財政赤字 地域別にみた財政支出と税負担

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財政赤字

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/26 14:35 UTC 版)

地域別にみた財政支出と税負担

行政サービスの受益と負担

90年代以降、税収が低調に推移する一方で、財政支出が増加傾向をたどっている結果、国と地方の財政赤字が拡大してきている。そうした国と地方の財政支出と税収の動向を地域別にみた場合、どのような特徴があるのだろうか。各地域の住民にとっては、国と地方公共団体の財政支出は、行政サービスの「受益」であり、国税と地方税の税負担は、行政サービスを受けるための「負担」であると考えられる。以下では、47都道府県別に、住民1人あたりの受益と負担を定量的に分析する。

地域住民の受益と負担の計測

分析の手法は、次の通りである。まず、国と地方公共団体が行う政府活動によって各地域に支出される財政支出額を、地域住民が受けた行政サービスからの「受益」として推計した。その一方で、国及び地方公共団体に対して地域住民が支払っている税金や使用料・負担金を、行政サービスの「負担」として推計した。なお、国税については、税の徴収の仕組み上の制約から都道府県ごとの税収の帰属を正確に把握できず、個別の税収総額を一定の仮定に基づき配分している。こうした推計をもとに、「受益超過」(=「受益」-「負担」)や「受益・負担比率」(=「受益」÷「負担」)を算出した。分析は、47都道府県の地域別に行い、異なる都道府県間での比較を行う観点から、人口1人あたりの受益と負担を用いている。分析の対象期間は、80年度、85年度、90年度、95年度、98年度の5時点をとり、各地域の受益と負担の関係が過去20年間で、どのように変化してきたかを検証した。

ここでの分析結果を解釈する場合、次のような点に留意する必要がある。第1に、行政サービスの中には、規模の経済性が働いて、人口密度の高い大都市圏では、地方圏よりも、住民1人あたりについて低いコストで、同一水準のサービスを提供することができる場合がありうる。そのような行政サービスについては、仮に大都市圏の住民と地方圏の住民が同一のサービスを受益していても、ここで推計される1人あたり受益額は、大都市圏の方が地方圏よりも小さくなる。第2に、地方圏に立地している産業廃棄物処理場、発電所、水源としてのダムなどは、大都市圏の住民に大きな便益をもたらしているが、ここではそうした意味での受益と負担は考慮していない。第3に、国と地方の歳入には、税金や使用料・負担金の他に、公債や財産収入などの諸収入や前年度からの繰越金などが含まれているが、それらの収入はここでは「負担」として計上していない。そのため、全国ベースで受益が負担を上回る傾向にあることに留意する必要がある。

受益と負担の動向

98年度における受益額を都道府県別にみると、受益額の大きい5県の平均(120万円)と小さい5県の平均(76万円)との比率は、1.6倍である。次に、負担額を都道府県別にみると、負担額の大きい5県の平均(86万円)と小さい5県の平均(52万円)との比率は、1.7倍である。

さらに、受益超過(=受益-負担)の額を都道府県別にみると、上位5県の平均は63万円であり、47都道府県中、45団体がプラスとなっている。受益超過がマイナスとなっている、すなわち受益より負担の方が多い負担超過となっているのは、2団体のみとなっている。

また、人口密度の高い大都市圏では、規模の経済により1人あたり行政コストが割安になる一方、人口密度の低い地域においては割高になるため、全体的にみると、1人当り県民所得が高い地域ほど、受益が少なく、負担が多い、したがって、両者の差し引きである受益超過(=受益-負担)が少なくなるという傾向がある。

受益と負担の地域間のばらつきの動向

次に、こうした各地域の受益と負担の関係が、過去20年間でどのように変化してきたのかを受益・負担比率(=受益÷負担)でみてみる。

まず、全国平均の受益・負担比率の動きをみると、国・地方をあわせた財政収支の動向を反映して、80年度からバブル時の90年度にかけて37.0ポイント低下したが、90年代に入ると逆に33.9ポイント上昇している。90年代に受益・負担比率が大幅に上昇したのは、国税を中心とする税収の大幅な落ち込みにより負担が減少した一方で、累次の景気対策等による地方公共団体の支出の増加や、国から地方への財政移転の増加により、受益額が24.4%増と大幅に増加したためである。

次に、これを地域別にみると、受益と負担の地域間のばらつきは90年代に入り拡大したことが分かる。受益・負担比率が高い5団体と、受益・負担比率が低い5団体の動きを比較してみよう。なお、受益・負担比率が高い団体は、相対的に1人あたり所得が低い地域であり、受益・負担比率が低い団体は1人あたり所得が高い地域である。

80年代には、両グループの受益・負担比率はともに低下しているものの、相対的に受益・負担比率が高い5団体の低下幅が大きい。90年代には、受益・負担比率が高い5団体の受益・負担比率が大幅に上昇したのに対し、受益・負担比率が低い5団体の受益・負担比率の上昇幅は小幅に止まり、90年代後半(95~98年度)にはほぼ横ばいで推移している。

さらに、このような地域間のばらつきの拡大が、受益と負担のどちら側の要因で生じたのかをみてみよう。受益・負担比率が高い5団体では、90年代に負担が低下している一方、受益の伸びは、80年代とほぼ同じ水準を維持した。これに対し、受益・負担比率が低い5団体では、負担の伸びが低下するのに伴って、受益の伸びも大きく低下しており、90年代後半にはマイナスの伸びになった。このことから、受益・負担比率が高い5団体と受益・負担比率が低い5団体の間において、90年代に受益と負担の地域間のばらつきが拡大したのは、受益・負担比率が高い5団体における受益の伸びが高かったためであることが分かる。




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