ミルの方法とは? わかりやすく解説

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ミルの方法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/05 20:57 UTC 版)

ミルの方法(ミルのほうほう、: Mill's Methods)は、哲学者ジョン・スチュアート・ミルが1843年の著書『論理学体系』で述べた帰納の五つの方法。これらの方法は、因果関係の問題を解明することを意図している。

これらの方法のうち一致法(method of agreement)、差異法(method of difference)、そして共変法(method of concomitant variations)の三つは、イブン・スィーナーが1025年の著書『医学典範』(アラビア語: القانون في الطب Al-Qanun fi al-Tibb ; ペルシア語: قانون Qanun)ではじめて述べた。残りの二つ、一致差異併用法(joint method of agreement and difference)と剰余法(method of residues)は、ミルがはじめて述べた。

五つの方法

一致法

調査対象の現象について、二つ以上の事例が共通する状況が一つしかない場合、その事例がすべて一致する唯一の状況こそが、その現象の原因(あるいは結果)である。

ある特性が効果の必要条件であるためには、その効果が存在する場合には常に存在していなければならない。したがって、効果が存在する事例に注目し、検討対象の「可能性のある必要条件」のうち、どの特性が存在し、どの特性が存在しないかを記録することに関心を持つ。明らかに、結果が存在する場合に欠けている特性は、結果の必要条件となり得ない。

一致法は次のように表せる:

A B C D は w x y z と同時に発生する

A E F G は w t u v と同時に発生する

——————————————————

このとき A は w の原因、あるいは結果である。

例として、構造的に異なる二つの国を考える。国Aは旧植民地であり、中道左派政権を有し、二層政府からなる連邦制を採用している。国Bは植民地経験がなく、中道左派政権を有する単一国家である。両国に共通する要因、すなわちこの場合の従属変数は、国民皆保険制度を有している点である。

これらの国々について既知の要因を比較すると、両国間で唯一一定である要因であり、かつその関係性を裏付ける理論的根拠が確固としていることから、普遍的医療制度をもたらす独立変数は中道左派政権であることであると結論づけられる。社会民主主義(中道左派)政策には普遍的医療制度が含まれることが多いと言える。

差異法

調査対象の現象が発生する事例と発生しない事例が、一つの要素を除いて全ての状況を共有し、その要素が前者のみに現れる場合、両事例が唯一異なるその要素こそが、現象の効果、原因、あるいは原因の不可欠な部分である。

差異法は次のように表せる:

A B C D は w x y z と共起する

B C D は x y z と共起する

——————————————————

このとき A は w の原因、あるいは結果、あるいは原因の一部である。

例として、二つの類似した国を考える。国Aは中道右派政権、単一国家体制を有し、かつて植民地であった。国Bは中道右派政権、単一国家体制を有するが、植民地経験はない。両国の差異は、国Aが反植民地主義を積極的に支持する一方、国Bは支持しない点にある。差異法では、独立変数を「植民地経験の有無」、従属変数を「反植民地主義への支持度」と特定する。これは、比較対象となる二つの類似国において、両者の差異が「かつて植民地であったか否か」という点に集約されるためである。この差異が従属変数の値の違いを説明し、植民地経験のある国は植民地経験のない国よりも脱植民地化を支持する傾向が強いことを示している。

共変法

ある現象が特定の方法で変化するたびに、別の現象が何らかの方法で変化する場合、その現象は当該現象の原因または結果であるか、あるいは何らかの因果関係を通じてそれに関連している。

共変法は次のように表せる(±は変化を表す):

A B C は x y z と同時に発生する

A± B C は x± y z を生じさせる

—————————————————————

このとき A と x は因果関係にある。

ある現象を引き起こす一連の状況において、その現象の特性が状況に存在する何らかの因子と連動して変化する場合、その現象はその因子と関連付けられる。例えば、様々な場所で採取された水が有毒であると判明したとする。水は塩と鉛の両方を含んでいる。この毒性の程度が鉛の濃度と連動して変化する場合、その毒性は鉛の量に起因すると帰属できる。

他の四つの方法と異なり、共変法では、いかなる状況も排除されない。ある要因の大きさを変化させると、別の要因の大きさも変化する。

一致差異併用法

現象が発生する二例以上の事例が共通して持つ状況が一つだけである一方で、現象が発生しない二例以上の事例がその状況の欠如以外に共通点を持たない場合、二組の事例が唯一異なる状況こそが、その現象の効果、あるいは原因、あるいは原因の必要不可欠な部分である。

一致差異併用法は次のように表せる:

A B C は x y z と共起する

A D E は x v w と共起する

F G は y w と共起する

——————————————————

このとき A は x の原因、または結果、あるいは原因の一部である。

この原理は「間接的差異法」とも呼ばれる。二つの合致法を組み合わせたものである。

剰余法

あらゆる現象から、先行する帰納が特定の先行条件の結果になるとして既知の部分を除去すれば、その現象の残余部分は残りの先行条件の結果である。

剰余法は次のように表せる:

A B C が x y z と共起する

B は y の原因として知られている

C は z の原因として知られている

——————————————————

このとき A は x の原因または結果である。

ある一連の要因が、ある一連の現象を引き起こすと考えられる場合、その要因のうち一つを除いてすべてを、現象のうち一つを除いてすべてと対応させることができれば、残された現象は残された要因に帰属させることができる。

参考文献

  • Lenn Evan Goodman (2003), Islamic Humanism, p. 155, Oxford University Press, ISBN 0195135806
  • Lenn Evan Goodman (1992), Avicenna, p. 33, Routledge, ISBN 041501929X
  • Copi, Irving; Carl Cohen (2001), Introduction to Logic, Prentice Hall, ISBN 0130337358

外部リンク

  • Causal Reasoning – いくつかの具体例を見ることができる。(英語)



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