船橋市西図書館蔵書破棄事件 廃棄の露見と市の調査

船橋市西図書館蔵書破棄事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/04 13:42 UTC 版)

廃棄の露見と市の調査

このAの所業は、翌2002年(平成14年)4月12日付けの産経新聞1面にて報道され露見することになる[19][20]。最初の報道は船橋市西図書館に収蔵されていた「つくる会」会員の著書102冊のうち68冊が廃棄処分されていたことが発端であり[5]、その後廃棄された本が他にもあることが解明されていった[19]

第一報では著者Bの収蔵本44冊中43冊が、著者Cの収蔵本58冊中25冊の廃棄処分を報じるものであった[5]。図書館側と市教育委員会はただちに記者会見を開催したものの、廃棄処分は『規定に沿った適正なものである』と報告した[7]。しかし、市の規約に照らし合わせて不審な点があるのは明らかであった[7]。続いて市側は、『本の処分は夏休みの忙しい中での事故である』、『受付カウンターが忙しくて込み合っていて、間違って廃棄処分してしまった』という主張に変化した[2]。市の調査とは別に、日本図書館協会および図書館問題研究会も個別に調査を始めると[7][1]、今度は市側は『「つくる会」会員の著書を意図的に廃棄処分したのは事実だが、その理由は判らない』という玉虫色の報告に転じた[7]。船橋市教育委員会の調査は、2002年4月13日から23日にかけて実施され[9][19]、臨時職員や退職済みの職員も含めて合計22人の事情聴取が行われた[9]

その他の問題行為

  • Aが執筆した童話絵本『ぬい針だんなとまち針おくさん』を、船橋市立図書館が35冊も購入し所蔵していたことが明らかになっている[21]。これはベストセラーである『世界の中心で愛を叫ぶ』(23冊)や『負け犬の遠吠え』(16冊)よりも多かった[注釈 2]。またAが翻訳した『メリーゴーランドがやってきた』も32冊が所蔵されていた[注釈 3][注釈 4]
  • この事件の調査中にも、服部公一著作の「作曲入門」という本が寄贈された当日に除籍されたり[注釈 5]、女性に人気がある『刺繍の入門実用書』が購入の1週間後に除籍されるなど、不審な処置が次々と明るみにされた[22]。図書館長は『刺繍の入門実用書』については、掲載されている刺繍のデザインの1つにヌードをイメージしたものがあり担当者[注釈 6]が気にくわなかったのだろうと述べた[22]

Aの証言

Aは上記の船橋市教育委員会による事情聴取に対して、当初は関与を否定するとともに「何で右の本が多いのか。左からの反対の声も上がるのではないか。したがって選書のあり方も問題だろう。」などと供述していた[9]。しかし他の職員の証言との矛盾点を指摘されると最終的には、2001年(平成13年)8月10日、14日、15日、16日、25日および26日の6日間に、西部邁の著書36冊、渡部昇一の著書22冊、西尾幹二の著書9冊、福田和也の著書11冊などの合計107冊の図書を除籍したことを認めた[1][9][7]。 同聞き取り調査で、Aは特定の著者の図書を一時期に大量に廃棄するに至った経緯について、次のように述べた[1]

利用者から新しい歴史教科書をつくる会が作成した教科書についての問い合わせがあり、それを調べる目的で関係図書を集めたところまでは覚えている — 平成14年(2012年)第2回船橋市議会定例会会議録(第4号・3)

Aは同聞き取り調査で、臨時職員らに命じて「つくる会」のメンバーの本を集めさせたことは認めたが、個人的な思想を背景として図書を廃棄したことを否定した[1]。ではなぜ廃棄をしたかについては理由は説明できないと述べた[1]。また市側も数々の証言がありながら、廃棄の原因や意図についてはAの独断としつつも『動機は不明』として最後まで踏み込んだ判断をしなかった[9][23]


注釈

  1. ^ 廃棄された本のリストは、「正論」の平成14年6月号に掲載されている。なお、この「正論」の紙面を元に再構成した資料が、「ず・ぼん」2005年(平成17年)11月号に掲載され、こちらで公開されている
  2. ^ 2018年(平成30年)現在でもこのAの本は、船橋市図書館全体で19冊蔵書されているが、問題が起きた船橋市西図書館では1冊のみが残されている。2018年(平成30年)2月1日蔵書確認
  3. ^ 2018年現在でもこのAの翻訳本は、船橋市図書館全体で29冊も蔵書されている。2018年2月1日蔵書確認
  4. ^ 一方でAが図書館を離れた後の著書については1冊も収蔵されていない 2018年2月1日蔵書確認
  5. ^ 服部公一 「作曲入門」 私の創作現場から 講談社 現代新書 ISBN 978-4061456822 問題を指摘された報道ののちに再購入されている。2018年2月1日蔵書確認
  6. ^ この担当者がAであるかどうかは出典では明示されていない
  7. ^ 6か月にわたり給与の10%をカットするという意味
  8. ^ 坂本多加雄は一連の裁判の途中で故人となったために原告を8人ではなく7人とする出典もある
  9. ^ 東京地方裁判所は、Aが公衆の面前で原告らの本を積み上げて火を放つなどの方法で著書を処分していれば、公然性の高い行為なので原告らとAの関係においても違法性を問うことが出来るとも説明している
  10. ^ 適切な公費出費であったかというのは別の問題であるとしている

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 平成14年第2回船橋市議会定例会会議録(第4号・3)
  2. ^ a b 産経新聞(千葉版)2012年(平成14年)4月21日 船橋市西図書館大量廃棄 全容解明どこまで
  3. ^ a b c d e 【視点】船橋焚書事件 最高裁が初判断 図書館の公共性強調 産経新聞 2005年(平成17年)7月14日 大阪夕刊 14頁 第2社会 (全533字)
  4. ^ a b c d e f g h i j k 船橋焚書事件 「つくる会」逆転勝訴 最高裁差し戻し 独断廃棄は利益侵害 産経新聞 2005年7年14日 大阪夕刊 1頁 総合1面 (全1,124字)
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m 損害賠償請求事件 最高裁判所第一小法廷平成16年(受)第930号 平成17年7月14日判決 判決文
  6. ^ a b c d e f g h i 図書館問題研究会常任委員会 「船橋市西図書館の蔵書廃棄問題について(見解)」2002年5月28日 2018年1月30日閲覧
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 船橋西図書館の蔵書廃棄事件を考える」『ず・ぼん』2005年11月号、ポット出版。 
  8. ^ 国立図書館著者情報および著書での本人紹介文より
  9. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag 平成15年9月9日判決言渡 平成14年(ワ)第17648号 損害賠償請求事件 東京地方裁判所 判決文
  10. ^ 読書/“小さな生命”たちの瞳輝く21世紀へ/「子ども読書セミナー」開催/浜四津代行、講師の土橋さんら/読み聞かせの大切さ訴え/党プロジェクトチーム 2000年(平成12年)4月25日 公明新聞 2頁 (全885字)
  11. ^ a b 著書の筆者紹介文の内容より
  12. ^ 国立国会図書館サーチ参照(URLは敢えて示さない)
  13. ^ 読んで聞かせ、心の会話を A・図書館司書 朝日新聞 1989.06.28 東京朝刊 19頁 1家庭
  14. ^ 子どもに読書の楽しさ伝えよう/党子ども読書運動プロジェクトチーム この1年の取り組みから/多彩な活動に広がる共感の輪 2001.03.09 公明新聞 3頁 (全2,641字)
  15. ^ ウイメンズナウ/“女性の時代”へ大きく前進/頑張りましたこの一年 活動ピックアップ 2000.12.28 公明新聞 6頁 (全2,046字)
  16. ^ 図書館司書/Aさんの講演から/子どもに読書の楽しさを/本は成長の糧に、読み聞かせで出会いつくって 2000.05.02 公明新聞 4頁 (全2,154字)
  17. ^ a b (声)図書館の本を廃棄した心は 朝日新聞 2005.07.18 東京朝刊 6頁 オピニオン2 (全473字)
  18. ^ 『草原に雨は降る』(子どもの本だな) 1989.04.25 朝日新聞 東京朝刊 17頁 1家 写図有 (全1,575字)から 「出合い狭める対象年齢の表記」(子どもの本だな) 1991.04.03 朝日新聞 東京朝刊 19頁 1家 写図有 (全2,906字)まで
  19. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab 山家篤夫「船橋市西図書館の蔵書廃棄事件について(対応報告)」社団法人日本図書館協会図書館の自由委員会委員長 2007年5月20日 2018年1月30日閲覧
  20. ^ 西部、渡部両氏の著書68冊 市立図書館が廃棄 産経新聞 2002年4月12日
  21. ^ 2002年(平成14年)4月同図書館検索サービスで蔵書確認
  22. ^ a b 船橋市西図書館 実用書7日で除籍 産経新聞(千葉版)2002年(平成14年)5月6日
  23. ^ 産経新聞 2012年5月11日 船橋市西図書館大量廃棄 「女性司書の独断」 船橋市西図書館大量廃棄 「女性司書の独断」市が調査報告 明確な理由はなし
  24. ^ 船橋市西図書館著書廃棄 刑事告発を市長に要請 産経新聞(千葉版) 平成14年6月4日
  25. ^ 『焚書坑儒のすすめ エコノミストの恣意を思惟して』ミネルヴァ書房、2009年11月。ISBN 978-4-623-05621-7 
  26. ^ SAPIO 2002年(平成14年)5月22日号
  27. ^ ず・ぼん11 タイトル一覧
  28. ^ 小泉内閣メールマガジン 第46号(2002年5月16日付)編集後記
  29. ^ 船橋市西図書館の大量廃棄 抗議集会に市民80人 産経新聞(千葉版) 2002年4月21日
  30. ^ 国会図書館サーチ @韓国・朝鮮語の本−2437 2018年1月31日閲覧
  31. ^ 国会図書館サーチ おおきなポケット 2004年5月号 2018年(平成30年)1月31日閲覧
  32. ^ a b ててちゃん―おやこで あそぼう わらべうた (幼児絵本シリーズ) 福音館書店 ISBN 978-4834023374
  33. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 丹治則男『ジャーナリズムの課題』DTP出版 2007年 ISBN 978-4862110459
  34. ^ (社説)蔵書廃棄 自由の番人でいる重さ 朝日新聞 2005年(平成14年)7月15日 東京朝刊 3頁 3総合 (全1,086字)






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