体内受精 由来

体内受精

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/06 08:15 UTC 版)

由来

体内受精は、生殖器も複雑であるし、その意味でも高度な進化の結果と考えられがちである。しかし実際には上記のようにひどく広範囲の動物群に見られる。それらを見ると、交尾器の形はさまざまで、必ずしも相同なものではないようである。たとえば軟骨魚類のそれは尻びれの変形であるが、対鰭は無顎類より後に発達したものであるから、その体内受精の仕組みはそれ以降に発達したものであるはずである。つまり、多くの分類群でそれぞれ独自に出現したものと考えられる。また、体外受精を行う群の中にも例えば魚類ではグッピーなどの卵胎生魚など、散発的に体内受精化するものが見られる。

陸上生活との関連

体内受精は、一般の事典などでは陸上動物の特徴とされている。精子は水中でしか移動できないから、陸での受精は体内受精しかないのは確かで、恐らく陸上生活への進化の過程で、体外受精から体内受精へと進化したものが多々あったであろう。例えば昆虫のトビムシや、クモ綱各目における精包受け渡しのあり方などにそれがうかがえる。これらは陸上に進出した分類群の中でも歴史が古いことが知られている。

鋏角類では現在も水中生活であるカブトガニ類が体外受精で、雌の背後からしがみついた雄が、雌の産卵に合わせて放精する。陸上生活のクモ綱ではサソリを始め多くの目では雌雄がペアを組み、雄が地表に精包を置き、雌をそこに誘導して拾わせる。クモ目では雄の触肢に交接器が発達し、これに精子を貯めて雌の性器に挿入する。ザトウムシ目では真正の交尾が行われる。

しかし他方、水中生活の中で体内受精を行っているものも実は多数ある。甲殻類の場合、陸上進出も行っているが、水中生活のものもしっかり体内受精である。特に脊椎動物では魚類と両生類は体外受精、爬虫類、鳥類、哺乳類は体内受精ということもあり、陸上生活への適応と見なされやすい。しかし、軟骨魚類は体内受精である。また、両生類の場合、体外受精なのは実はカエル類のみであり、有尾類の大部分と無尾類は体内受精である。したがって、さまざまな動物群における体内受精を単純に陸上生活への適応と考えるのは誤りであろう。

適応的意味

体内受精の利点として考えられるものには、まず精子の量の節約が上げられる。精子は卵より小さいから、はるかに多数を生産できるが、原理的には卵一個に対して一個あれば受精できるし、現実的にはその数百倍もあれば十分である。しかし、実際には体外受精では卵が水中に散らばる体積一杯に広がるには、さらに多くを放出しなければならない。しかし、体内受精であれば卵が散らばらないから、精子は最低限の必要量だけで済む。これは、少なくとも雄のエネルギー消費の観点からは有利である。

もう一つ、雄にとって子供が確かに自分の子であることを保証できる面もある。体外受精ではこれは容易でなく、多数がまとまって行う場合は論外としても、ペアを作って身を寄せ合った場合でも、卵は開かれた空間で受精するから、他者の精子が入り込む可能性がある。それをねらった行動として、ストリーキングやスニーキングという行動がある。それに対して体内受精では雌体内に精子を送り込むのにそれなりの手順が必要だから、知らないままに他者の侵入を許すという風にはならない。

ただし雌が複数の個体と交尾すればこの限りではない。それで、そのようなことを防ぐ方法を進化させているものもある。たとえばトンボにおいては多くの種が交接の後、産卵に至るまで雄が雌を確保し続ける。言わば浮気防止策であるが、類似の行動は多くの動物で見られる。さらにある種のチョウでは、交尾後に雄が分泌物で雌の生殖孔を交尾不能な状態にする。往々にしてこれは貞操帯と言われる。鉤頭動物でも同様な現象が知られている。

また、親による子の保護の形として、親が卵を体内で保育する例(胎生や卵胎生など)があるが、この場合にも多くの場合に体内受精が行われる。ただし、一旦は体外受精した後に、改めて体内に取り込む例もあり(コモリガエルなど)、必ずしも体内受精が必須ではない。

その他

左右相称動物で最も下等なものと見なされている扁形動物は、その内臓器官は単純であるのに、体内受精が発達しており、よく発達した性器が見られる。無腸類など、ろくに内臓もないのに、生殖器はしっかりあるから不思議である。このような点に疑問を持つ向きもある。たとえば無腸類が最初の多細胞動物であるとする説(繊毛虫類起源説)があるが、この説では繊毛虫様の単細胞多核の生物がその起源であったとする。繊毛虫の接合は独特で、隣接した細胞間で、それぞれの細胞で減数分裂によって形成された核を互いに交換する。それを雌雄同体の動物が互いに精子の交換をするのと等価と見なし、繊毛虫が多核化した際に、これが体内受精の形になったとする。つまり、当初から体内受精であったから、その器官が発達していると考えるのである。ただし、この説の基礎である繊毛虫と後生動物との類縁性が現在では認められていない。また、シュテンプケは渦虫綱のもの、少なくとも三岐腸類が脊椎動物(哺乳類鼻行目の地鼻類)に由来するとの考えを示唆している(ただし創作である)。








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