アーケン石とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > アーケン石の意味・解説 

アーケン石

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/31 09:59 UTC 版)

ナビゲーションに移動 検索に移動

アーケン石(Arkenstone)は、J・R・R・トールキン中つ国を舞台とした小説、『ホビットの冒険』に登場する宝玉である。

『ホビットの冒険』におけるアーケン石

ドワーフトーリン・オーケンシールドの先祖であるドゥリンの一族英語版の王、スライン1世(第三紀1934 - 2190年)が、エレボール英語版(はなれ山)の底根で発見した、白く輝く大きな宝石で、山の精髄(the Heart of the Mountain)と呼ばれている。ドゥリンの一族の家宝として伝えられてきたが、ドラゴンスマウグがエレボールを襲った時(第三紀2770年)、アーケン石もドワーフたちの他の財宝と同様、スマウグに奪われた。

トーリン・オーケンシールド率いるドワーフたちは、ホビットビルボ・バギンズと共に、先祖の宝をスマウグから奪回するためにエレボールへの遠征を行ったわけだが、トーリンが何にもまして取り戻したいと熱望していたのが、このアーケン石であった。

トーリンはアーケン石を次のように描写している:

「アーケン石、ああ、アーケン石よ!」とトーリンは、夢みるようにひざの上にあごをのせて、くらやみのなかでつぶやきました。「千の切りだし面をもった大きな球じゃった。火をうければ白銀のごとく、日の光にかざせば水のごとく、星々の下で見れば雪のごとく、月の光をあびて雨のごとく、かがやいたものよ。」[1]

アーケン石をスマウグの財宝の山の中から発見したのは、ビルボであったが、彼が近づくにつれてその白い輝きは増し、ぼうと青白い光を放った。「ビルボのたいまつの火のゆらめきにはえて、石のおもては、虹のようにちらちらとさざなみだつあらゆる色あやに彩られ」、「このアーケンの石は、その上に落ちるあらゆる光をおさめて、虹の多彩をまじえたさんぜんたる白光の千万の滝にかえてしまう」のだった。[2] この石の魔力にひかれて、ビルボの手は石へとのびた。彼の小さな手では覆うことができない大きさであり、また重くもあったのだが、彼は目を閉じると石を持ち上げ、自分のポケットの奥深くへとしまい込んだ。そして、トーリンが何よりもこの石を欲していることを知りながらも、この重大な発見を秘密にしていた。

スマウグは、怒りの矛先を湖の町エスガロス英語版にも向け、甚大な被害を与えるが、バルドによって射殺される。この竜退治の勇者バルドが、湖の町を代表してドワーフたちにスマウグの宝の分配を求めると、ドワーフたちはこれを拒絶する。この紛糾を解決すべく、ビルボは山に立てこもったドワーフたちの元をこっそり抜けだし、アーケン石をバルドに差し出す。トーリンが「黄金の川もおよばぬ」と言い、また「トーリンの命」[3]であるこの石を、ドワーフたちとの交渉に使ってもらいたいと申し出たのであった。

バルド、エルフ王スランドゥイル、そしてガンダルフは、これをドワーフたちとの取引の切り札として提示するが、トーリンたちのもとには親族の鉄の足ダインも援軍に加わり、宝をめぐる紛争は戦いへと転じたのだが、その直後にゴブリンとワーグの急襲を受け、ドワーフたちは一転、エルフと人間と共に共通の敵であるゴブリンとオオカミと戦う。この五軍の合戦において、トーリンは致命傷を負い、落命した。 トーリンは山の奥底深くに葬られ、トーリンの亡骸の胸には、バルドの手により、アーケン石が置かれた。

「山がくずれるまで、その胸にいこわせよう!」とバルドがいいました。「ここに住むトーリンのともがらに、のちのちまでよい幸せをもたらすように!」[4]

アーケン石 (Arkenstone) の語源

Arkenstoneの語源は、古英語eorclanstān「宝石」である[5] [6]。この古英語の単語は、eorcnan-, eorcan-, earcnan-といったヴァリアントがあるが、『ベーオウルフ』の第1208行に使われている(eorclan-stānas)。

また、キュネウルフによる古英語詩『キリスト 第一部英語版』では、earcnanstān「宝石/聖なる石」という語が使われており、古英語のeor-は現代英語においてear-と変化するのに対して、ear-で始まる語はar-となることから、ジョン・D・ラトリフ英語版は、トールキンのArkenstoneの語源は、『ベーオウルフ』のeorclan-stānasよりも『キリスト 第一部』のearcnanstānの可能性が高いと指摘している。

古ノルド語の『古エッダ』の『ヴォルンドルの歌』におけるiarknasteinaも同語源である。 ヤーコプ・グリムの『ドイツ神話学英語版』第3巻 (1844年版)において、グリムはゴート語aírkna-stáinsaírknisは「神聖な」の意)と古高ドイツ語erchan-steinが対応すると述べており、「乳白色の卵形のオパール」ではないかと言っている[7]。 トールキンはドワーフたちの名前を の『古エッダ』の冒頭の『巫女の予言』から採っているので[8]、古ノルド語の形を英語化したものと考えることも可能である[9]

アーケン石に関する考察

アーケン石は、初期の原稿においては、「ギリオンの宝石」(the gem of Girion)となっていた[10]

ダグラス・アンダーソンおよびジョン・ラトリフが指摘しているように[11] [12]、『ホビットの冒険』のアーケン石と『シルマリルの物語』の宝石シルマリルは、非常に似通った描写をされている。

地の底最も深く設けられた宝庫の闇の中にあってさえ、シルマリルはそれ自身の光で、あたかもヴァルダの星々の如く輝いたのである。しかもなおシルマリルは、まことに生けるものであるが故に、光を喜び、受けた光を照り返し、さらに陸離たる光彩を放つのであった[13]

トールキンは、自らの神話作品The Earliest Annals of Valinorの古英語のヴァージョンを書いているが、この中で、アーケン石の語源であるeorclanstānasという単語を、シルマリルの宝石に用いている[14]

ゴート語のaírkna-stáinsの「聖なる石」という概念は、シルマリルにも相当するものである。 また、シルマリルに対するフェアノールの激しい所有欲と、アーケン石に対するトーリンのそれとも共通し、両者の悲劇の元となっている。 『ホビットの冒険』の執筆時において、トールキンが自らの神話作品のシルマリルをアーケン石として「引用」したという解釈もある[15]

またラトリフが指摘しているように、『ホビットの冒険』においてビルボがアーケン石を偶然発見し、ポケットに収めた行為は、ビルボの指輪発見の状況とも共通している。『ホビットの冒険』における指輪は、ゴクリの執着ぶりにその片鱗が認められるものの、『指輪物語』におけるような抗しがたい所有欲を引き起こし、影響力を振るうものではない。『ホビットの冒険』でアーケン石に与えられたその魔力が、『指輪物語』における指輪に引き継がれたと解釈することもできる[16]

脚注

  1. ^ 瀬田 2000, p. 124
  2. ^ 瀬田 2000, p. 135
  3. ^ 瀬田 2000, p. 202
  4. ^ 瀬田 2000, p. 241
  5. ^ Anderson 2003, pp. 293-294
  6. ^ Rateliff 2007, p. 605
  7. ^ Grimm & Stallybrass 1883, p. 1217
  8. ^ Anderson 2003, pp. 77-78
  9. ^ Rateliff 2007, pp. 605-606
  10. ^ Rateliff 2007, p. 525, passim.
  11. ^ Anderson 2003, p. 294
  12. ^ Rateliff 2007, pp. 603-609
  13. ^ 田中 1982, p. 102
  14. ^ Tolkien n.d., p. 282
  15. ^ Rateliff 2007, pp. 603-609
  16. ^ Rateliff 2007, p. 373

参考文献

  • Anderson, Douglas (2003), The Annotated Hobbit, London: Harper Collins .
  • Grimm, Jacob; Stallybrass, tr. (1883), Teutonic Mythology, vol. III .
  • Rateliff, John D. (2007), The History of The Hobbit: Part Two: Return to Bag-End, Boston and New York: Houghton Mifflin Company .
  • Tolkien, Christopher, ed. (n.d.), The Shaping of Middle-earth, The History of Middle-earth, IV .
  • 瀬田, 貞二 訳 (2000), J. R. R. トールキン 『ホビットの冒険』, 岩波少年文庫 059, 下巻, 岩波書店 .
  • 田中, 明子 訳 (1982), J. R. R. トールキン 『シルマリルの物語』, 上巻, 評論社 .

「アーケン石」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「アーケン石」の関連用語

アーケン石のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



アーケン石のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのアーケン石 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS