大西岩夫

現代俳句データベース(人名)

大西岩夫

大西岩夫の俳句

うたかたの夢のひとひら秋の蝶

たまゆらの香を曳く闇の沈丁花

ちとせふる苔のきざはし月と行く

ともがらと歩む夏野を幸とせむ

ひとつづつ灯の凍り来て街暮るる

をとこありひとりごちする黄落期

オホーツクの天地相寄る解氷期

コスモスの風やはらかくダム開く

サルビアの焰照りの陰の土の冷え

千段の瀧のしぶきの逆落し

国原のけぶるしづけさ豊の秋

埋め難き胸の陥穽星冴ゆる

夏落葉風の宮居に吹き乱る

大屋根をならべ寺町霧ごもる

寒林の彼方の湖が灯を映す

寒波来る夜の闇にゐて眼病む

巻き登るつるあぢさゐの春の天

憂悶の詩持つ雨の大手毬

日輪の天にとどまる落花かな

火の山へ逆る牧笛木の芽風

矢車の空鳴る夜の眼の乾き

空を退く鞦韆の音夜の白雨

簾越し運河のまちの夕そよぎ

胸うちに石積む地獄月冴ゆる

舞ふ落花時千年のものがたり

草灼くる岬のアイヌ殉難碑

身ひとつの矜持が歩む冬帽子

迫り上がる濤沸凍湖白鳥来

鉄のまち夜すがら大暑とどまれる

銀漢や天涯に浪光りあふ

闇をなす雪中深く呼ばふ声

雪を割る農夫のそびら力満つ

雪を積み積みて三代生きて来し

風化仏けうとき笑まひ炎暑中

黄連雀群れ翔つ街のさやかなる