰金は弱化子としては機能していない。
無条件性弱化子
無条件性弱化子とは、生まれつき人が避けようとする刺激で、特別な学習をしなくても行動を減らす働きをもつ。例えば、電気ショック、怪我をしたときの痛み、強くぶつけたときの苦痛などは、自然に回避反応を引き起こすため、生存上の価値をもつ刺激として弱化子の機能を果たす。
条件性弱化子
条件性弱化子とは、無条件性弱化子や既存の条件性弱化子と対提示されることによって、弱化子としての機能を獲得した刺激である。例えば、「ダメ」という言葉が熱いものに触れようとした場面で提示され、その後に触る行動が減少すれば、この言葉は条件性弱化子として機能しているといえる。
なお、「ダメ」という言葉のように、多様な状況で弱化子として機能し得る刺激は、般性条件性弱化子と呼ばれる[2]。
参考文献
- Skinner, B. F. (1938) The behavior of organisms. New York: Appleton-Century-Crofts.
- Chance, Paul. (2003) Learning and Behavior. 5th edition Toronto: Thomson-Wadsworth.
- Holth, P. (2005). Two Definitions of Punishment. The Behavior Analyst Today, 6(1), 43- 55 BAO .
- http://www.class.uidaho.edu/psyc390/pdf/4-8-Side-Effects-and-Problems-with-Punishment.pdf
- Chance, Paul. (2009) "Learning and Behavior: Active Learning Edition." 6th edition Belmont, CA: Wadsorth/Cengage Learning
脚注
関連項目
- 弱化_(心理学)のページへのリンク